プレジャーズ
原名:Pleasures
種類:オード・パルファム
ブランド:エスティ・ローダー
調香師:アルベルト・モリヤス、アニー・ブザンティアン
発表年:1995年
対象性別:女性
価格:15ml/7,150円、50ml/14,300円
公式ホームページ:エスティ・ローダー
たくさん流した涙のあとの笑顔の香り
エスティ・ローダーのクリエイティブ・ディレクターであるエヴリン・ローダーとキャリン・コーリーが、新しい香水を開発しようと応募作品の香りを嗅ぎ始めたとき、スイスの香料メーカー、フィルメニッヒに所属していたアルベルト・モリヤスとアニー・ブザンティアンによる試作品の美しさに驚かされた。
調香師たちは、自然界に存在する香りと同じ香りを作り出す二酸化炭素抽出法という当時最新の技術をピンク・ペッパーに使用した。ベリーのフルーティな側面とフローラルな側面の両方がテクニカラーで表現され、ヴァイオレットリーフ、フリージア、そして青空の香りに似たものを使って香りを作り上げた。
チャンドラー・バール(ニューヨーク・タイムズ、2021年)
10年ほど前までは、エスティ・ローダーと言えば、百貨店にあるコスメカウンターの最高峰であり、女性の憧れでした。BAの制服も、カウンターのデザインも、ディスプレイも全てがずば抜けて洗練されていました。
そんなエスティ・ローダーの栄光の時代を象徴するフレグランスそれが「プレジャーズ」(歓喜)です。この香りは1995年にフィルメニッヒ社の調香師アルベルト・モリヤスとアニー・ブザンティアンにより調香されました。
エスティ・ローダーのキャリン・コーリーがプロデュースしたこの香りは、明らかに新時代の「ジョイ」を意識してつけられた名前です。
早春の雨上がりの庭園は、シャワーを浴びたばかりの女性のようです。そんなフレッシュで清らかな透明感を演出するフレッシュフローラルの香りがテーマです。
当時存在したあらゆる化粧品の香りから最も良い部分をチョイスしたような香りを生み出そうという狙いがあり、ほぼ全ての天然香料を圧搾法ではなく、二酸化炭素抽出法で抽出しています。
この香りの恐ろしさは、「あらゆる季節、あらゆる瞬間のあらゆる女性」に合うように調香されており、エスティ・ローダーの気品とラグジュアリー感をウェアラブルに表現している所にあります。だからこそこの香りは、永遠に古くならないのです。
それは、乾くことのない涙を目に溜めた女性が、ついにその涙を流しきり、笑顔を取り戻した瞬間のような香り=シアー・フローラルが大流行するはじまりとなりました。
女性にとって最高の武器は、涙のあとの笑顔
この香りはマグノリアの葉の精油が初めて使用された香水でした(ちなみにマグノリア・エッセンスは、1994年、ロシャスの「トカド」にてモーリス・ルーセルによりはじめて使用された)。
しかし、何よりも重要なのは、現在、ハイセンスなフレグランスにほとんど使用されるようになったピンクペッパーがはじめて使用されたフレグランスであることです。そして、このピンクペッパーは、モリヤスがジャック・キャヴァリエと共に、1993年から超臨界二酸化炭素抽出法(超臨界CO2抽出法)を研究して、はじめて香料のために抽出したものでした。
大草原にさんさんとふりそそぐ陽光。その期待にこたえて香りを放つ朝露を含んだ草原の輝きからこの香りははじまります。すぐに百合を中心としたフリージア、チューベローズ、ヴァイオレットといったフローラルがレイヤードされ、ピンクペッパーとカロカロンデがそれぞれの花々の深みを引き出しながら、草原の輝きは、庭園の輝きへと変わってゆきます。
花束ではなく、緑と土と蜜蜂を連想させる生命力を感じさせる花々の香りです。そして、フィルメニッヒのスパークリングするような豊富なムスクが注ぎ込まれていくのです。そこにシンクロするようにメタリックなスズランが香りを放ち、ふわ~~っと広がるように、ピンクローズとジャスミンを中心とした花々が一斉開花するのです。
