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バレニア|エルメス初のシプレ系フレグランス

エルメス
©Hermès
エルメス
この記事は約11分で読めます。

バレニア

原名:Barénia
種類:オード・パルファム
ブランド:エルメス
調香師:クリスティーヌ・ナジェル
発表年:2024年
対象性別:女性
価格:30ml/12,980円、60ml/18,810円、100ml/25,630円
公式ホームページ:エルメス

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エルメス初のシプレ系フレグランス

©Hermès

シプレを説明して下さいと尋ねられると困りませんか?ウッディとかフルーティーについての説明は簡単ですが、シプレって色々なものが混ざり合っているのですごく複雑なんです。

それはフレンチに例えるとベアルネーズソースと同じです。シプレとは複数な要素が混ざり合ったものなのです。シプレになるためには、フレッシュでなければなりません。つまりトップノートは必ず柑橘系です。そしてシプレに伝統的に使われるローズとジャスミンの要素も必須です。オークモス、パチョリ、そしてシスタスも必要です。これがシプレーを作るために必要なフォーミュラなのです。

エルメスに入った時から、いつかシプレの香りを作ることになることはわかっていました。なぜならシプレは最もエレガントな構造を持ち、官能的で、時代を超越しています。エルメスは時代を超越したメゾンです。そしてシプレは私が最も好きな香りの構造でもあります。

シプレは、人を本能的に惹きつけ、肌になじむ香りです。

クリスティーヌ・ナジェル(以下、すべての引用は彼女のお言葉)

エルメス初のシプレ系フレグランスである「バレニア」は、フルーティ、フローラル、ウッディの三位一体を体現するネオシプレです。2024年9月11日に発売されました。エルメスの二代目専属調香師クリスティーヌ・ナジェルにより、構想期間として10年近くの歳月をかけ生み出されたレザーシプレの香りです。

シプレは、1917年に調香師フランソワ・コティが「シプレ」を創作した時に誕生しました。シプレー・フレグランスの最大の特徴は、主にフローラルまたはフルーティーなフレッシュなトップノートと、ウッディでモッシーなベースノートのコントラストから生まれます。

クリスティーヌはかつて「ナルシソ ロドリゲス フォーハー」(2003)「ミス ディオール シェリー」(2005)「シィ」(2013)といった傑作を含む約20種類のシプレ・フレグランスを生み出していました。

ちなみにラグジュアリー・レザー・ブランドでもあるエルメスにとって、レザー・フレグランスは重要なジャンルで「オー ドゥ エルメス」(1951)「ドブリ」(1955)「ベラミ」(1986)「オスマンサス ユンナン」(2004)「ケリー カレーシュ」(2007)「キュイール ダンジュ」(2014)「ギャロップ ドゥ エルメス」(2016)「ヴィオレット ヴォリンカ」(2022)といった香りが創造されてきました。

この香りは、エルメスが特にプロジェクトとして生み出した香りではなく、8年かけて、クリスティーヌがスキマ時間に温めてきたシプレのアイデアが昇華して、最終的に、エルメスで正式に発売されることとなった香りです(正式に発売されるまで10年半の時を要した)。

それはエルメスで最もよく知られていメンズ・フレグランスのひとつである「テール ドゥ エルメス」と同じオーラを持つ女性的な香りの対比を作りたいという宿願を果たした香りでもありました。

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バレニアレザーで仕立てた大きなバーキンを愛用する女性の香り

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私は常に真の喜びを感じながら創作活動を行ってきました。自分が作ったどのフレグランスも否定するつもりはありませんが、二回だけ、私の作品の中に特別な何かが宿っていると感じている香りがありました。1回目は「ナルシソ ロドリゲス フォーハー」でした。そして2回目はこの「バレニア」です。この香りを作った時の感覚は、言葉では言い表せないものがあります。気取ったところが一切ないのです。

クリスティーヌが、エルメスのアーティスティック・ディレクターのピエール=アレクシィ・デュマにこの香りをはじめてプレゼンテーションした時「エルメスのためにひとつだけ香水を作るとしたら、この香水を選びます(もしエルメスで最後に香水を作るとしたら、この香りにしたい)」と伝えました。そしてゴーサインが出され、名前を決めるミーティングがはじまったのでした。

