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ジェームズ・ボンド

『007/ドクター・ノオ』Vol.2|アンソニー・シンクレアのボンドスーツ

ジェームズ・ボンド
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MI6御用達のテーラー、アンソニー・シンクレア

ショーン・コネリー(1930-)は、ジェームズ・ボンドを演じるまで、ほとんどスーツを着たことがありませんでした。しかし、ボンドの設定は、ボンド自身のセリフにもある通り、サヴィル・ロウのスーツを愛用しているということなので、監督のテレンス・ヤングは自身の御用達テーラーであるアンソニー・シンクレアにボンド・スーツを仕立ててもらいました。

それは厳密に言うとサヴィル・ロウではなく隣接するコンジット・ストリートにありました。

ボンドスーツは、サヴィル・ロウのロンドン・カットではなく、コンジット・カットでした。コンジット・カットは、50年代のパリやローマのスタイルを取り入れたコンチネンタルと呼ばれる様式に近いミニマルさを持っていました。シンクレアは、以後、全てのコネリー=ボンド・スーツを担当しました(1982年にテーラーを引退しました)。


シンクレアは、1950年代に復員兵のための復員スーツの仕立て屋からそのキャリアをスタートしました。そして、戦車部隊指揮官だったテレンス・ヤングの復員スーツも仕立てました。

体格の良い男性のスーツを仕立てて来ただけあり、ボディビルダーだったショーン・コネリーの、肉体美を生かしたスーツを作るのはお手の物でした。コネリーの無骨な肉体をエレガントに見せるために、ナチュラルショルダー、ゆったりした胸のドレープ、控え目なウエストのシェイプといった、現在の基準で言うとひとつ半くらい大きな仕立てが採用されました。

そして、テレンス・ヤングは、スーツを着慣れていないコネリーに対して「一日中スーツを着て生活して、スーツに慣れてくれ。もちろん寝るときも」と要求しました。こうして、スーツを着て生まれてきたかのようなエレガントなジェームズ・ボンドは誕生したのでした。

コネリーのスーツの採寸をするアンソニー・シンクレア。

ビルドアップされたコネリーのボディラインに念入りに合わせています。

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ジェームズ・ボンドのファッション3

グレンチェックスーツ
  • テーラー:アンソニー・シンクレア
  • ジャマイカのような熱帯向きのライトグレーのグレンチェックスーツ、シングル、2つボタン、ノッチラペル、サイドベンツ
  • ライトブルー・コットン、ターンブル&アッサー・ドレスシャツ
  • ネイビーブルーのターンブル&アッサー・グレナディン・ネクタイ、ウィンザーノット
  • 白のリネンのポケットチーフ
  • ジョン・ロブのブラック・カーフレザー・プレーントゥ・3アイレットダービー

ボンドは、一見すると同じに見える、二種類のライトグレーのスーツを着ています。

ショーン・コネリーの身長は188cmです。顔の小ささがとてもよく分かります。

サイドアジャスターが付いているトラウザー。

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ターンブル&アッサーのシャツ

マイケル・フィッシュとショーン・コネリー

丁寧なシャツの仕立ての雰囲気がよく伝わってくる写真です。

1961年にターンブル&アッサーにてシャツを仕立てているショーン・コネリー。この時まで、コネリーはシャツを仕立てた経験がありませんでした。そして、この時、コネリーのフィッティングを担当したのが、後にピーコック革命の立役者のひとりとなるマイケル・フィッシュでした。

最上級の綿・シーアイランドコットンで作られたこのシャツの特徴は、フィッシュがデヴィッド・ニーブンのために特別あつらえしたターンナップカフ(カクテルカフ)でした。これは、テレンス・ヤング監督が要求したものでした。そしてこのシャツは映画のために72枚注文されたのでした。

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マイケル・フィッシュ=ピーコック革命

トレンチコートを着て自分のお店の前に立つマイケル・フィッシュ。

レザーのトレンチコートを着て店先に立つフィッシュ。

マイケル・フィッシュ(1940-)は、1966年にクリフォード・ストリートに「ミスターフィッシュ」をオープンし、キッパータイや、マンドレスといった新しいデザインを発表し、ミック・ジャガーデヴィッド・ボウイが好んで着用するようになります(下の写真は、1970年に発売されたデヴィッド・ボウイの三作目のアルバム『世界を売った男』。ボウイはマンドレスを着ている)。


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ジェームズ・ボンドのファッション4

ウール・モヘア混紡ライトグレースーツ
  • テーラー:アンソニー・シンクレア
  • 光沢のあるウール・モヘア混紡のライトグレースーツ、シングル、2つボタン、ナローなノッチラペル、ダブルベンツ、サイドアジャスターのスラックス
  • ホワイト・コットン、ターンブル&アッサー・ドレスシャツ
  • ダークネイビーブルーのターンブル&アッサー・グレナディン・ネクタイ、ウィンザーノット
  • 白のリネンのポケットチーフ
  • ジョン・ロブのブラック・カーフレザー・プレーントゥ・3アイレットダービー

ワルサーPPを構えるジェームズ・ボンド。

ジャマイカの海辺をスーツスタイルで歩くボンド。一作目からすでに『観光地でスーツ』のスタイルは確立されていました。

素晴らしいスーツのバランスがよく分かる写真。

フェリックス・ライターのベージュのトロピカルウード・スーツもかなりクールです。ジャケットは3つボタンです。

一般的に言われていることと違い、実は、ショーン・コネリーは、最初の2作品でかつらを付けていませんでした。

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ジェームズ・ボンドのファッション5

ネイビーブレザー
  • テーラー:アンソニー・シンクレア
  • ネイビーブルーシングルブレザー、ノッチラペル、金色の2つボタン
  • ダークグレイ・フランネルトラウザー(前出)
  • ライト・ブルーのターンブル&アッサー・ドレスシャツ、ターンナップ・カフ
  • ダークネイビーブルー・フレスコタイ
  • ブラックレザー・カップトゥ・バルモラル

当時のイギリスにおいて、通常、ブレザーはカジュアルなシーンでしか着ませんでした。一方、アメリカにおいて、ブレザーはフォーマルな場でも着ました。

座ったときに、スーツの仕立ての良さはよく分かります。

脂の乗り切った顔つきと、すっきりした首もとが生み出す清潔感のギャップ。



作品データ

作品名:007/ドクター・ノオ Dr. No (1962)
監督:テレンス・ヤング
衣装:テッサ・プレンダー ガスト
出演者:ショーン・コネリー/ウルスラ・アンドレス/ジョセフ・ワイズマン/ユーニス・ゲイソン