アルマーニ革命とは何だったのか?
ファッション・ショーではなく、映画だからこそ、どれだけの月日が経とうとも、人々は、その中の登場人物のファッションを現実と結び付けて、現在に置き換えて考えやすいもの。
DVDとブルーレイが、ファッション業界にもたらした革命は、過去の映画が高画質で蘇ることにより、当時のファッションが、息を吹き返したということです。
そんな恩恵を享受して、本作を改めて見てみると、アルマーニのアンコン革命とは、結局のところ、アンコン・ジャケットよりも、メンズスーツに使用した素材と色彩の革命だったということを教えてくれます。
そして、プチプラ・ファッションとは、つまりはファッション感度の執行猶予に過ぎないということを、嫌というほど教えてくれるのです。
私は過去の持つイメージとオーラについて、いつも多くのことを考えてきた。私自身の過去、私の家族の過去、そして私の幼い頃の唯一の楽しみであった映画の過去、映画が確かに私のデザインに影響を与えたと、私は認識している。そして映画が私の最初の愛情であったことも理解している。私は映画監督になりたいと思っていた。この情熱は、まだ私の血の中を流れている。
ジョルジオ・アルマーニ
ジュリアン・ケイのファッション18
ノータイ・スタイル
- ライトグレー・フランネルジャケット、ダブル、ピークドラペル、ヨーク・ディテール、パッチポケット、ノーベント(ルック7と同じ)
- ライトグレーのシャツ、ショートポイントネック
- ライトグレーの細身のレザーベルト
- ライトグリーンのトラウザー
- ROOTSのライトグレーのレザーシューズ
アルマーニのブラック・スーツ
ブラック・スーツを着ているジュリアンにレオンが一言いいます。「葬式帰りみたいだな」と。確かにこの時代のブラック・スーツに対する印象は、一般的にそういったものでした。
しかし、12年後に、『レザボア・ドッグス』(1992)の中で、悪党たちが全員ブラック・スーツで現れた瞬間、ブラック・スーツは〝クール〟の象徴へと変わっていったのでした。
そして、21世紀のエディ・スリマンによるディオール・オムのスーツによって、ブラック・スーツはモード且つ〝スーパークール〟の地位を確立したのでした。
ジュリアン・ケイのファッション19
ブラックスーツ再び
- ブラックスーツ、ノッチラペル
- 白シャツ、ショートポイントカラー
- ゴールドタイ、ブラックピンドット
- ROOTSのブラック・レザーシューズ
ジュリアン・ケイのファッション20
ポロシャツ
- ヌードカラーのポロシャツ、ロングスリーブ、フロントに胸ポケットなし
- タン色の細身のレザーベルト
- タイトなブルージーンズ
- カルティエのタンク・アメリカン
こういったヌードカラーのポロシャツにブルージーンズが見事に合うのも、タンカラーのベルトが差し込まれているからです。本作は、〝ジャケットの教科書〟である以上に、〝細身ベルトの教科書〟でもあるのです。
ジュリアン・ケイのファッション21
ウィンドブレーカー
- アルマーニのベージュのウィンドブレーカー
- 水色のリネンシャツ、ショートポイントカラー、両胸にフラップポケット
- 黒の細身のレザーベルト
- ベージュのトラウザー
- ROOTSのライトグレーのレザーシューズ
そして、アルマーニは永遠になった・・・
本作以降ジョルジオ・アルマーニは、多くの話題作に衣裳を提供していきます。ずらっと列挙してきましょう。
翌1981年に、マイケル・マン監督作『ザ・クラッカー/真夜中のアウトロー』のジェームズ・カーン、1982年に『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』のミッキー・ローク、1984年に『ストリート・オブ・ファイヤー』、1985年にアントニオーニ/ヴェンダースの『愛のめぐりあい』、同年、ジェニファー・コネリー主演の『フェノミナ』、1986年にマルーシュカ・デートメルス主演の『肉体の悪魔』、1987年に『アンタッチャブル』、1988年に『女たちのテーブル』のカトリーヌ・ドヌーヴ、1989年に『バットマン』、1990年に『ミザリー』のローレン・バコール、1991年にペドロ・アルモドバル監督の『ハイヒール』、同年に『訴訟』のメアリー・エリザベス・マストラントニオ。
2000年に『シャフト』のサミュエル・L・ジャクソンとバネッサ・ウィリアムズ、2001年に『アイ・アム・サム』のミシェル・ファイファー、2005年に『アビエイター』のメガネ全て。2008年に『ダークナイト』のクリスチャン・ベール、2009年の『イングロリアス・バスターズ』のブラッド・ピット、2013年『エリジウム』のジョディ・フォスター、2015年の『ニュースの真相』のケイト・ブランシェットといった具合です。
ちなみに、1992年の『愛という名の疑惑』でリチャード・ギアは再びアルマーニを着ています。
ジュリアン・ケイのファッション22
ラスト・ルック
- 青味がかったグレー・シャツ、ショート・ポイント・カラー、両胸にパッチポケット
- ブラックのレザーベルト
- グレーのトラウザー
- ROOTSのブラウンのレザーシューズ
- カルティエのタンク・アメリカン
作品データ
作品名:アメリカン・ジゴロ American Gigolo (1980)
監督:ポール・シュレイダー
衣装:ジョルジオ・アルマーニ
出演者:リチャード・ギア/ローレン・ハットン/ニーナ・ヴァン・パラント
- 【アメリカン・ジゴロ】アルマーニとリチャード・ギアとローレン・ハットン
- 『アメリカン・ジゴロ』Vol.1|リチャード・ギアとジョルジオ・アルマーニの革命
- 『アメリカン・ジゴロ』Vol.2|リチャード・ギアとアルマーニのアンコン・ジャケット
- 『アメリカン・ジゴロ』Vol.3|カルティエのタンク・アメリカンを愛用するジュリアン・ケイ
- 『アメリカン・ジゴロ』Vol.4|映画がメンズ・ファッションの流行を作る時代のはじまり
- 『アメリカン・ジゴロ』Vol.5|アルマーニ革命とは何だったのか?
- 『アメリカン・ジゴロ』Vol.6|ローレン・ハットンとボッテガ・ヴェネタ
- 『アメリカン・ジゴロ』Vol.7|ローレン・ハットンとリチャード・アヴェドン
- 『アメリカン・ジゴロ』Vol.8|ローレン・ハットン、ヴォーグ史上最多の表紙を飾る!!
- 『アメリカン・ジゴロ』Vol.9|ファッション・モデル界に革命を起こしたローレン・ハットン