バレニアの名は、クリスティーヌがエルメスに入社したすぐ後、このレザーを見せてもらい、そのバターのような柔らかさと、この革に傷をつけても、こするだけで傷が消える、人間の素肌のような質感にびっくりしました。

その経験の後、バレニアレザーで仕立てた大きなバーキンを愛用することになりました。そんなクリスティーヌが最も愛するエルメスのレザーの名が付けられることになりました。

肌にまとうことで、ゆっくりとその秘密が明らかになる」という思いも込められています。

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コリエ・ド・シアンのブレスレットがモチーフのボトルデザイン

©Hermès

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パチョリやオークモスが少し入っているからといって、必ずしもシプレとは限りません。香りは明確に区別されている必要があります。「オードゥ エルメス」や「ケリー カレーシュ」も少しシプレっぽいと言えるかもしれません。しかし「バレニア」こそが真のシプレなのです。

バレニアは、エルメスの中でもハンドバッグに好んで使われる、独特の存在感を持つとろけるように柔らかいなめし革の名前です。

そしてフィリップ・ムケが手掛けた特徴的なボトルデザインは、彼自身が香りを嗅ぎ、3つのデザインコンセプトを提示した中から決定されたもので、コリエ・ド・シアンのブレスレットがモチーフです(さらにガラスを丹念に加工して作られた「クルー・メドール」がフラコンの底を飾ります)。コリエ・ド・シアンとはフランス語で〝犬の首輪〟の意味です。

元々は1923年に顧客からブルドッグ用の首輪の依頼を受けたことからはじまりました。上流階級で話題を呼び、1927年にコリエ・ド・シアン・ベルトが誕生しました。1949年にバックルにアレンジされ、エルメスを象徴するモチーフとして今に至ります。

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クリスティーヌ・ナジェルによる香りの説明

クリスティーヌ・ナジェル ©Hermès

クリスティーヌ・ナジェル ©Hermès

ジンジャー・リリー

「バレニア」を開発していた頃、これは直接の依頼ではなく、時間も十分にあったので、シプレ・フレグランスに使う素材として、驚きと新しさを求め、時間をかけて最もユニークな材料を探すことにしました。

そこでトップノートに、エルメスのために特別に栽培・収穫されたカラブリア産ベルガモットをまだ熟していないうちに収穫してもらうように頼みました。そうすることで、とてもクリアではっきりとした香りが生まれるんです。

フローラルブーケには、ローズではなく、マダガスカル産の小さな花バタフライリリー(ジンジャー・リリー)を使用しました。ジャスミンとローズを女性的すぎるとして避け、自分に合った花を探していて、遂に5年前にこれだと思いました。この花が香水に使われるのは今回が初めてで、誰もが知っている大きな白いユリの繊細なバージョンと言えるでしょう。

湿った木のような香りのオークモスの代わりに、木の別の部分、ローストした木を使うことにしました。この香りは、思わずよだれを垂らしてしまいそうになります。ラム・アランジェを思わせる、甘く、それでいて風味豊かな香りです。

そして2種類の異なるパチョリを使うことにしました。まず、ロベルテ社に伝統的な方法でパチョリ精油を作ってもらうよう依頼しました。非常に本格的で、非常に強い香りを求めていたのです。

そしてジボダン社のバイオテクノロジーによって得られたアキガラウッドと呼ばれる合成パチョリと組み合わせることで、真にユニークなシグネチャーが生まれました。

アキガラウッドとは、ジボダン社により新たに生み出された芳香成分です。それはパチョリ精油から、ラッカーゼという酸化酵素により、さらに抽出されたアガーウッドとペッパーのスパイシーな側面がブレンドされた深みのある香りが特徴で、花々にダークでスパイシーな側面を与えてゆきます。

