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カイエデモード香水図鑑を応援する|2025年9月2日

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【シャネル】ココ マドモアゼル(ジャック・ポルジュ)

シャネル
©CHANEL
シャネル
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ココ マドモアゼル

原名:Coco Mademoiselle
種類:オード・パルファム
ブランド:シャネル
調香師:ジャック・ポルジュ
発表年:2001年
対象性別:女性
価格:50ml/17,600円、100ml/24,200円
公式ホームページ:シャネル

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シャネル、21世紀のはじめの一歩

モデル:ケイト・モス、2001-2002年 ©CHANEL

モデル:ケイト・モス、2001-2002年 ©CHANEL

©CHANEL

1978年にジャック・ポルジュシャネルの三代目調香師に就任し、1982年にカール・ラガーフェルドがクリエイティブ・ディレクターに就任して以降、シャネルは香水・ファッションの分野において見事に復興を遂げ21世紀を迎えることになりました。

そして、この時点で、シャネルの顧客層の平均年齢は50代半ばから30代後半にまで若返っていました。

この状況を見たシャネルのCEOであるアリー・コペルマン(P&Gより移籍し、1986年にシャネルUSの社長となった)は、これからの時代はより若い世代を取り込んでいかないといけないと考え、20代をターゲットにした香りを生み出すことを計画したのでした。そして、この計画にあたりシャネルらしい禁止事項をひとつ掲げたのでした。

どんな場所でもつけやすい軽い香りを作るべからず!

シャネルというブランドの恐ろしいところは、カルバン・クラインやラルフ・ローレンといった、アメリカの精神と想像力を捉えたブランドの軽い香りを好んでつけるようになっていた21世紀の若い女性に対して、〝20代のためのオード・パルファム〟を作ろうとしたところにあるのです。

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21世紀に21歳のココ・シャネルがいたならば・・・

モデル:アヌーク・ルペール、2001年 ©CHANEL

モデル:ケイト・モス、2004年 ©CHANEL

「ココ」は「オブセッション」と同時期に発売され、私たちはすべてにおいて凌駕されていました。まさに「ココ」の栄光は、踏みにじられてしまっていたのでした。創業者の名を冠した「ココ」は、どうしても救わなければならないと強く感じました。そうでなければ、まるで私たちがテントを畳んで、私たちの伝統から立ち去ろうとしているように見えたでしょうから。

アリー・コペルマン

21世紀前夜に発売された「アリュール」が、アメリカを中心に爆発的ヒットとなっている勢いに乗り、アリー・コペルマンが、21世紀最初の香りはとんでもない香りを生み出してやろうという情熱は並々ならぬものがありました。そして、その想いは、パルファム&コスメ部門のマーケティング・ディレクターであるジーン・ジンマーマンも同じでした。

二人は、新たなる香りに「ココ」の名が入った香りを作りたいと考えていました。そして、この香りが発売されると同時にオリジナルの「ココ」(1984)を廃盤にしようという考えが二人の中にありました。

「Coco Twist」「Coco Loco」そして、冗談のような「Diet Coco」という新作の名の候補が挙がりはすれどもいまいちどれもピンとこない中、広告部門の副社長であるローリー・パルマが「マドモアゼル ココはどうかしら?」と提案したのでした。

コペルマンは一般的なアメリカ人はマドモアゼルという言葉を知らないと躊躇したのですが、ジンマーマンはジャック・エリュ(シャネルのアートディレクター)と共に「ココ マドモアゼル」にすれば響きも良いし覚えやすいのではと提案し、この名が、21世紀最初のシャネルの香りであり、新世紀のオリエンタル・フレグランスの名に決定したのでした。

そして、いよいよ香りの調香がスタートする時に、コペルマンとジンマーマンは、ジャック・ポルジュにこう伝えたのでした。「もし今、21歳のココ・シャネルがここに蘇えり、21世紀を生きることになったらどんな香りをつけたいだろうか?さぁ、そんなココのための香りを創ってください

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「チャンス」と姉妹のような関係

モデル:ケイト・モス、2004年 ©CHANEL

モデル:ケイト・モス、2006年 ©CHANEL

私は〝もし新世紀に向けて「ココ」を作らなければならないとしたら、どうしますか?〟という提案を受けて、たっぷりと時間をかけてこの香りを生み出したわけではないことを白状しなければならない。フランカーというアイデアもあまり好きではありませんでした。

