作品データ
作品名:若草の萌えるころ Tante Zita (1968)
監督:ロベール・アンリコ
衣装:ジェニーン・エーリー
出演者:ジョアンナ・シムカス/ベルナール・フレッソン/ホセ・マリー・フロタス
トレンチコートの三大聖典のひとつ。
かつてトレンチコートにも流行が存在した。「もう今年はトレンチコートは流行らない」なんて言っていた時代が存在しました。しかし、21世紀に入り、トレンチコートというワードローブは、オシャレな人でなくても、一着は持っていたほうがいい、流行を突き抜けたファッション・アイテムとなりました。だからこそ、私達は今一度トレンチコートのスタイリングを学ぶ必要があるのです。
1960年代、この時代ほど女性がトレンチコートを、上手く着こなしていた時代はありません。
- 『ティファニーで朝食を』のオードリー・ヘプバーン
- 『シェルブールの雨傘』のカトリーヌ・ドヌーヴ
- 『若草の萌えるころ』のジョアンナ・シムカス
この三作品こそが、トレンチコートの三大聖典と言えるでしょう。特に、本作では、主人公のジョアンナが、本編のほぼ70%以上に渡ってトレンチコートを着ているのです。
本作の監督ロベール・アンリコは、ジョアンナ・シムカス(1943-)の代表作『冒険者たち』(1967)を一年前に撮影しました。そして、本作の撮影を担当したジャン・ボフェティも、音楽担当のフランソワ・ド・ルーベも同じくです。そんな三人が、ジョアンナの魅力を、〝永遠の記録〟にすることだけを考えて生み出されたのがこの「若草の萌えるころ」なのです。
この作品のジョアンナが物語の大半で、トレンチコートとローファーを履いているのも、そんなスタイルが最もジョアンナの魅力=60年代のパリジェンヌの魅力を写し出すことが出来ると考えたからなのです。そこには『死刑台のエレベーター』のジャンヌ・モローのような圧倒的な存在感はありません。しかし、女性の共感を呼ぶ、少女が大人の階段を登っていく〝もっとも美しい一日〟がそこには映し出されているのです。
トレンチコートには、ミニマルなバッグを合わせる。
決して演技力や表現力に長けた女優とはいえないジョアンナ・シムカス。ときどき馬づらのように見える瞬間もあれば、物憂げな美貌を見せる瞬間もある。ファッションモデル系というよりも、ぽ~っと突っ立っていて、邪魔になるのっぽ女子系で、とても自然でいいです。そんなどこか身近に感じる彼女だからこそ、ほぼ全編に渡って着ているトレンチコート姿が本当にお手本になるのです。
アニー・コーデ1 ウール・オン・ウール
- 鼈甲の髪留め
- ベージュのトレンチコート
- 若草色のウールパイル・セーター、七分袖
- グレーとブラウンのウール・ツイードのミニスカート、マーメイドスカート
- 黒のショルダーバッグに、新聞で巻いたフランスパン
- 金の小さなペンダントつきネックレス
- ブラウンのローファー
アニーが登場するときに印象的なのが、新聞紙で巻いたフランスパンと、ヘアバンドで束ねた教科書です。60年代のフランス映画のヒロインは、よく本を野ざらしに持って歩いています。ファッションにおけるアクセサリーとは、身に着けるものだけでなく、携帯する日常的な生活品のことも指すのです。
部屋着にくるみボタンが素晴らしい。
アニー・コーデ2 若草ナイトガウン
- 白のネグリジェ
- 若草色のピンドットナイトガウン、七分丈のアンブレラ・スリーブ、クルミボタン
- 鼈甲メガネ
この後のシーンで、ジタ叔母さんが倒れたときに羽織っていた赤の方眼編みのストールを、アニーは羽織っています。こういったさりげない描写の中にも、アニーのジタ叔母さんへの深い愛情が感じ取れるのです。