ダチュラノワール(黒のダチュラ)
原名:Datura Noir
種類:オード・パルファム
ブランド:セルジュ・ルタンス
調香師:クリストファー・シェルドレイク
発表年:2001年
対象性別:ユニセックス
価格:日本未発売(75ml/€260)

狂い咲くダチュラに魅せられる『ファム・ファタール入門』

©Serge Lutens


チョウセンアサガオの白い花の美しさと壮麗さは、その強烈な花びらに宿り、夜になると催眠術のように魅惑的な香りを放つのだ。自ら強いパワーを放ち、周りのエネルギーを吸い込んでさらに魅力を増す。人をひきつけ、また惑わすような、比類の無い香り。
「まるで楽園にサタンが残した煙の跡のようだ。この香りは人を魅了すると言う者もいれば、狂わせるという者もいる。また、過剰に浴びると死に至ると言う人もいる。正確に言うと、ある夜、私はブルグマンシア(別名:エンジェルズ・トランペット)を採取し、その長く残る記憶の香りを蒸留したのだ」
セルジュ・ルタンス公式サイトより
第一印象は汚れた顔の天使でした。しかし、接するうちにその人の中身は、汚れも傷も知らない果実であることを確信しました。そしてその滑らかな堅肉に、嬉々として噛み付いた瞬間、私の地獄変ははじまりました。
悪魔に導かれ地獄の中で狂い咲くダチュラ。その花の香りを愛することは〝ファム・ファタールへの道〟を進んでいく事を決めたということだ。そんな『悪女養成学校』の香りとして2001年に「ダチュラノワール」は、「運命の女」達が好むラグジュアリー・ブランドであるシャネルの調香師でもあるクリストファー・シェルドレイクにより調香されました。
〝ダチュラノワール〟とは、フランス語で〝黒いチョウセンアサガオ〟の意味です。この香りは、2018年3月21日に「コレクションノワール」の中に組み込まれ、その後再び、パレ・ロワイヤル本店だけで取り扱われている「レフラコンドターブル」コレクションのひとつとなっています。
チョウセンアサガオであるダチュラ(別名:曼陀羅華、エンジェルズ・トランペット)は、毒をもち、強烈な幻覚剤として使用される一方で、麻酔薬としても用いられることがあります。夏から秋にかけて咲くこの花は、夜になると甘くやわらかいアプリコットやプラムのような香りを放ちます。
この合法的毒殺を果たす香りは、女性が身に纏うと〝魔性のオーラ〟を生み出してくれます。一方、この香りを男性が身に纏うと、悪女を積極的に呼び寄せてしまう香りとなります。
まさに蜂蜜を全身に塗りたくり蜜蜂の群の中を行進するような香り。悪女に刺され、学ぶべきものは何一つない。後は滅ぼされるのみ・・・まさに男にとっての「甘き滅びの美学」の香りとも言えます。
あなたの悪魔を育てて大きくしていく香り

©Shiseido
最初から最後まで脇目も振らず、ただ一つの目的のために前進する香りそれが「ダチュラノワール」です。この香り一つさえあれば、人類を滅亡させることが出来るだろう。さあ、悪魔、今朝、わが部屋へ、訪ね来たり。スプレーのひと吹きと共に、ここまで眩しくて、目がくらむようで、何も見えなくて、不穏な気配を感じさせる香りはなかなかないでしょう。
不吉な予感。第六感を育てる、悪魔のセレナーデは、ビニールとキャラメルの境界線上を疾走するようなマンダリンと、甘くとろけるチューベローズと、そしてビターなアーモンドの妖美なる三重奏からはじまります。
ここにオスマンサス、ジャスミン、ヘリオトロープが注ぎ込まれ、煮詰められたムスクとアンバーがとろりとひとさじ振りかけられた瞬間、甘くて苦くて、さらにチェリーのように酸っぱく酔わせる、明らかに善良ではない方向に向かって進みたくなる、破滅の香りに満たされてゆくのです。
一度この部屋の扉を開けると、その部屋の中で行われている行為から目が離せなくなり、逃れることは出来なくなる。そんな香りがゆっくりと、素肌を透かして、心に染み込んでゆくのです。そして〝悪魔がそっとあなたに耳打ちする〟のです。
わたしはそっとこう耳打ちしておく。「いっそあなたの悪魔を育てて大きくした方がいい。あなたにも偉大さへの道はまだひとつ残されている」と。
『ツァラトゥストラはかく語りき』 フリードリッヒ・ニーチェ
やがてココナッツオイルとバニラが、乳白色の濃厚な甘い花々の香りにトロピカルなニュアンスを齎してゆきます。遠くから見ている分にはとても美しいものは、手で触れると危険です。そんな忠告も忘れてしまうほど、開放的なムードが広がり、ダチュラノワールはより暗黒の甘さをフルパワーで解放してゆきます。
ただただ甘いのではなく、うっとりするような心地よい甘さが、ねっとりと前戯を繰り返すように、天国へとゆっくりと導いてくれるようです。
〝悪魔がそっとあなたに耳打ちする〟ように、ダチュラは香る



最後に、この香りが人々を魅了し続けているのは、付けるたびに新しい感覚、またはかつて感じた至福の感覚、さらには拍子抜けする感覚と言う風に、愛の営みに似た、中毒性があるからでしょう。
モノクロームな夜に甘い香りを解き放つ白い花ダチュラ。それは1940年代から50年代のモノクロのハリウッドムービーに登場するファム・ファタールのような存在です。白と黒の世界だからこそ、生み出すことの出来る、あなたが理想とする〝謎めいた絶世の美女を追いかける香り〟なのです。
ディオールの「ヒプノティック プワゾン」と比較されることが多い香りです。
タニア・サンチェスは『世界香水ガイド』で、「トロピカルヘリオトロープ」と呼び、「ダチュラは朝鮮アサガオのことで、毒をもち、強烈な幻覚剤として用いられることがある。オーブリー・ビアズリーがデザインしたのではと思うような、長くて白いトランペット型の花が茎から傘のように広がり、捻れてつぼむと、先端がカールした星のように見える」
「昔、ブルックリンにいたとき、近所の歩道わきに群がって咲いていたものは、安っぽいレモンのような匂いがした。これはどう考えても香水の着想としてふさわしくないので、ダチュラノワールは純粋に空想の物語ということになる」
「チェリーとココナッツとジャスミンの香る、 熱帯の日焼けオイルの幻想 ――― 安っぽく甘く、少々浮かれ過ぎだけれど、夏の暑さにはそういう楽しさがある」と3つ星(5段階評価)の評価をつけています。
香水データ
香水名:ダチュラノワール(黒のダチュラ)
原名:Datura Noir
種類:オード・パルファム
ブランド:セルジュ・ルタンス
調香師:クリストファー・シェルドレイク
発表年:2001年
対象性別:ユニセックス
価格:日本未発売(75ml/€260)

トップノート:マンダリン、レモンブロッサム
ミドルノート:オスマンサス、ヘリオトロープ、チューベローズ、バニラ、ココナッツ・オイル、アプリコット
ラストノート:ミルラ、ビターアーモンド、トンカビーン、ムスク

