オー ソバージュ
原名:Eau Sauvage
種類:オード・トワレ
ブランド:クリスチャン・ディオール
調香師:エドモン・ルドニツカ
発表年:1966年
対象性別:男性
価格:50ml/12,650円、100ml/17,490円
公式ホームページ:ディオール
なぜ「オーソバージュ」=〝野生の花〟なのか?
ディオールが最初のフレグランス「ミス ディオール」を1947年に発売してから約20年の歳月を経て、1966年にディオールにとって最初のメンズフレグランス「オーソバージュ」を発売しました。その名の意味は〝野生の水〟です。
1953年に「オー フレッシュ」というユニセックスコロンの自信作を発表したのですが、期待したほど売れませんでした。その名誉挽回のためエドモン・ルドニツカが、1956年の「ディオリシモ」の大成功から10年ぶりにディオールに戻ってきたのでした(実際のところ作品自体は1962年に完成していたが、「ディオーリング」の発売が優先された)。
「オー ソバージュ」の名の由来はこうです。イヴ・サンローランをクリスチャン・ディオールに紹介した男ミシェル・ド・ブリュンホフ(当時のフレンチ・ヴォーグの編集長)に、イヴを紹介した男パーシー・サヴェージ(ファッション広報の基礎を作った男)が、1950年代半ばに、ムッシュ・ディオールに自宅に招かれたある日、遅刻してやってきました。
その時に、ディオールの執事に〝ムッシュ・ソバージュ(スペルが一文字多いだけ)〟と間違って呼ばれた瞬間に、「これこそ私が望んでいるメンズ・フレグランスの名に相応しい」と、ディオールは手を叩いて喜んだのです。
その遺志に従いこの香りの名は付けられたのでした。
1966年、メンズ・コロンではなくメンズ・フレグランスが誕生しました。
シトラス系の甘さがほとんどない爽快なシトラスフローラルの元祖であるこの香りは、〝ディオールのエレガンスの代名詞〟として発売当時、ヨーロッパ中のお洒落な男性がほとんどつけているほどの大ヒット作となりました(もちろん日本でも大ヒット!)。フランスに於いては、今でも男性の所有率No.1フレグランスです。
「オーソバージュ」を男性から盗み、愛用するようになった女性たちは、なんと少しもボーイッシュではなく、それどころか、多くはじつに女性的な女性だった。
『香水』フランソワーズ・サガン(発売当時のオー ソバージュ旋風について)
この一文からも分かるように、「オー ソバージュ」は男性だけでなく女性にも愛用されるようになり、その結果についてルドニツカは「この作品は原理的には男性用につくられたもので、しかし認めなければならないが、最初から下心がなかったわけではなく、女性にも利用してもらいたいという密かな激しい願望があったのである」と回想しています。
コティの砂糖漬けされた甘さや粉っぽさを徹底的に排除した「ディオリシモ」のような美しくもピュアなシプレが、創造のスタートラインとなりました。そこにヘディオンによって生み出された〝ジャスミンの情熱〟を注ぎ込んだのでした。
かくして、この香りが発売された瞬間『ヘディオン革命』が始動されたのでした。以下の二人の香水界の巨匠の言葉がこの衝撃を伝えてくれます。
クリスチャン・ディオールが1966年に発売した「オー ソバージュ」は、またたくまに世界的な成功をおさめた。シンプルで厳格なこのオード・トワレは香水界に革新をもたらした。そこから多くの変奏が生まれた。「オー(水)」という同じことばを冠して、おびただしい数の女性向け、男性向け、男女共同の香水が生まれた。「オー ソバージュ」は、発売から40年経ったいまでも、変わらぬ人気を保っている。
ジャン=クロード・エレナ
私の中で、不滅の香りは何かと聞かれたら、1966年にエドモン・ルドニツカが作ったディオールの「オーソバージュ」をあげます。フレッシュなシトラスの香りと、今日よく使われている合成香料ヘディオンを初めて使用し、ジャスミンのような香りが特徴です。
ミシェル・アルメラック
史上初めて、合成香料「ヘディオン」が人肌に舞い降りた。
クリスチャン・ディオールのエレガンスを余すことなく捉えた、メンズフレグランスの偉大なる名作。当時の男性用香水に革命を起こしました。簡単に手に入る男性用香水としては初めてのものだった。それは経済的な観点からではなく、美的な観点からです。シンプルさ、静穏さ、そして際立つ個性が見事なバランスで表現されています。
フランソワ・ドゥマシー
「オーソバージュ」は、史上初めて合成香料ヘディオンを使用した香りです。ヘディオンの登場は、フレグランス業界にとって一大革命でした。それは香りに、ビロードのような柔らかさ、厚み、丸み、複雑さ、豊かさ、しなやかさといった繊細な表現を与えることになり、ボトルの中に輝きが与えられることになりました。
