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【ブルガリ】ブルガリ プールオム(ジャック・キャヴァリエ)

ブルガリ
©BVLGARI
ブルガリ
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ブルガリ プールオム

【特別監修】カイエデモードが崇拝するフレグランス・スペシャリスト様

原名:Bvlgari Pour Homme
種類:オード・トワレ
ブランド:ブルガリ
調香師:ジャック・キャヴァリエ
発表年:1995年
対象性別:男性
価格:50ml/13,090円、100ml/19,470円
公式ホームページ:ブルガリ

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世界中の男たちを〝香りに目覚めさせた〟香り

香りのイメージは、この男性モデルの〝表情〟。©BVLGARI

1884年に創業したハイジュエリー・ブランド、ブルガリの香水の歴史は、それほど長くありません。それは「オ パフメ オーテヴェール」と共に、1992年にはじまりました。

ジャン=クロード・エレナにより調香されたこの香りは、史上初めての「緑茶=グリーンティーの香り」として、90年代のユニセックス・フレグランスの流行のはじまりとなりました。

そして、1994年に二つ目の香りとしてソフィア・グロスマンにより「ブルガリ プールファム」が生み出され、三つ目の香りとして1995年に生み出されたのが「ブルガリ プールオム」でした。

現在ルイ・ヴィトンの専属調香師をつとめるジャック・キャヴァリエにより調香されたこの香りは、ブルガリ最初のメンズ・フレグランスであり、90年代に大流行しただけでなく、21世紀においても不動の地位を確立しているメンズ・フレグランスの永遠のスタンダードです。

1990年代末(すなわち世紀末)に日本中の男子中高生に対して、香水に興味を持たせるきっかけを作ったフレグランスであり、オシャレに対して決して鈍感ではないが、「身に纏う香り」に対しては何から手を出していいか分からなかった、(だからとりあえず国産コロンに手を出していた)中高年の男性に対して、香りの敷居を下げてくれたフレグランス。

つまりは香水が苦手な人でも使える〝香りの救世主〟。もしかしたら、そのような香りを生み出す先駆的存在だったからこそ、ジャック・キャヴァリエはルイ・ヴィトンの専属調香師になり得たのかもしれません。

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90年代の〝男のにおい〟のトレンドを作った香水

©BVLGARI

一言で説明すると、品のあるシトラスに、ダージリンティーが注ぎ込まれ、フワッとした甘さと苦味に包まれる、吸い込まれるような香り。香りそのものはシンプルでありながら、一緒に時を過ごしていると複雑さを感じることが出来る奥行きのある香りです。

ドラえもんの四次元ポケットから取り出されたかのような場所を問わず、年齢を問わず、性別を問わない、万能型ユニセックス・フレグランス。余分な装飾を排除した、高級感漂う(←ここが重要)シャープなボトルデザインも人気の秘密です。

この香りが素晴らしいのは、「ロー ドゥ イッセイ」(1992)により、ジャック・キャヴァリエが一大トレンドを生み出したオゾンノートとは全く違うベクトルで、メンズ・フレグランスのトレンド(理髪店からどんどん離れていく香り)を創造したところにあります。

そして、ここに90年代のメンズ・フレグランスは〝柔らかく、フレッシュで、心地よい〟という三拍子(=魔法のムスク効果)が揃うことが絶対条件になったのでした。

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世界初のダージリンティーの香り


1992年に「オ パフメ オーテヴェール」、1994年に「ブルガリ プールファム」 で、史上はじめてのグリーンティーとジャスミンティーの香りを生み出したブルガリが、三作連続〝史上はじめて〟のティー・フレグランスを生み出すことになりました。今回は、ダージリンティーです。

心にぬくもりを与えるように注ぎ込まれるダージリンティーと、透き通るようなベルガモットとマンダリンオレンジが、ゆっくりと優しくかき混ぜられるようにしてこの香りははじまります。

そして、無邪気に涼しげなラベンダーの花の囁きを、アルデハイドの星雲が渦巻かせ、ソーピィーなクリーミーさではじまりの香りと一体化してゆくのです。

あらゆる調香師の中でも柑橘の研究に特に熱心なキャヴァリエによる繊細な輝きを思わせるシトラスの独特な魅力。どうやらベースのベチバーがこの香りにおいてフレッシュかつアーシィーな背景を演出しているようです。

すぐに、カルダモン、ペッパー、コリアンダーといったスパイスが、紅茶のシャンパンと言われるダージリンティーに味付けしていく中で、この香りの縁の下の力持ちとも言えるローズウッド、シダーウッド、ガイアックウッドが全体に円やかさを与えてゆきます。

そして、この円やかさの中に、第二陣の花々(シクラメン、ゼラニウム、カーネーション、アイリス)が優しく花を咲かせるのです。

すべてのバランスが絶妙であるため、清涼感・清潔感・洗練された空気を、この香りを身に纏う人の背後に、やすやすと生み出してくれます。天才のなせる技の恐ろしさは、誰でも生み出せそうな香りを作り出せるところにあるのです。

そして、オークモスがグリーンの余韻を与えながら、シダーとペッパーに包み込まれるドライダウンへと導いてくれるのです。アンバーとトンカビーンが、プールオムの特筆すべきムスクのスペシャル・ブレンドに包まれながら、ふいに顔を出すダージリンティーを最後のアクセントにして不滅の爽やかな煌きとクリーンな苦味を伝えてくれるのです。

