ラ パンテール
原名:La Panthere
種類:オード・パルファム
ブランド:カルティエ
調香師:マチルド・ローラン
発表年:2014年
対象性別:女性
価格:30ml/12,045円、50ml/16,830円、100ml/23,100円
公式ホームページ:カルティエ
カルティエのシグネチャー・フレグランス
私が最初につけた香水は、シプレの名作グレのカボシャールでした。おもしろいことに、私の母は、あまり香水をつけなかったのですが、シプレノートだけは好んでいたことを思い出します。このフレグランスは、カルティエのために私が創った21世紀のモダンシプレです。
マチルド・ローラン(以下、すべての引用は彼女のお言葉です)
ハイジュエリー・ブランドであるカルティエにとって、パンテール(パンサー=豹)は、ブランドを象徴するアイコンです。それは躍動感溢れる豹のモチーフを使用することにより、ジュエリーに命を吹き込んだという点において画期的でした。
その名を冠したフレグランス「ラ パンテール」が、2014年3月に発売されることになりました。
2005年にカルティエの専属調香師になったマチルド・ローランが3年の歳月を費やし生み出した、渾身の〝野生のシプレフローラル〟の香りです。それは1986年に発売され、今は廃盤になっている香水「パンテール」(アルベルト・モリヤス作)に対する想いも込めて作られたものでした。
ラ パンテール=ジャンヌ・トゥーサン
「ラ パンテール」は、香りをまとった女豹の神話です。動物界で唯一、良い香りを放ち、狩りをする必要のない野生動物である。ただその香りに誘われてくる獲物をを待つだけなのだ。
それゆえ、この豹は、美しく気高いのだ。狩りをしないことが、彼女を神聖にするのだ!
カルティエの最も有名かつ重要なジュエリー・シンボルであるパンテール=豹。
その歴史は1914年、オニキスとダイヤモンドで表現されたパンテールパターンの女性用ウォッチと、パリ宝飾展示会の招待状に、ギリシャ風の服装を着た女性の足元に横たわる黒豹が描かれたことからはじまりました。このイラストは20世紀を代表するイラストレーターであるジョルジュ・バルビエにより描かれたものでした。
そして、1933年から1970年にかけてカルティエのクリエイティブ・ディレクターをつとめたジャンヌ・トゥーサン(1887-1976)の力量により、その名が世界の上流階級に響くようになりました。
特に1948年に、ウィンザー公爵夫妻のために152.35カラットにもなるカシミア産サファイアのカボションを使ったプラチナ製パンテール・ブローチが有名です。彼女自身もパリではじめて豹の毛皮のコートを着た人と言われ、その自由かつ独立心の強い性格から〝ラ・パンテール〟と呼ばれていました。
このフレグランスのミューズは、彼女であり、マチルド・ローラン自身です。つまりは〝しなやかに、したたかに、たくましく反逆する女たちに捧げられた香り〟なのです。
マチルド・ローランの亡き母への想いを込めた香り
「ラ パンテール」が21世紀のカルティエの香水の中でも特別な意味を持ち始めているのは、調香師の想いが、ブランドの想いとひとつになったからでしょう。
カルティエの母とも言えるジャンヌ・トゥーサンと、マチルドの母への想いが結びついたからこそ、歴史的とも言える傑作が生み出されたのです。
この香りを作る前まで、マチルドにとって母の香りの想い出は、ほとんどありませんでした。母は香水をほとんどつけない人でした。しかし、最近はずっとシプレに近い、とてもウッディな香りである「ル ベゼ デュ ドラゴン」をつけていました。
私はこのメゾンの神話を表現し、動物からインスピレーションを得て、カルティエの象徴を生み出したジャンヌ・トゥーサンからもインスピレーションを得たいと思いました。ココ・シャネルの友人であり、20年代を生きたジャンヌ・トゥーサンを思い浮かべたとき、この女性はシプレしか身につけられないと思いました。
生き生きとしたアニマルノートを持つシプレが、私の「ラ パンテール」のアイデアでした。「ミツコ」と「ファム」を思い浮かべましたが、「ミツコ」はもっと遊び心のあるエキゾチックな面を持っているのに対し、「ファム」はほとんど自分自身の吐息のようです。
