空飛ぶギロチン・ハットを持つ男・オッドジョブ
『007/ゴールドフィンガー』で、一際目立つファッション・スタイルとして記憶されるのが、ハロルド坂田(1920-1982、日本名は西田敏行と一文字違いの坂田敏行)が演じるゴールドフィンガーの用心棒オッドジョブの最初から最後まで同じフォーマル・スタイルです。
アルカイック・スマイルと共に、西洋風の執事ファッションに身を固め、ここまで似合う東洋人もなかなかいないはずです(一応役柄的には朝鮮人)。セルジオ・レオーネの西部劇に出てくる墓堀人のようでもあります。
それは178cmの長身と、シルバーメダリスト(ロンドン五輪、重量挙げ、アメリカ代表)として鍛え上げた肉体がベースにあればこそです。基本的に東洋人男性がスーツが似合わないのは、体格の貧相さによる部分が大きく、実際に海外で生活してみると実感させられるのですが、体格が貧弱な西洋人も同じくスーツ(ただし、ディオールオム・スタイルのスーツは別)が似合いません。
結局のところ、スーツが似合うかどうかの一番の鍵は、鍛え上げられた肉体なのです。
オッドジョブの存在が魅力的なのは、一切話さないことにより生み出される様式美にあります。ボンド・ムービーにおける魅力的な悪役の鉄則は、良くしゃべる悪の首魁と、無口で不敵な面構えの用心棒です。
オッドジョブの英国式執事ルック
オッドジョブ・スタイル
- 山高帽、ツバに刃物。通称〝空飛ぶギロチン〟ロックアンドコー
- 黒のノッチドラペル・ジャケット(3つボタン)&ベスト(5つボタン)、ベントレス
- ウイングカラーの白シャツ、前立て
- 細身のシルクの黒ネクタイ
- グレーカシミアのストライプパンツ
- 黒のダービーシューズ
女はいつも、男らしさとの対比を渇望している。
本作においてジェームズ・ボンドははじめてスーツにニットタイをあわせています(前二作品は、グラナディンタイを着用)。ニットタイとは、20世紀初頭に登場したシルクやウール、コットンで編み上げたネクタイです。
主に、カジュアルシーンで使用される類の「軽やかさ」を演出するネクタイでしたが、フォーマルなスーツに、濃厚な単色使いのニットタイで、男のダンディズムを体現しつつも、ボンドらしい「オトナのオトコの懐の広さ」を醸し出しています。
ジェームズ・ボンド・スタイル7
ブラウン・スーツ
- テーラー:アンソニー・シンクレア
- ブラウン・コーンツイード・ハッキングジャケット(乗馬用上着)、2ボタン、シングル、ナロー・ノッチラペル、シングルベント(同じジャケットが次作『サンダーボール作戦』で登場する)
- ライトブラウン・トラウザー、サイドアジャスター
- フランク・フォスター、ライト・エクリュ・ボタンダウン・ドレスシャツ
- ライトブラウン・ニットタイ、この時、ボンドムービー史上唯一ネクタイピンを着用している
- ダークブラウン・スエード・ダービーシューズ
- ロレックス、サブマリーナー6538
ボンドムービーには、『オトコの浪漫』が詰まっています。
映画史上初めて登場するレーザー光線から危機一髪で逃れ、(21世紀の感性で見ても)超絶カッコいいアストンマーティンDB5を乗り回し、オープンカーに乗る美女と風光明媚なスイスでカーチェイスを繰り広げ、颯爽と色々なスーツと美女と美食に囲まれ、寝室には全身金色の美女の死の接待を受け、最後は、とてつもなく大きな犯罪を企む悪党をやっつける。
そして、なかなか落ちそうになかった美女とのワンナイト・ラブを勝ち取り、「The End」マークへと導いてくれるボンド君。
女性にとってのジェームズ・ボンドとは、「男ってホントに美女を見ると鼻の下を伸ばしてバカよね」と笑って済ませることの出来るシンボル。そんなバカな男の代表選手であるJBを見て、世界中の男たちは、「オトコの中のオトコ」だと憧れるのです。
つまり、本当に魅力的なオトコとは、「いつまでたっても、まじめな表情で、全身黒づくめ姿で秘密基地に侵入する」ことが出来る男なのです。モテる男の鉄則。それは女性が鼻で笑いかねないことを堂々と継続できることなのです。
ジェームズ・ボンド・スタイル8
オールブラック・スタイル
- 黒ニットポロシャツ、3つボタン
- ブラック・メリノウール・Vネック・ロングスリーブ・セーター(重ね着)
- 黒ウール・トラウザー
- ブラックレザー・プレイン・トウ・アンクルブーツ
- ロレックス・サブマリーナー6538
作品データ
作品名:007/ゴールドフィンガー Goldfinger (1964)
監督:ガイ・ハミルトン
衣装:エルサ・フェネル
出演者:ショーン・コネリー/オナー・ブラックマン/ゲルト・フレーベ/シャーリー・イートン/タニア・マレット
- 【007/ゴールドフィンガー】空飛ぶギロチンハットと黄金美女
- 『007/ゴールドフィンガー』Vol.1|ショーン・コネリーとロレックスとワルサーPKK
- 『007/ゴールドフィンガー』Vol.2|ショーン・コネリーとアストンマーティンDB5
- 『007/ゴールドフィンガー』Vol.3|ショーン・コネリーとハロルド坂田
- 『007/ゴールドフィンガー』Vol.4|ショーン・コネリーとアンソニー・シンクレア
- 『007/ゴールドフィンガー』Vol.5|黄金美女シャーリー・イートン
- 『007/ゴールドフィンガー』Vol.6|元祖・美魔女オナー・ブラックマン
- 『007/ゴールドフィンガー』Vol.7|オナー・ブラックマンのパンツ・ルック
- 『007/ゴールドフィンガー』Vol.8|タニア・マレットと黄金美女たち