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空前の〝合成ムスク=魔法のムスク・ブーム〟を生み出した香り

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この香りが〝香水の歴史〟に与えた影響は、「ブルガリ プールオム」の前と後で〝ムスク〟の概念を変たところにあります。

天然のムスク(ジャコウ)とは、3歳を越える雄のジャコウジカのへそと生殖器の間にある麝香嚢という分泌腺を、体から取り出し、分泌液を乾燥させ、エチルアルコールで抽出した〝甘く粉っぽい〟香りのするものです。

しかし、1979年以後、ワシントン条約でジャコウジカの捕獲が禁止され、天然のムスクの使用が難しくなり、その代用品として使用されるようになったのが、キャヴァリエやアルベルト・モリヤスの手により作り出された、この香りの中にも使用されているフィルメニッヒ社製の数々の〝新生ムスク〟なのでした。

「香水」と言えば、シャネルの「No.5」ではなく「ブルガリ プールオム」を思い浮かべる人が増えたという点において、香水の民主化を成し遂げたフレグランスでした。

そのブランド(=ブルガリ)の香りを身につけることが、ジュエリーを身につける概念に匹敵するということを人々に知らしめた点において、かなり画期的な作品です。

しかし、一部の日本中の若者たちにとって、ブルガリとは、イタリアの福寿園(またはローマのドン・キホーテ)のようなものだという誤解を与える弊害も生み出してしまった香りとも言えます。

ボトル・デザインは、ティエリー・ドゥ・バシュマコフによりデザインされました。

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ルイ・ヴィトンの香りに感じる「プールオム」の影


ジャック・キャヴァリエがフルメニッヒ社の調香師だった頃と、ルイ・ヴィトンの専属調香師としての今とでは、フレグランスを創造する環境はまったく違います。

ルイ・ヴィトンは、キャヴァリエに、原料費・香料の製造費および制作期間に、一切の制約を設けず、ただ〝ルイ・ヴィトンにとってあなたが想う最高の香り、最高の作品を創ってください〟と依頼しているのです。

それはエルメスにおけるジャン=クロード・エレナ及びクリスティーヌ・ナジェルやカルティエのマチルド・ローランとよく似ています。

これはフレグランスに限った事ではなく、ルイ・ヴィトンは他のカテゴリーも同様に〝作り手の感性に任せて自由に作ってもらう〝ことを尊重しているブランドです。

たとえば、ルイ・ヴィトンは、自社ブランドの時計製造のために、聖地スイス・ジュネーヴにある「ラ・ファブリック・デュ・タン」(2007年創立)という工房を2011年に買収し、2014年に巨大な新工房を建造し、ムーブメントも文字盤のデザインも全て自社で製造しています。

それを手がける時計師は、工房を創立した二人です。過去にはパテックフィリップ、オーデマピゲ、フランクミュラーなど様々な高級ウォッチブランドを手掛けたミッシェル・ナバスエンリコ・バルバシーニです。二人は〝神〟ジェラルド・ジェンタの高弟でした(オーデマピゲの「ロイヤルオーク」、パテックフィリップ「ノーチラス」、カルティエ「パシャ」など)。

彼らは、現在はルイ・ヴィトンの30万円台のクオーツ時計から何千万円もする高級時計まで全てのルイ・ヴィトンの時計を手がけています。2人が高級時計ブランドではなくルイ・ヴィトンに所属する理由は、〝ルイ・ヴィトンは制約がなく、自由な発想で作らせてくれるから時計作りがとっても楽しい!〟ということからなのです。

つまり、ルイ・ヴィトンは、それぞれのカテゴリーにおける〝聖地〟に自社のアトリエを構え、最高の物作りに専念できる環境を提供し、作り手の感性を信じ、すべてを任せているのです。

ジャック・キャヴァリエもそんな環境の中で、かつて『作りたかったけど作れなかった香り』の夢を叶えているのがルイ・ヴィトンのフレグランスなのです。

だからこそ、現在のLVの香りには、「ブルガリ プールオム」を昇華させた香りだと感じさせる部分が、随所に見受けられるのです。

たとえば、柑橘の香りを研究することをライフワークにしているキャヴァリエがそのノウハウを持ってして作られた究極のシトラス「メテオール」。キャヴァリエの代名詞と言える、人を魅了する魔法のようなムスクを突き詰めた「スペル オン ユー」や「コズミック クラウド」。

天然のスリランカ産のブラックティーを使用している「イマジナシオン」などの香りからは、明らかに「ブルガリ プールオム」の遺伝子を感じるのです。

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香水データ

香水名:ブルガリ プールオム
原名:Bvlgari Pour Homme
種類:オード・トワレ
ブランド:ブルガリ
調香師:ジャック・キャヴァリエ
発表年:1995年
対象性別:男性
価格:50ml/13,090円、100ml/19,470円
公式ホームページ:ブルガリ


トップノート:アルデハイド、ベルガモット、ティー、オレンジフラワー、ラベンダー、ナツメグフラワー、マンダリンオレンジ
ミドルノート:カルダモン、ペッパー、ブラジル産ローズウッド、アイリス、ガイアックウッド、コリアンダー、シクラメン、カーネーション、ゼラニウム
ラストノート:ムスク、クリアアンバー、ベチバー、シダー、オークモス、トンカビーン