しかし、振り返ってみると、「ココ」はもうすっかりバロックすぎて古めかしい香りだったので、全く違う軽やかに明るくフレッシュな香りを作りたいと思ったのです。

ジャック・ポルジュ

ちなみにこの頃のジャック・ポルジュは「チャンス」(2002)の調香に全力投球していました。ポルジュのお気に入りの香水であるクリニークの「アロマティックス エリクシール」からインスピレーションを得ていたので、「ココ マドモアゼル」と「チャンス」には、フルーツパチョリという共通点が生まれました。とても意外なことなのですが、二つの香りは姉妹のような関係なのです。

この香りにより、クラシックなシプレの構造に現代的なひねりを加えて活性化させるという、調香界のトレンドが生み出されてゆきました。その成功の影には、後に詳しく記述する〝パチョリ・フラクションズ〟という新兵器の存在がありました。

「ココ マドモアゼル」は、通常の開発と比べると、試作の回数はごくわずかで、最初の試作品が、最終版にほとんど近いものでした。

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「ココ マドモアゼル」のニュータイプなパチョリ

モデル:キーラ・ナイトレイ、2007-2008年 ©CHANEL

モデル:キーラ・ナイトレイ、2007-2008年 ©CHANEL

ココ マドモアゼルでは、すべてのアコードを軽やかにし、私が興味を持った特徴だけを厳選することで、その構成に使われている天然素材に新たなモダンな感覚を与えたいと考えました。

トップノートは柑橘系の香りを抑え、より抽象的なフレッシュさを、ミドルノートはココのローズの甘い香りとは全く異なる、軽やかでエアリーなローズの香り、ベースノートのさりげない魅力とココのベースノートの官能的な豊かさのコントラスト。余分なものを取り除くことを徹底しました。

ジャック・ポルジュ

この香りのためにジャック・ポルジュは、〝パチョリ・フラクションズ〟という特製パチョリの香料を使用しました。それは、パチョリ・オイルを8つか9つに分割し、すべての部分を嗅いで、カンファーとかび臭さ(セスキテルペンやカリオフィレン)を取り除き、気に入った部分だけを採り出し、パチョリ特有のウッディアンバーノートであるパチョロールに集中した、よりクリーンなパチョリの香りに仕上げられました。

このパチョリがフルーツ(ライチのようなピーチ)に絡み合い神秘的な甘さを生み出す前にこの香りは、まずはジューシーなオレンジと鋭さのある苦みばしったベルガモットなどのシトラスカクテルが、アルデハイドと爆発するようにしてはじまります。

トップノートの割合が、全体の60%にも及ぶという、異例の高濃度なところが、びっくりするほどのフレッシュさと高揚感を与えています。それはまるで「シャリマー」で行われたように、官能的なベースノートを、柑橘系の豊かにきらめくトップノートが引き立てているようです。

すぐにクリーミーなバニラを背景に漂わせながら華やかに甘くみずみずしいターキッシュ・ローズが、フルーティーなミモザとクリーミーなイランイラン、そして、豪華絢爛たるジャスミンが混じりあうフローラル・ブーケに香り全体は包まれていくのです。

そして、そこにフルーツパチョリも溶け込むことにより、きらきらと輝くように秘密のような甘い香りを放ちます。

ドライダウンもまた圧巻です。ベチバー、オークモスが存在感を増す中、クリーミーなホワイトムスクが甘いトンカビーンとシャープなパチョリを包み込んでいくようにクリーンな透き通るような甘さへと導いてくれるのです。

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二つの意味を持つ「ココ マドモアゼル」

モデル:キーラ・ナイトレイ、2009-2010年 ©CHANEL

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さてこの「ココ マドモアゼル」という名には、二つの意味が込められています。

本来マドモアゼルは、フランス語で、若い未婚の女性に対する敬称です。だからと言って「ココ マドモアゼル」が、若い女性向けに作られたシャネルのフレグランスなんだと考える必要はありません。

それを「マドモアゼル」という名ではなく、「ココ マドモアゼル」にしたのは、生涯独身だったココ・シャネルが、マドモアゼルと呼ばれていた事実を重ね合わせたからでした。このフレグランスは、年齢に関係なく、独身で、恋と仕事に生きる女性のためのフレグランスなのです。

