究極のフレグランスガイド!各ブランドの聖典ページ一覧にすすむ

【ダナ】タブー(ジャン・カール)

その他のブランド
その他のブランド
この記事は約9分で読めます。

タブー

原名:Tabu
種類:オード・パルファム
ブランド:ダナ
調香師:ジャン・カール
発表年:1932年
対象性別:女性
価格:不明

スポンサーリンク

禁止に打ち勝つ欲望の水。それはあなたが自ら官能の楽器になる香り。

©Dana

©Dana

©Dana

これが定番の香り「タブー」

17歳の時から愛用している香水。高貴で優雅、神秘的でエレガントな印象。自分の魅力を知り尽くした大人の女にしか似合わないといわれている。「香木のようなニュアンスもあり、違う世界に誘ってくれます」

『美輪明宏のおしゃれ大図鑑』

1916年にスペインのバルセロナで創業されたフレグランス・ブランド、ミルヒャの幹部だった弁護士のハビエル・セラが、1932年にバルセロナで創立したフレグランス・ブランド、ダナ

ダナの社名は、ギリシャ神話のニンフであり、メデューサを倒したペルセウスの母であるダナにちなんで名付けられました(父はゼウス)。ちなみにアラビア語で〝白い真珠〟の意味があります。

彼が独立を決めたすこし前に、友人でもある調香師のジャン・カールに〝売春婦〟に合う香りの調香を依頼しました。そして1931年に完成したのが、〝禁忌〟の意味を持つオリエンタルの傑作「タブー」でした。1932年8月22日のブランド創立と同時に発売され、そのセンセーショナルな名の効果もあり、瞬く間に大成功を収めました。

「タブー」の名は、セラがスペイン革命により母国を離れニースの通りを歩いていた時に、フロイトの著書『トーテムとタブー』の表紙を目にしたことから思い付きました。

美輪明宏様

私は17歳くらいの頃から「タブー」という香水をつけています。「タブー」を私の基本的な定番の香りとして決めておいて、さらにその日に着るもの、行き先や時間帯、その日お目にかかる人たちの職業とか年齢に合わせて、さまざまな香りの中から最適と思われる香りを選んでいます。

「ジュルビアン」、「バラ・ベルサイユ」、シャネルの「No.5」、ゲランの「夜間飛行」、ディオールの「ディオリシモ」などなど・・・。定番の「タブー」をつけた上から違う香りをつけ足し、その時々のオリジナルの香りを楽しむこともあります。

こんなことがありました。ある日突然、電話がかかってきたのです。昔おつきあいしていたボーイフレンドのひとりから、何十年ぶりの電話でした。

「どうしてる?今、銀座を歩いていたら、キミと同じ香りをつけている女性とすれ違ったんだ。その瞬間にキミを思い出して、懐かしくなってね・・・」

その香りと私の想い出が、彼の中で一緒になっていたのでしょう。

『美輪明宏のおしゃれ大図鑑』

スポンサーリンク

恍惚のソナタ「クロイツェル・ソナタ」が素肌にすべりだす。

©Dana

©Dana

ルネ・フランソワ・グザヴィエ・プリネ『クロイツェル・ソナタ』(1901年)

2001年に発売されたバイオリン・ボトル。

この香りの広告には、ルネ・フランソワ・グザヴィエ・プリネが、レフ・トルストイの同名小説(1889年)に触発され描いた『クロイツェル・ソナタ』(1901年)が使われました。

ベートーヴェンが、その演奏に感銘を受けて、1803年にフランスのヴァイオリニスト、ロドルフ・クロイツェル(1766-1831)に献呈したヴァイオリンとピアノによる二重奏曲「ヴァイオリンソナタ第9番」。なぜかクロイツェル自身は、一度も演奏することを望まなかったという謎が謎を呼ぶ曲は、「クロイツェル」の愛称で呼ばれ、後世のヴァイオリニストに愛されるようになりました。

この「クロイツェル」に因み生み出された小説『クロイツェル・ソナタ』は、トルストイ自身の崩壊した家庭環境から生み出された、嫉妬に狂い、妻の浮気を疑う男の妻殺しの告白の物語です。

売春宿に入り浸り放蕩にふける貴族の青年ポズドヌイシェフが、絶世の美女である没落した地主の娘と出会い結婚する。しかし、結婚してから二人の間には、精神的な結びつきが全くないことに気付いてしまうのでした。

二人は、喧嘩と性的衝動と和解を繰り返し、だんだんと冷たい空気に支配されていくようになりました。しかし、二人のあいだには五人の子供が産まれました。30歳を迎え、女盛りを迎えた妻は、子育てから解放され、身嗜みにも気を遣うようになり、周囲の視線を惹きつけるようになりました。

相変わらず憎悪に満ちた激しい喧嘩を繰り返す二人の前に、パリの音楽院を出たセミプロのヴァイオリニストであるトルハチェフスキーというポズドヌイシェフの知人が現れました。そして男心を騒がせるほど美しい彼が、ピアノが弾ける妻と合奏する姿を見て、秘かに嫉妬心を募らせていくのでした。