百合、スズラン、ピオニー、ライラックが常にキレのあるグリーンなタッチで花々の中にフレッシュ感を与えています。
やがて、ピンクローズを中心としたフローラルムスクに、クリーミーなサンダルウッドとパチョリ、シダーがブレンドされ、透き通るようなソーピィーな余韻で肌の中へと同化してゆきます。そして、この時、まさにこの時に、ピンクペッパーは肌の上で、温かみを生み出し、香り全体の清潔感に、それ以上の深みを生み出してくれるのです。
まさに、涙を流し尽くし、悲しみとさようならした女性が、最初にみせる微笑。その笑顔がもっとも透明感に包まれる瞬間を、見事に香りで再現しています。
アルベルト・モリヤスは、グリーン・フローラルのジャンルに、空気のような高揚感(深みのある生命力)を生み出すピンクペッパーを投入することにより、香りに『光の革命』を起こしたのでした。以後、ピンクペッパーは、世界中の75%の香りに使用される程の必要不可欠な香料となります。1995年「ピンクペッパー救世主伝説」のはじまりです。
その花々は、女性の涙で作られた庭園でした。
「香水瓶とは香りの住む家である」の名言でも有名なデザイナー、ピエール・ ディナンによるボトル・デザインです。1977年に手がけたイヴ・サンローランの「オピウム」のボトル・デザインは特に有名です。
そのティアドロップ型のボトルもまたこの香りのテーマである「涙のあとの微笑」を体現しています。
そして、エリザベス・ハーレイ、グウィネス・パルトロー、ヒラリー・ローダ、キャロリン・マーフィーを起用した広告キャンペーンも話題になりました。
ルカ・トゥリンは『世界香水ガイド』で、「プレジャーズ」を「雪のようなフローラル」と呼び、「プレジャーズ(1995)を振り返ってみると、香水製造の歴史に功績を残しているのがわかる。」「「シャネルN°22」「ホワイト リネン」といった革命をもたらした先駆けの作品は、どうすれば顧客の満足度を満たすことができるか、その苦心を示すいい例だ。」
「アルデハイドの数々はこれまで常にパワフルで安っぽく、またフローラル・ベースでもあり、「ジョイ」「シャネルN°5」の低価格バージョンの開発に活用されてきた。これをうまく利用しているのが、ラックスやキャメイのような高級石鹸の広告だ。そこでは、しとやかなブロンドの女性たちが浴槽に横たわり、息苦しいほどの炎と見紛うような真っ白な泡に首まで漬かって異様なシーンを見せ付けた。」
「90年代初めには2つのできごとがおこった。ひとつめは、ファインフレグランス処方の容赦のないそぎ落としによって、実用的なフレグランスとの隔たりを危険なまでに縮めた。社会不安ならぬ、等級不安を生み出した。2つ目は、偉大なる香料会社フィルメニッヒが、ムスク(ムセノン、ハビノリド)を作り出し、これが思いがけないことにアルデハイドの石鹸のような、または雪のような輝きを思い起こさせる香りを含んでいた。」
「この香水は、80年代の派手な香水にうんざりした女性たちの心をつかんだ。女性たちは単純に清潔な香りを漂わせたかったのだ、それもつかの間ではなく、まる一日、塵ひとつついていないことを世間に知らしめたかった。飾り立てることはないというのがメッセージで、快活な白い輝きを強調した。」と5つ星(5段階評価)の評価をつけています。
香水データ
香水名:プレジャーズ
原名:Pleasures
種類:オード・パルファム
ブランド:エスティ・ローダー
調香師:アルベルト・モリヤス、アニー・ブザンティアン
発表年:1995年
対象性別:女性
価格:15ml/7,150円、50ml/14,300円
公式ホームページ:エスティ・ローダー
トップノート:チューベローズ、ピンクペッパー、ヴァイオレット、フリージア、レッド・ベリーズ、グリーンノート、ヴァイオレット・リーフ
ミドルノート:ホワイトピオニー、百合、ブラック・ライラック、スズラン、ジャスミン、ピンク・ローズ、ゼラニウム、カロカロンデ
ラストノート:サンダルウッド、ムスク、パチョリ、シダー