オーパス ファイブ/ウッズ シンフォニー
原名:Opus V-Woods Symphony
種類:オード・パルファム
ブランド:アムアージュ
調香師:ジャック・キャヴァリエ
発表年:2011年
対象性別:ユニセックス
価格:100ml/77,000円
公式ホームページ:Nose Shop
アイリスとジャスミンウードで生み出す〝サイバースペースの香り〟
オマーン帝国から誕生した高級香水ブランド・アムアージュが世界的なブランドになったのは、2007年にクリエイティブ・ディレクターに就任したクリストファー・チョン(元々バリトン歌手)の手腕によるものでした(2019年5月1日に辞任)。
2010年からアムアージュで発売されている「ライブラリー・コレクション」は、アムアージュの中でも香りの芸術性を追求したラインであり、作品名は、クラシック音楽における作品番号を意味するオーパスです。それらの香りには、特定の原材料やアコードに焦点を当てたエチュードのような要素もあります。
その第五弾として2011年に発売されたのが「オーパス ファイブ/ウッズ シンフォニー」です。アムアージュが発売当時〝ウッディでフローラルな新古典主義の傑作〟と称えた、〝森の交響曲〟と名づけられた香りは、ジャック・キャヴァリエにより調香されました。
クリストファーのこの香りのインスピレーションの源は、最も匂いのないもの、つまりは〝インターネットの世界=サイバースペース〟でした。そんな無機質なテーマを、シャネルの「No.5」の数字とも重ね合わせ、アムアージュというブランドを象徴する「交響曲第五番」を生み出そうという意図で誕生した香りです。
「スペル オン ユー」に先駆け二種類のアイリスを使用した〝機械と人間の協奏曲〟
『未来を切り開く香りの抒情詩』
人間と空との間には、まるで酔ったクモが編んだみたいにいろんな方向にいろんな網目の詰まり具合で張り巡らされたクモの巣のような電線がある。 知識が空気よりも薄い翼に乗って伝わるとき、 機械の端末をタップする指先は大きな力が宿っています。 あらゆる世界が手の届くようでまったく届かないようでもあります。
イリス・アブソリュートの真っ白に冷たくも、ワックスのような、ほのかな花の香りが、明るく風通しの良いラムと共に、キーボードの上で舞う指のように輝きます。
イリス・コンクリート(イリスバター)の抽象的なバターのような滑らかさ、ローズの肉厚な色合い、純白のジャスミンの淡い色調が、白いスクリーンの上の黒い数字、ガラスの破片、コンクリートの塔、金属製の机の後ろでうなり声をあげる〝機械だけが読めるデータ〟の世界を描きます。
ウードの生々しく耳障りな動物性が、中毒性のあるシベットのプラスチックのような匂いと組み合わさり、ドライウッドのアコードに押されてゆっくりと現れ、ネオンライトの下で加熱される塩気のふくんだ生肌の香りが漂います。
機械とともに生きる人間の匂い。ドライでミネラル感のあるオリスでありながら、奇跡的に心地よい官能的な「オーパス ファイブ」は、インターネットを通じて知識が伝わることで分断された現代社会の鎮魂歌なのです。
公式ホームページより
〝機械と人間の協奏曲〟それは、サイバースペースを通して伝わる〝知識〟が生み出す、直接感じる〝本能〟を大切にする心との分断。一見相容れない2つの世界を結び付け、和解へと導き、すべてを超越してゆく、ドライでミネラル感のあるイリス・アブソリュートとイリス・バターの贅沢な協奏曲(ホワイトチョコレートのような)の中に身を委ねていく『香りの善悪の彼岸』なのです。
獰猛なウードとシベットの獣のような甘さの素肌への襲来からこの香りははじまります。あらゆる場所で着用することが憚られる異次元の感覚に衝撃を受けるその奥深くから、人の意識の中にある〝華の香り〟が咲きはじめるのです。
ゆっくりと土っぽく青々としたアイリスが、バターのようななめらかさと、メタルのような冷たさと共に、ローズとジャスミンの花の甘さを広がらせてゆくのです。のちにジャック・キャヴァリエがルイ・ヴィトンの専属調香師となり「スペル オン ユー」において、その極みに到達する、天国にいちばんちかいアイリス=イリスバターとイリス・アブソリュートの〝奇跡のマリアージュ〟をはじめて世に示した瞬間です。
感情を信じることを放棄した人間の心の中に、再び感情を信じる心を生み出すように、素肌を透かして心に注ぎ込まれる、シベットとひとまとめになった(コスメティックな)アイリスの調べ。この香りの恐ろしいところは、この天にも昇る心地よさで終わらないところにあります。
悪魔はいつも隙を窺っているのです。すっかり物分りの良くなったウードにラムが染み込んだ瞬間、花の香りの中で飼いならされていたシベットは再び獣性を蘇えさせるのです。かくして素肌の上の花々も皆、熟れて腐敗寸前のピーチのように、恍惚のブルースで秘めたる官能を妖しく解き放ってゆくのです。
エデンの園にいた、アダムとイブが、21世紀の地上に放逐された後、高貴にドレスアップして、溢れんばかりの欲望と官能の波の中に飲み込まれていくように、ウードとシベットとラムに酔わされた花の爛漫に満たされてゆくのです。
そして、最後には、人間の肌と肌の温もりが勝利するのです。ドライウッドが呼び覚ます、ネオンライトの下で加熱される塩気の効いたミネラルが広がり、〝機械と人間の協奏曲〟は終幕を迎えるのです。
典型的なローズウードではなく、幻想的なアイリスに魅了される獣性を持ったジャスミンウードの香りなのです。
香水データ
香水名:オーパス ファイブ/ウッズ シンフォニー
原名:Opus V-Woods Symphony
種類:オード・パルファム
ブランド:アムアージュ
調香師:ジャック・キャヴァリエ
発表年:2011年
対象性別:ユニセックス
価格:100ml/77,000円
公式ホームページ:Nose Shop
トップノート:イリス・アブソリュート、ラム
ミドルノート:イリス・コンクリート(イリスバター)、ローズ、ジャスミン
ラストノート:アガーウッド(ウード)、ドライウッド、シベット