表向きは、愛想良く振る舞いながらも、二人が勝手にパーティで合奏することを知り、大喧嘩しました。最終的に仲直りをして、パーティの当日、二人はベートーヴェンのクロイツェル・ソナタを演奏しました。そして、演奏を終えた後の、妻の満たされた表情を見て、ポズドヌイシェフは妻の不貞を確信したのでした。

急用を切り上げ、夜中に自宅に戻ったポズドヌイシェフは妻とトルハチェフスキーが二人で姦通している現場を抑えます。そして妻を短剣で刺しました。妻は夫を憎しみながら息絶えました。

そんな白昼夢のような物語から影響を受けて生み出された絵画は、演奏に酔いしれ、情熱に圧倒され、歯止めが効かなくなり、演奏を中断して伴奏者の女性を抱きしめるヴァイオリニストが描かれています。

1941年以降、この広告キャンペーンの永続的な人気により、『クロイツェル・ソナタ』は「広告史上最も長いキス」を描いたものとして有名になりました。

スポンサーリンク

「禁止=タブーは犯されるためにある」

©Dana

©Dana

ふしぎなことに、美は善であるという完全な幻想が、往々にして存在するものです。美しい女が愚劣なことを言った場合、それをきいても愚かさは見ずに、聡明さを見るのです。その女が醜悪なことを言ったり、したりしても、何か愛すべきことのように思うのです。女が愚かなことも醜悪なことも口にせず、しかも美人だったりしようものなら、すぐさま、奇蹟のように聡明で貞淑な女性だと信じこんでしまうものですよ。

『クロイツェル・ソナタ』トルストイ

あのソナタは実に恐ろしい曲です」という言葉が、同じ題材の音楽・小説・絵画が浮かび上がってくることでしょう。そんな言葉が、もうひとつ、この「タブー」という香りからも浮き上がって来ます。

ヴァイオリンが主旋律を奏でるように、オレンジフラワーがアンバー、ベンゾイン、ムスクと溶け合い、物憂げに甘やかに重厚なオリエンタルの香りを広がらせてゆくようにして〝恍惚のソナタ〟ははじまります。

すぐにピアノの旋律のようなスパイシーなカーネーション(クローブ)とパチョリ、コリアンダーが、甘いジャスミン、水仙、ローズ、イランイランといった繊細な花々で作り上げられた鍵盤の上で跳ねるように香りを広がらせてゆきます。

と同時に、スモーキーなベチバーが、アニマリックなシベットと溶け合う、深遠なインセンス(クローブ×パチョリ×ベンゾイン)に乗って、野性の喝采を全身に浴びせてゆきます。

やがてそれぞれが競い合うように主旋律を奪い合うように、ますますクレッシェンドで素肌の上でサンダルウッド、オークモス、シダーが満ち広がり、天にも昇らんばかりのパウダリーさが高まってゆき、とてつもなく感情がかき乱されてゆくのです。

スポンサーリンク

あらゆる芸術は絶えず音楽の状態にあこがれる。

©Dana

©Dana

ベンジルサリチレートオイゲノール(クローブ)をブレンドして生み出すオリエンタルスパイシーアコードが後のイヴ・サンローランの「オピウム」やシャネルの「ココ」、ニナ・リッチの「レールデュタン」、カルバン・クラインの「オブセッション」などに強い影響を与えました。

さらに、当時、衝撃的だった10%もの高濃度のパチョリとベンゾインが織り成す、東洋の寺院のような香りの先駆的な香りとも言えます。

2001年にソフィア・グロスマンにより、現代風にアップデートされました。

ルカ・トゥリンは『世界香水ガイド』で、「タブー」を「チープオリエンタル」と呼び、「ダナのような安い会社に期待するのは、フランス語でいうなれば「息抜き」程度。そして、この香水はその期待に応えている。かつてジャン・カールの極端なアコードは、1932年当時のありとあらゆる香調を詰め込んでいた。「タブー」はオリエンタルな香水のジンギスカンだ。鞄の中で香水瓶が割れでもしようものなら、黄金軍団がいなくても人々は逃げ出すだろう。」

「最新版もいまだに尊大で、色黒で意地悪にすら見え、布につくとひどくシミになる。配合されている強力なシッフ塩基のせいなのは間違いない。しかし今は、古今東西の偉大なオリエンタル調の香水と肩を並べるには、率直にいって安っぽ過ぎる。」

タニア・サンチェスは「もしも、バザーやオークションで、十分に古い「タブー」と出会えたら、たいてい安いので、ぜひ、おもしろ半分でいいから参考までに買ってみるといい。ルートビアーの美しいアニス調ノートとセンセーショナルなオリエンタルが、パウダリーなウッドとレザーの香りに映えている。」と3つ星(5段階評価)の評価をつけています。

スポンサーリンク

香水データ

香水名:タブー
原名:Tabu
種類:オード・パルファム
ブランド:ダナ
調香師:ジャン・カール
発表年:1932年
対象性別:女性
価格:不明


トップノート:ベルガモット、オレンジ、ネロリ、コリアンダー
ミドルノート:カーネーション、イランイラン、ジャスミン、ローズ、水仙
ラストノート:アンバー、シベット、ベンゾイン、サンダルウッド、パチョリ、ムスク、オークモス、ベチバー、シダー