マチルドは、かつてイジプカで勉強している時代に、元祖シプレの傑作であるロシャスの「ファム」の香りを嗅ぎ、その美的衝撃に圧倒されました。もし香水を1つしか選べないとしたら、この香水しかないと思うほどの完璧な芸術作品だと感じたのでした。マチルドはなぜこの香りに一瞬で恋に落ち、これほどまで魅了されるのかわかりませんでした。
時は経ち「ラ パンテール」の制作にを開始した頃、マチルドの母が病に倒れました。ある日、母の写真を整理していたところ、「ファム」のボトルを持っている若き日の母の写真を見つけ、その時、マチルドが生まれて数ヶ月の間に母がその香水をつけていたことを知ったのでした。
なぜ私が「ファム」に魅了されたのか、その瞬間、点と点が線でつながりました。そして、「ラ パンテール」の発売と同時に最愛の母はそれを見届けるようにして亡くなったのでした。
〝すべての女には野性の猫が棲む〟
私は今まで存在したことがないような新しい女性のための香りを創りたいという願望がありました。市場にある官能的な女性像を一新したいと考えました。いつも裸に近くて、化粧が濃い、常に性的な女性なんているわけないと感じていたのでした。
だから、官能性と戯れている、とても洗練された女性像を示したいと思いました。全ての女性はネコ科の一面を持ち合わせています。そして、全ての花は隠された動物エッセンスを持っています。もし花々の匂いを放つ動物がいたら、周りの動物を魅了するだろうと思い、フローラルと野性の調和を試みました。
この香りに新しいものはありません。シプレもアニマル・ノートも新しいものではありません。新しいアコードを発明したわけでもありません。しかし、歴史から最もシックで、最も女性的な官能性を見出したものを取り入れ、再び市場に送り出したのです。
〝すべての女には野性の猫が棲む〟というボードレールの呪文により解き放たれたパンテールが、あなたの素肌に飛びかかったとき、あなたの中に眠る獣性が目覚めてゆきます。
煌めく閃光のごとく弾けるベルガモットとルバーブに、ジューシーなストロベリーと(ピーチのような)アプリコットが注ぎ込まれ、アニスによってかき混ぜられてゆきます。それはまるで豹の化身となったシャンパンのように全身に降り注いでゆきます。
すぐにオークモスとパチョリが加わり、クラシカルでありながらモダンなフルーティシプレが、素肌の上に滑らかに引き伸ばされてゆくのです。
フレッシュな甘さと酸っぱさに、砂糖漬けされたフルーツと苦いシプレが混じりあい、純白の野心は、やがて黄金の狂気に代わるように、獣の本能にゆるやかに目覚めてゆくのです(オリジナル版は、濃厚なフルーツによって、獣の本能を揺り動かされるように目覚めていく)。
そして、アニマリックなムスクケトンとレザーが広がる中、肉感的なガーデニアを中心にイランイラン、オレンジ・ブロッサム、そして、オスマンサス(最初から存在するアプリコットと結びつき)が開花してゆくのです。かくして常ならぬ美をほこれる颯爽たる女が誕生するのです。
一方で、咲き始めていたローズが、みずみずしい洋ナシとひとまとめになり、まるで白ワインとルジェ ペアが素肌の上で、新鮮な魔法を起こす水のように、レザーとムスクにクリーミーな輝きを与えてゆきます。
この香りこそが、〝21世紀のモダンシプレ〟と呼ばれている理由は、IFRAに禁止されているオークモスの効果を、合成香料で見事に再現しているからです。つまり2014年に生み出された、本物のオークモスを感じさせる、極めて壮大な〝新時代のシプレ〟です。
クロエの「ノマド」やボッテガ・ヴェネタの「ボッテガ ヴェネタ」とよく比較される香りです。
内側に豹の頭部が浮かびあがるようにみえるボトル・デザインが特徴的です。カール・ラガーフェルド・フォー・H&Mのモデルに起用されたこともあるスーパーモデル・エリン・ワッソン(1982-)がキャンペーン・モデルを務めました。
香水データ
香水名:ラ パンテール
原名:La Panthere
種類:オード・パルファム
ブランド:カルティエ
調香師:マチルド・ローラン
発表年:2014年
対象性別:女性
価格:30ml/12,045円、50ml/16,830円、100ml/23,100円
公式ホームページ:カルティエ
トップノート:ルバーブ、ビッグ・ストロベリー、ドライフルーツ、ベルガモット、アニス
ミドルノート:ガーデニア、オレンジ・ブロッサム、洋ナシ、ローズ、イランイラン
ラストノート:ムスク、オークモス、パチョリ、レザー