作品名:オーシャンズ13 Ocean’s Thirteen (2007)
監督:スティーブン・ソダーバーグ
衣装:ルイーズ・フログリー
出演者:ジョージ・クルーニー/ブラッド・ピット/アル・パチーノ/マット・デイモン/エレン・バーキン/アンディ・ガルシア/ドン・チードル/エリオット・グールド/カール・ライナー/ヴァンサン・カッセル
オーシャンズ三部作の最終作品
21世紀のメンズ・ファッションのバイブルとなる映画を上げよと言われたならば、ダニエル・クレイグのジェームズ・ボンド・シリーズが一番最初に上がるでしょう。そして、もうひとつ、それらに対して双璧を成すのが「オーシャンズ」三部作です。
この三部作は、ただただラスベガスでカジノ、シルク・ドゥ・ソレイユなどのショウ、ショッピング、豪華なビュッフェを楽しむような姿勢で見れば良い作品です。その非日常感と豪華な雰囲気、そして、ファッションを楽しませるためだけに、大スターを揃え、お金をかけた『グランド・ホテル』方式の作品なのです。
さて、「オーシャンズ」三部作のラストを飾る本作には、大量のラグジュアリー・ブランドが投入されています。ジョルジオ・アルマーニ、ポール・スミス、ヨウジ・ヤマモト、ドルチェ&ガッバーナ、コムデギャルソン、グッチ、プラダ、クリスチャン・ルブタンといったブランドです。
コスチューム・デザイナーのルイーズ・フログリーがそれらをすべて選抜しました。彼女は、本作の翌年に、『007 慰めの報酬』(2008)で、ジェームズ・ボンドにトム・フォードを着せた功労者になる人です。元々、彼女のデビュー作は、アメリカとイギリスのアカデミー賞衣裳デザイン賞を獲得した『炎のランナー』(1981)のミレーナ・カノネロの助手としてでした。そして、『イギリスから来た男』(1999)からスティーブン・ソダーバーグの作品の衣裳デザインを請け負うことになり、『トラフィック』(2000)の衣裳も担当しました。
メンズ・ファッションの極意=決してやりすぎないこと。
ラスティ・ライアン・スタイル1 シャンパングレー・スーツ
- シャンパン・グレーのスーツ、ノッチラペル、3つのゴールド・ボタン、シングル、フラップ・チケットポケットとフラップポケット、シングルベント
- 同色のトラウザー、少しローライズ
- 白のストライプのブラックドレスシャツ、トールポイント・カラー、シングルカフス
- プラダのアイボリー色のレザーベルト、ゴールドバックル
- ブラウンのレザーブーツ
- ブラウンのレザーのダッフルバッグ
- イエローゴールドのロレックス GMT マスターⅡ
- シルバーフレームのオリバーピープルズのストラマー
ブラッドは、今回のラスティ・ライアンのスタイリングを、よりさっぱりと、よりシンプルにしたいと考えていました。キラキラ光るものも、シャイニーなスーツも控えめにと考えていました。そして、私たちは一緒にスタイリングの写真集をたくさん見ました。その中には、若かりし頃のスティーヴ・マックイーンやデニス・ホッパーの写真もありました。そんな中からついにブラッドはインスパイアされるものを見つけたのでした。それは、ジョージ・クルーニーのダークトーンと対極にあるとも言える60年代的なタイトフィットするテーラード・ジャケットでした。そこに、スキニーな白のヴェルサーチ・ジーンズと何種類かのプラダのベルトを合わせたのでした。
ルイーズ・フログリー
本作の舞台はラスベガスなので、ヨーロッパを舞台にした前作とは違い、全登場人物のファッションに、コート類は一切登場しません。
オープニングにおけるジョージ・クルーニーとマット・デイモンのスーツスタイルの野暮ったさと、ブラッド・ピットのスーツスタイルの洗練の対比が、一瞬で、メンズ・ファッションの極意を教えてくれます。結局は、「シルエットは生きている」ということです。どれだけ、静止したスタイルが決まっていようとも、人間の目に映るのは、動作しているときのそのファッションの生命感であり、そこが洗練のすべてを決定付けるということなのです。
つまりは自分自身の肉体を包み込む生地の生命感を無視したスタイリングなぞは、野暮ったさしか生み出さないということなのです。この〝野暮ったさ〟を、別の言葉に置き換えると、〝服に着られている〟になります。メンズ・ファッションの極意とは、プチプライスに対する幻想を捨て去ることから全てははじまり、次に、昔のメンズ・スタイルを自分の中に取り込むことにより完結するのです。個性が洗練へと昇華していく瞬間こそがメンズ・ファッションの真骨頂なのです。
ブラッド・ピットのファッションは、すべて「シルエットが生きています」。だからこそ、彼は、21世紀のメンズ・ファッションのスタイル・アイコンなのです。