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ヴィヴィアン・リー

『欲望という名の電車』Vol.4|ヴィヴィアン・リーとジェシカ・タンディ

ヴィヴィアン・リー
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ブランチは、私たち自身の姿なのです。

映画版の方が、舞台版より優れている理由は、ヴィヴィアン・リーがいたからだ。彼女は記憶に残る美しい女性だ。スクリーン史上最も美しい女性のひとりだろう。

マーロン・ブランド

21世紀の現在において、1951年に映画化された『欲望という名の電車』は、Tシャツを着たマーロン・ブランドの姿と共に記憶される作品になっているのですが、それだけではこの作品がファッションシーンに与えた影響を捉えきれているとは言えません。

実はこの作品ほど、女性とファッションの普遍的な関係性を捉えている作品はそうありません。そして、その本質を理解すると、恐らくほとんどの21世紀の女性たちは、私も含めて、このブランチ・デュボアという人物に対して「ブランチは私なんだ」と感じるはずなのです。

つまりは、日本においては杉村春子(1953年3月から舞台でブランチを演じる)が惚れ込んだブランチという女性像を理解するポイント、それは「それまで日本には女の弱点や恥部をさらけだす芝居はなかった」という点なのです。

ファッションとは、永遠の若さを手に入れることが出来ないことを最初に教えてくれる残酷な存在です。良い年の重ね方とは、年を重ねると同時に今までのファッションを捨て、新しいファッションに切り替えていく思い切りの良さにあるのです。

どう、見て、私のスタイル!この十年間、1グラムも増えていないわ。

ブランチ・デュボア

つまりは、この作品のブランチが示す醜く哀れな年の重ね方とは、若いころのファッションに固執しているところから生み出されているのです。女性にとって、最も美しかったころの自分のスタイルは忘れられないものなのです。

それは、かつてブームになった美魔女たちのあの痛ましさと共通しているのです。ブランチが発狂してドレスを着て一人芝居している姿が、まさに彼女たちの姿なのです。

美しい女性にとって、美しく年を重ねることは非常に難しい。

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初代ブランチ・デユボア=ジェシカ・タンディ





ジェシカ・タンディ、1940年。

ジェシカと私はミスキャストだったと思う。私たちのやりとりで、あの劇はバランスを崩してしまった。ジェシカはすばらしい女優だが、ブランチとして真実味があるとは一度も思えなかった。

彼女はあの役に必要な上品さや洗練された女性らしさに欠けていると思った。・・・彼女はあまりにも感情を剥き出しにしすぎて、ブランチが受けるに値するはずの同情や哀れみを、観客から引き出すことができなかった。さらにジェシカは私のことをほんとうに嫌った。

マーロン・ブランド

ブロードウェイでブランチ・デュボアを演じたのはジェシカ・タンディ(1909-1994)でした。ヴィヴィアン・リーの夫ローレンス・オリヴィエとも頻繁にシェイクスピア劇で競演していたイギリスの女優であり、この舞台ではトニー賞主演女優賞を獲得しています(生涯に3度受賞している)。

さらに、1989年には『ドライビング Miss デイジー』で80歳という最高齢でアカデミー主演女優賞を獲得した伝説の女優なのですが、本作が映画化されるにあたり、スターが必要だということで、彼女は主役を外されたのでした。

ちなみにミッチを演じたカール・マルデンとエリア・カザンはジェシカのブランチの方が良いと言っているところが興味深いです(カールは「ヴィヴィアンはブランチにしては色っぽすぎる」と)。

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1949年のヴィヴィアン・リー

夫ローレンス・オリヴィエが演出したロンドンの舞台でブランチを演じた時のヴィヴィアン・リー。

衣裳は全てあくまで原作に忠実に。

そして、メイクアップもどこかゾンビのような・・・

ジョニー・デップが最も愛する女優。

儚くも、操り人形のような人間を越えた魅力がそこにあった。

ヴィヴィアンの最大の失敗は『欲望という名の電車』に出演したことだよ。なぜかって、あのブランチという役は、彼女の実生活そのままだからね。ヴィヴィアンにとって、あの役を演じることは残酷な仕打ちだったな。それが彼女の致命傷になってしまったんだから。

ジョン・ギールグッド(オリヴィエの師匠)

セシル・ビートンが、1947年12月3日に『欲望という名の電車』の初演を見て、ヴィヴィアン・リーに電話をかけたのが全ての始まりでした。

そして、独自に戯曲を取り寄せたヴィヴィアンは、「スカーレット以来はじめて私が演じたいと願う役柄をついに見つけ出した!」と、ブランチ・デュボアを演じることを渇望し、1949年10月に、彼女の夫ローレンス・オリヴィエの演出でこの作品のロンドン公演が行われることになったのでした。

ヴィヴィアンは、ブロードウェイでブランチを演じていたジェシカ・タンディの芝居を全く見ずに役柄を作り上げていきました。

そして、衣裳は、原作者のテネシー・ウィリアムズが望んでいた自堕落な女を思わせるものを着用しました(着古したマルディグラの晴れ着、真っ赤なサテンのキモノなど)。それはブロードウェイ版や後の映画版を担当したルシンダ・バラードによる衣裳とは全く違うテイストでした。

ルシンダはブランチを傷つきやすく、移り気な心の女と考え、うすよごれて、褪せた花模様のオーガンジーを着せていたのでした。しかし、オリヴィエは、原作者に従うことを主張しました。

ヴィヴィアンは、1949年から50年にかけて9ヶ月間、326回ブランチを演じ、その間、彼女の人格は徐々にブランチと同化していくようになったのです。

作品データ

作品名:欲望という名の電車 A Streetcar Named Desire (1951)
監督:エリア・カザン
衣装:ルシンダ・バラード
出演者:ヴィヴィアン・リー/マーロン・ブランド/キム・ハンター/カール・マルデン