10歳くらいの頃、アジア、ヨーロッパ、ギリシャ、アフリカといった世界中の伝説やおとぎ話を全部集めていました。その中で特に印象に残っているのは、バオバブの木に住むアフリカの魔法使いの話です。その魔法使いは、酸っぱいものすべてを甘く変える魔法の力を持っていて、村人たちから崇拝されていました。人の性格さえも甘くすることができたのです。あのお話は本当に美しいと思いました。

調香師になってからずっと、あの物語のことを考えてきました。ずっとあの奇跡の果実を探し求めてきたんですそれでそういう効果のあるものを探しました。約4年前、「ミラクルベリー」という果実を発見しました。これには〝ミラクリン〟というタンパク質が含まれています。このタンパク質のおかげで、酸っぱいものや苦いものを甘く感じます。

そこで、ガーナとベナンからミラクルベリーを輸入している若いフランス人男性を見つけました。私はそのベリーからエキスを作るため、15キログラム注文することにしました。しかし残念ながら、ライラックなどの多くの香料原料と同様に、このベリーは自然抽出ではうまくいきませんでした

そのためドライアプリコットのようなベリーの香りを再現しようと長い年月格闘しました。そしてようやく、よだれが出そうになるけれど、甘すぎないアコードを作り出せたのでした。

ミラクルベリーが「バレニア」に魅力的な柔らかさを与えています。

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愛撫を返すバレニア・レザーのように、愛撫を返す肌のための香り

©Hermès

「バレニア」を表す3つの言葉として相応しい言葉は、エレガント、認識しやすい、そしてセンシュアルです。

エルメスを愛する女性たちがエレガントなのは、彼女たちが自分の直感を信じ、その直感は嗅覚と非常に近いところにあるからです。私にインスピレーションを与えてくれたのは、まさにこうした女性たち、自分の直感に従う女性たちです。

クリスティーヌ・ナジェルが10年かけて生み出した〝エルメスのためのネオシプレの香り〟は、酸性雨で腐食していく金属のようなフルーツパチョリです。つまり酸っぱさとメタリックっぽさを兼ね備えたフルーツパチョリの香りです。でありながらバレニアのレザーのように、時を重ねて美しく深みを増していくように、肌に溶け込んでいく香りです。

ミルクルベリー=ミラクルフルーツと呼ばれる、この実を口に含んでから酸っぱいものを食べると、その酸味が甘く感じられるようになるという奇跡の果実の酸味の効いた、ドライ・アプリコットにも似たジューシーな甘さと、シチリア産の青みが強いグリーンベルガモット(とグレープフルーツが混じり合ったような)のフレッシュな軽やかさとラム酒を想起させる熱を帯びたオークウッドが溶け合い弾け合うようにしてこの香りははじまります。

すぐにエアリーなレザーと共に、マダガスカル産のジンジャーリリーが広がり、グレープとアップルが甘やかに弾けるスパークリングワインのような、荒々しくも明快なベリーの香りとひとまとめになり、シュワシュワっとしたラムネのような感触を伴う、メタリックさとクリーミーさが絶妙なバランスで素肌の上で引き伸ばされてゆきます。

やがて雨上がりの森の中を散策するような、湿り気を感じさせるミステリアスな2種類のパチョリ(ひとつはアキガラウッド)が注ぎ込まれてゆきます。とてもベリーがアクセントになった、まるでケリーやバーキンの内側の匂いを吸い込んでいるような、クールでエレガントなシプレの余韻に満たされてゆきます。

動きを包み込む上質なレザーの感触を、香りで感じ取ることが出来るように、素肌の上よりも、衣服の上に重ね合わせるように使いたい香りです。

ポーランド出身のトップモデル、マルゴシア・ベラ(1977-)がキャンペーンモデルに起用されました。

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香水データ

香水名:バレニア
原名:Barénia
種類:オード・パルファム
ブランド:エルメス
調香師:クリスティーヌ・ナジェル
発表年:2024年
対象性別:女性
価格:30ml/12,980円、60ml/18,810円、100ml/25,630円
公式ホームページ:エルメス


トップノート:ミラクルベリー、ベルガモット
ミドルノート:ホワイト・ジンジャー・リリー
ラストノート:パチョリ、アキガラウッド、オーク