フーローノワール
原名:Fourreau Noir
種類:オード・パルファム
ブランド:セルジュ・ルタンス
調香師:クリストファー・シェルドレイク
発表年:2009年
対象性別:ユニセックス
価格:日本未発売(75ml/€260)

喪服を着た未亡人の誘いによろめいてしまう香り

©Serge Lutens

白いホルターネックドレスやシースドレスは、圧倒的な存在感を放つ。トンカビーンとインセンスの香りのレザーのような質感は、暗闇や夜になってこそ真価を発揮する。あらゆる悪徳と美徳をすべて併せ持つ、黒いシースドレスだ。
「フランス語で『フーロー』とは、短剣の鞘を意味すると同時に、体にぴったりとフィットするドレスのことでもある……未亡人のふくよかに官能的な曲線を抱きしめる準備ができている。バニリンを抽出するために使われる茶色の豆をご存知でしょうか? その名はトンカビーン。アマゾンの熱帯雨林に自生する木に豊富に実る。甘く滑らかなその香りは長く残り、その痕跡を刻み続ける」
セルジュ・ルタンス公式サイトより
2009年9月1日にセルジュ・ルタンスより、パレ・ロワイヤル本店限定の香りとして発売された「フーローノワール」。〝フーロー〟とはフランス語で〝鞘〟の意味であり、短剣が入る鞘のように身体にフィットするドレスのことを指します。
鞘に収められた短剣と、未亡人になったばかりの熟れた女性の肉体を包み込む黒いシースドレスの両方をイメージしたこの香りの真の名は「喪服ドレスを着た女」です。静かなる官能性を漂わせるオリエンタル・フゼア・グルマンの香りは、クリストファー・シェルドレイクにより調香されました。
ここでひとつこの香りのヒントとなるひとつの事実を記載するならば、セルジュ・ルタンスにとって、最も強烈な少年時代の想い出は、再婚したときに母親が身につけていた黒のウエディングドレスであり、言い表せない絶望を感じたのでした。
ウエディングドレスを着ていた女性が、次の日、喪服を着る香り

『黒衣の花嫁』(1967)のジャンヌ・モロー。
フレッシュで清らかな純白のラベンダーのすぐ後にやって来る、艶やかに妖しく黒く光るトンカビーンの〝禁断の情事〟からこの香りははじまります。それはまるで、純白のウエディングドレスを着ていた女性が次の日に、漆黒の喪服を着ているようです。対極の存在を結び付けるほのかなパチョリによって、どこか誘うような官能的な気配を最初から容易に感じ取ることが出来ます。
すぐにミルラとアンバーに漬けこまれたアーモンドがとろけてゆきます。そして情景はだんだんと喪服も脱ぎ捨て、全裸でベッドルームを闊歩する女性のしなやかな獣のような、メープルシロップのように甘くもスモーキーな、黒いインセンスに満たされてゆきます。彼女が身につけるのはミンクのみ。
やがて「女性は喪服を着る回数が多ければ多いほど美しくなる」とでも言わんばかりに、円やかにクリーミーなバニラが現れ、うっとりするような蜂蜜を含んだスモーキーな、それでいてシャープな透明感あふれる、(インセンスとパチョリによって)暗く捉えどころのないミステリアスなラベンダーの余韻に満たされてゆきます。
どこか悲し気にしずかに見つめる情熱的な女性の眼差し。その眼差しを黒いヴェール越しに、素肌に感じることが出来るのです。
最も危険な存在とは、不幸せそうな美女の存在。私だけが彼女を幸せに出来ると、喪服を着た未亡人の誘いによろめいてしまうように、素肌をよろめかせ、虜にしてしまう官能のエリクサーです。不幸を予感させるこの甘いラベンダーの香りには、最も危険な〝後をひくおいしさ〟があります。
どうぞ骨の髄までしゃぶり尽くされてください。通常、香水とは、幸せの要素を身にまとう事に喜びがあるのでしょうが、この香りは〝不幸を身に纏う香り〟なのです。あなたの喪服の香りです。
最後に黒澤明監督の『椿三十郎』の名セリフをこの香りに捧げましょう。三十郎にある貴婦人が仰った言葉です。
あなたはなんだかギラギラし過ぎてますね。あなたは鞘のない刀みたいな人。よく斬れます。でも、本当にいい刀は鞘に入ってるものですよ。
香水データ
香水名:フーローノワール
原名:Fourreau Noir
種類:オード・パルファム
ブランド:セルジュ・ルタンス
調香師:クリストファー・シェルドレイク
発表年:2009年
対象性別:ユニセックス
価格:日本未発売(75ml/€260)

シングルノート:ラベンダー、ムスク、トンカビーン、アーモンド、インセンス、パチョリ、バニラ、シダーウッド