そこには、子供に対するウケや、男ウケの要素など、一切入り込む余地はありません。ただただマドモアゼルの人生を突き進む戦士のための香りなのです。

さらに若き女性にとっては、人生に対する宣戦布告の香りともいえます。それは脆弱な男性・女性を叩き落とす蚊取り線香の役割を果たす孤高の香りとも言えます。

という風に、これだけの香りであるならば、このフレグランスは、日本では、よほどの上流階級か、高級ホステスにのみ許される香りにしかなりえなかったでしょう。しかし、そうならなかったのは、二つ目の意味が存在したからでした。

それは「ココ マドモアゼル」を略して「ココマド」と呼ばせるポップな解釈です。まるで平凡な日常の中で、周りに気を使いながら生きている自分自身が、本当の自分である時間が許される瞬間を生み出す「マドモアゼル・タイム」を作り上げてくれる「ココロのマド」を開く香りでもあるのです。

だからこそ、この香りは、既婚女性=マダムにとっても、素晴らしく重宝される香りなのです(ミューズである、キーラ・ナイトレイも2013年に結婚しても尚ミューズを継続していた)。

尤もシャネルが提示するこのフレグランスに重ね合わせた女性像は、「重なり合う二面性。気まぐれなのに愛される。悪戯っぽくて刺激的。無邪気にみえて大胆」なのですが、こんな女性なんて、少女マンガや日本のTVドラマくらいにしか存在しないでしょう。

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今もアメリカでもっとも人気のある香りのひとつ

モデル:キーラ・ナイトレイ、2011-2012年 ©CHANEL

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モデル:キーラ・ナイトレイ、2011-2012年 ©CHANEL

ジャック・エリュの提案により、ココ マドモアゼルのミューズとして2001年から2006年にかけてケイト・モス、そして、2007年から2019年までキーラ・ナイトレイが、21歳からつとめました。

ココ マドモアゼルはシャネル社において発売当時から、ココの売り上げの二倍は売れるだろうと予想されていました。そして、2001年春、アメリカ限定で発売され、当初ヒットしなかったのですが、数か月後にはその予想を遥かに上回り(6倍も!)、初年度に2100万ドルを売り上げました。

2010年には、N°5がずっと死守してきた世界で最も売れている香水の地位を奪いました。ジャック・エリュによる、N°5のボトルのイメージを、新世紀風にアレンジした、若々しい女性らしさを強調するために淡いピーチ色に着色された液体が透過しているボトル・デザインも素敵です。

ちなみにこの香りがあればこそ、後に「ナルシソ ロドリゲス フォーハー」「ミス ディオール シェリー」などのフルーツパチョリの香りは生まれたのでした。

ルカ・トゥリンは『世界香水ガイド』で、「この香水は偶然から生まれたため、本来なら「チャンス」と命名されるべきものだ。シャネルは宣伝が効いている内に「ココ」の人気に便乗できるようにと、これを脇役として作り上げた。大して手を掛けなかったので、聞いたところによると、これが華やかな成功を収めたとき、シャネルは周囲と同様に驚いた」

「ココ・マドモアゼルやその同類は、「エンジェル」で初めに試みられた手法をシステマティックに応用している。それは、濃く男性的といってもいいようなスパイシーオリエンタルのベースを、とがったフローラルの香調と合わせる方法である。エンジェルはふしぎなほど両性具有で、怖いくらい度を超した効果があった。ココ・マドモアゼルはこうしてできた。香水屋がこの方法を好むのは、それが簡単だからである」

「「エリタージュ」と「アリュール」を同じ割合で合わせてかき混ぜ、評価する人を呼んでくる。これはレスピーギの「ローマの噴水」がクラシック音楽のベストセラーであるのと同じ理由で成功した。華やかで印象的で、押しつけがましくない。平凡になるのは簡単だが、大物になるのはむずかしい。この香水はスカラ座に初めて行く女性たちと似ている。すっかり日焼け色にして、化粧も髪もばっちり決める。嬉しいことにこのスタイルは廃れてきた」と4つ星(5段階評価)の評価をつけています。

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『ココ・マドモアゼル』三代目ミューズ、ウィットニー・ピーク

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オリヴィエ・ポルジュと©CHANEL

2023年2月にココ マドモアゼルの新しい顔として、20歳のウガンダ出身のアメリカの女優ウィットニー・ピーク(2003-)が就任しました。シャネル初のアフリカ系のミューズが起用されたことになります。

