ラ ミール
原名：La Myrrhe
種類：オード・パルファム
ブランド：セルジュ・ルタンス
調香師：クリストファー・シェルドレイク
発表年：1995年
対象性別：ユニセックス
価格：不明
アドーニスの母、「ミュラの涙」の香り
セルジュ・ルタンスは、1992年に元々書店があった場所に、レ・サロン・デュ・パレロワイヤル・シセイドーをオープンしました。そのオープンに合わせ「フェミニテ デュ ボワ」を含む五つの香りが発売されました。
1995年に発売された「ラ ミール」は、パレ・ロワイヤル本店限定の香りにおいて、最も特異な存在感を放つ香りです。ミルラを主役に据えるという、発売当時非常に珍しいことをやってのけ、ミルラに〝夜のものがたり〟を語らせた香りです。
調香を担当したクリストファー・シェルドレイクという男の謎を全て詰め込んだ香りともいえます。現在この香りは、パレ・ロワイヤル本店だけで取り扱われている「レフラコンドターブル」コレクションのひとつとなっています。
ミルラ＝ミュラの名の由来は、ギリシア神話に登場するフェニキアの王女からです。美の女神アプロディーテーよりも美しいという噂話に嫉妬したこの女神が、12歳のミュラが実の父親と近親相姦するように仕向けたことから彼女の悲劇は始まります。
暗闇の中で、12夜連続、二人は身体を交わし、その娘の顔に興味を持った父親キニュラース王は、ついに明かりの下で、その娘が実の娘であることを知り激怒したのでした。
ミュラは、殺害される寸前で逃亡し、９ヶ月間彷徨った末に、アラビアに落ち延び、子を宿らせながらも、神々の同情により、ミルラ（没薬）の木に変えたのでした。そして、その木から美少年アドーニスが誕生するのでした。
セルジュは、この悲しい神話を、アプロディーテーによりミルラに変えられたという解釈で、「ミュラの涙」としてこの香りを創造しました。
この香りの本当の名は『TABOO』。
この香りの父親はクリストファー・シェルドレイクだった。その事実が、この香りのすべてです。セルジュ・ルタンスが、シェルドレイクのシャネルの調香師の一面をドラマティックに融合させた香りそれが「ラ ミール」です。
アルデハイドが天に召され、シャネルの「N°5（No.5）」のような鋭い閃光を放ち、（メタリックなシャンパンの輝きが）再び地上に降り注ぐ中、ほろ苦く煌くミルラが解き放たれます。
流星のようにスパークリングするアルデハイドとミルラが渾然一体となりながら、ジューシーに甘やかされたマンダリン・オレンジに到達した瞬間、すべては渦巻く星雲に飲み込まれ、ロータスとジャスミンがほのかに香るとんでもなく滑らかなミルキーウェイを生み出してゆきます。
それはどこか北欧の美しい町並みに降る雪のようでもあります。透き通るような空気の中で、しんしんと降り積もる粉雪が舞い上がるようです。
全ては公式ホームページのこの一行に集約されています「Forgive this fragrance, because it knows not what it does! 」＝「どうかこの香りをお許しください。小生には何が起こるか予測もつきかねます」。
つまりは、（アルデハイド＝石鹸から、ミルラ＝コーラまで）急展開するドラマティックさと静謐さの絶妙なバランス（光と闇のエクスタシー）の上に生み出された香り。それが「ラ ミール」なのです。
やがて、パウダリーなアーモンドとアニス、蜂蜜によりミルラ×オレンジはその甘さとスパイシーな温かみに、サンダルウッドとアンバーによる、（どこかコーラを連想させる）クリーミーな奥行きを与えられてゆくのです。
それはまさに、夜の帳の中で、「魔の刻」を過ごす二人の男女の大罪の香りであり、その先に確実に停車する不幸の終着駅があるが故に、圧倒的な恍惚感を伴うのです。香りの世界だけに許される禁忌の香りであり、それは教会のステンドガラス越しの陽光を受け美しい光に包まれたマリア像に導かれる地獄への道なのです。
ルカ・トゥリンは『世界香水ガイド』で、「ラ ミール」を「樹脂調 アルデハイド調」と呼び、「ボトルを開けて驚いた。スパイスも、バニラも、重たい煙草も、レザーも、そしてサンダルウッドも、クレオパトラのイメージも、オリエンタル調を作り出すおなじみの材料はすべて消えうせている。」
「ミルラといわれるスモーキーなバルサム系のベースに、「ホワイトリネン」に通じるさっぱり感をともなった、光り輝くローズといった現代的なアルデハイド調のフローラルを重ねた。この意外性のおかげでラ ミーラはどういうわけか、かつて「シャリマー」がもっていた信じられないほどの明るさと甘さの絶妙なバランスを蘇らせている。」
「純粋で、清潔感があり、この世のものとは思えない美しさとエネルギーにあふれた音色を奏でる。天空まで届きそうな透明な歌声。」と5つ星（５段階評価）の評価をつけています。
香水データ
香水名：ラ ミール
原名：La Myrrhe
種類：オード・パルファム
ブランド：セルジュ・ルタンス
調香師：クリストファー・シェルドレイク
発表年：1995年
対象性別：ユニセックス
価格：不明
シングルノート：ムスク、ジャスミン、ロータス、サンダルウッド、アンバー、マンダリン・オレンジ、ミルラ、アーモンド、ペッパー、ホワイトハニー