ヘディオンとは、ジャスミンに含まれる900種類以上の分子のひとつであり、1958年にフィルメニッヒ社のエドゥアール・ドゥモール博士によってはじめて分離された分子です。それは女性が嗅ぐと、性ホルモンが分泌される媚薬効果もあります。
〝野生の水〟は、男の本能を呼び覚ますオークモスとパチョリが最初から最後まで存在する香りです。それは、レモンとベルガモットとバジルとローズマリーの四重奏が高揚感を生み出すように全身に響き渡るようにしてはじまります。
そして、先の二つの〝野生〟がひとまとめになり、強さともろさ、美と壊れやすさが、見事なバランスを保ちながら、素肌を透かして心にまで届く、軽やかで爽快なプレリュードを満ち広がらせてゆきます。
すぐに弾けるシトラスとハーブがだんだんと落ち着く中、ラベンダーが注ぎ込まれてゆきます。「オーソバージュ」が画期的なのは、スパークリングするシトラスと地中海の明るいハーブミックスの後に、ジャスミンの花爛漫が、インドールを効かせて男性の素肌の上で開花するように作られているところにあります(クミンも静かに寄り添う)。
太陽の輝きを軽やかに(スマートに)独占する男の誕生です。それはごく少量のヘディオン(全体の1.8%であり、現在では全体の20%を占めるものもざらにある)により誕生します。次に現れるカーネーション、アイリスといったフローラルと結びつき、透明感溢れるきらめきを驚異的なまでに持続させるのです。
やがて、ベチバーとコリアンダーのアクセントがサンダルウッドとムスクと共に、爽やかでクリーミーな野生の煌めきの中に、エレガントな男性の佇まいも与えてゆくのです。
ヘディオンというボトルの中の花爆弾を、まるで太陽を盗むように、しなやかな獣のように全身で受け止めるシンプルな美学。それは、男の中に眠っていた、シアーに輝くオーラを解き放つ〝野生の水〟なのです。
60周年を近く迎えようとしている中、1966年に作られた英国映画『アルフィー』のプレイボーイや、初代ジェームズ・ボンドや脂が乗り切っていた頃のアラン・ドロンの価値観を投影したこの香りは、一巡して再びハンサムな男性と女性の価値観にマッチしているのかもしれないです。
そして、永遠のメンズ・フレグランスになった。
ボトル・デザインは、かつてバカラで働き、フランソワ・コティの香水のボトル・デザインを多く手がけたピエール ・カミンによるものです。携帯用の酒瓶とディオールのドレスのプリーツからインスパイアされ、ボトルのキャップはムッシュディオール愛用の指抜きを模したものです。
2009年には、このフレグランスが発売された時に公開された映画『冒険者たち』を撮影していた当時のアラン・ドロンのオフショットを使用した広告キャンペーンが行われました(元々はルネ・グリュオーによる素晴らしいキャンペーン画が有名です)。
2011年に、ディオールの初代専属調香師フランソワ・ドゥマシーにより、使用香料がマイナー・チェンジされました。この香りのためだけにディオールが栽培しているカラブリアンベルガモット(サン カルロ)の爽やかなシトラスノートが処方されています。
ルカ・トゥリンは『世界香水ガイド』で、「こいつがどれだけすごいか、いつも忘れてしまう。私がこの香水をつけないのは、青春時代を思い出すからだ。それに、タッチが私にはきつ過ぎる。」
「名だたる調香師たちは、ロシアの作曲家プロコフィエフが「交響曲第一番」で18世紀の手法を用いたように、コロンの原型をいじった。魔法使いを連れてきて、まるで私の息子が遊んでいる変身ロボット「トランスフォーマー」のように、馬車を宇宙船に変えた。」
「ここで用いられた手法は3つだ。まず、パインニードルとローズマリーのアコードを1杯加えた。イタリア人は戦後この手法を使い、「アクア・デ・セルバ」や「ピノ・シルベスター」のような驚くべき作品を生み出した。次に、彼のトレードマークであるベトナム風サラダのアコード「ディオレラ」を使った。それから、初めて全体にヘディオン(乾ききった唇を潤すフローラル香料)を加えたことで有名になった。」「いずれにせよ、最高傑作だ。」と5つ星(5段階評価)の評価をつけています。
香水データ
香水名:オー ソバージュ
原名:Eau Sauvage
種類:オード・トワレ
ブランド:クリスチャン・ディオール
調香師:エドモン・ルドニツカ
発表年:1966年
対象性別:男性
価格:50ml/12,650円、100ml/17,490円
公式ホームページ:ディオール
トップノート:ベルガモット、レモン、バジル、ローズマリー、キャラウェイ、フルーツノート
ミドルノート:ジャスミン、パチョリ、カーネーション、コリアンダー、アイリス、サンダルウッド、ラベンダー
ラストノート:オークモス、アンバー、ムスク、ベチバー