撮影は、イネス&ヴィノードが担当しました。

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『ココ・マドモアゼル』キーラ・ナイトレイ第一弾<2007年>

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2004年の時点で、スカーレット・ヨハンソンをミューズとして求めていたシャネルは、カルバン・クライン(「エタニティ モーメント」)に先を越されてしまいます。

そして、2006年にキーラ・ナイトレイと契約を交わし、翌年2007年に第一弾キャンペーン・ムービーを製作することになりました。監督は、キーラの『プライドと偏見』(2005)『つぐない』(2007)『アンナ・カレーニナ』(2012)を監督するジョー・ライトによるものです。

1930年代スタイルのレッド・カラーのイブニングドレスで月夜のパリの通りに歩き出すキーナの背景に流れる、ナット・キング・コールのL-O-V-Eをカバーしたジョス・ストーンの歌声が、力強く、クールで、ロマンティックです。

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『ココ・マドモアゼル』キーラ・ナイトレイ第二弾<2011年>

モデル:キーラ・ナイトレイ、2011年 ©CHANEL

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キーラ・ナイトレイの2011年の第二弾広告キャンペーン・ムービーは、ファッション・シーンにおいても大いに話題となりました。

カール・ラガーフェルドが特別に手がけたベージュのジャンプスーツと、世界最高のヘルメットを作るルビーとのコラボヘルメットを身につけ、ドゥカティ スーパースポーツ750 1973年式で、パリのコンコルド広場を颯爽と駆け抜け、アルベルト・アンマン(1978ー、『ナルコス』でカリ・カルテルのボスの一人を演じる)演じるカメラマンの元に駆けつける!

この香りはパワフル過ぎず、甘過ぎません。強さと甘さのバランスが絶妙です。とても女性らしい香りなのに、男性用フレグランスをつけていた時の私が求めていた『自分には力がある』という感覚を与えてくれるのです。

キーラ・ナイトレイ

ミューズ達のコメントには、たいていは説得力のない美辞麗句が散りばめられウンザリさせられるのですが、キーラの場合は、そう感じないのはどうしてでしょうか?それもこれも彼女が仕事を選んでいる女優だからではないでしょうか?

私は長い間休みなく、息をつく間もなく働いてきました。数年前には、まるまる5年間働きづめだったことに気づき、本当に疲れ切ってしまって……そのために演技の楽しさを感じられなくなっていたので、以来、ペースを落としました。すると再び、働くことや演技することへの情熱が湧いて来ました。プロジェクトを慎重に選ぶようになってから、前以上に仕事を楽しめるようになっています。今回のシャネルの2本目のCFも、こうして選んだ仕事の一つ。あれほど素晴らしい撮影の時間を過ごすことができたのも、このためかも知れません。なぜ自分はこのプロジェクトに打ち込むかという理由が判っていれば、すべての瞬間を味わい尽くすことができる。この一週間の撮影で得られた充実感は、夏のバカンスからは到底得られないものでした。

キーラ・ナイトレイ

「シャネルのスーパーウーマン」になったようなキャンペーン・ムービーを監督したのは、前回と同じジョー・ライトでした。

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『ココ・マドモアゼル』キーラ・ナイトレイ第三弾<2014年>

モデル:キーラ・ナイトレイ、2014-2016年 ©CHANEL

2014年に公開された第三弾キャンペーン・ムービーの監督も、全二作に引き続きジョー・ライトです。早朝4時の日の出を待って撮影したという、セーヌ川をスピードボートでキーラが駆け抜けるシーンが圧巻です。キャンペーン・フォトは、マリオ・テスティーノによって撮影されました。

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香水データ

香水名:ココマドモアゼル
原名:Coco Mademoiselle
種類:オード・パルファム
ブランド:シャネル
調香師:ジャック・ポルジュ
発表年:2001年
対象性別:女性
価格:50ml/17,600円、100ml/24,200円
公式ホームページ:シャネル


トップノート:オレンジ、マンダリン・オレンジ、オレンジ・ブロッサム、ベルガモット
ミドルノート:ミモザ、ジャスミン、ターキッシュ・ローズ、イランイラン
ラストノート:トンカビーン、パチョリ、オポポナックス、バニラ、ベチバー、ホワイトムスク