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フレデリック・マル

【フレデリック マル】ムッシュー(ブルーノ・ジョヴァノヴィック)

フレデリック・マル
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ムッシュー

【特別監修】Le Chercheur de Parfum様

原名:Monsieur.
種類:オード・パルファム
ブランド:フレデリック・マル
調香師:ブルーノ・ジョヴァノヴィック
発表年:2015年
対象性別:男性
価格:10ml/7,920円、30ml/21,780円、50ml/27,720円、100ml/39,600円

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20世紀のプレイボーイの香り

イタリアン・エレガンスの象徴=ルキノ・ビスコンティ。

フレデリック・マルの永遠の憧れ。

私がこの香りを創造してもらうにあたりイメージしたのは、父親の友人たちの姿でした。そして、その代表的な人がルキノ・ヴィスコンティです。生まれながらのエレガンスを持っており、意識しなくてもその一挙手一投足が気品に満ち溢れている。常にリラックスしており、やりすぎず、本人は女性に興味がなくても、女性にモテまくってしまうそんな中年男性像。

フレデリック・マル

フレデリック・マルにより2015年に発売された「ムッシュー」は、1970年代以降、市場に出回ることがなかった52%もの割合で配合されたパチョリが使用されたオリエンタル・バニラの香りです。IFFのブルーノ・ジョヴァノヴィックによって調香されました。

クラシカルなピンストライプのスーツ(絶対!ピークドラペル)を、エレガントに着こなすことが出来た1950年代から60年代の男たちに捧げられた香りです。

洗練された物腰を持ち、悪魔のように美しく冷酷に女性を誘惑することを美学としていた〝華麗なるプレイボーイ〟たち。そんな今となっては失われつつある男性の圧倒的な魅力を、たとえ束の間であっても蘇らせようとしたネオクラシックな香りです。

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マルが言及した、この香りの4人のスタイルアイコン

アルフォンソ・デ・ポルターゴ

この香りを創造するにあたりフレデリック・マルは、ルキノ・ヴィスコンティだけでなく、自分の叔父(ルイ・マル)や父と交流があった、彼自身にとってもスタイル・アイコンと言える4人の男達の生き様を、ボトルの中に投影させたいと考えました。

一人目はアルフォンソ・デ・ポルターゴ(1928-1957)です。スペイン有数の貴族であり、プレイボーイとしても名を馳せたアルフォンソは、レーシングドライバーとしても活躍しました。

しかし、1957年5月12日にミッレミリアで、子供5人を含む観客9人を巻き添えにする大事故を起こし、28歳で亡くなりました。彼はフェラーリの下で、真っ二つになって発見されました。

そして、二人目はマーク・バーリー(1930-2007)です。イヴ・サンローランのミューズ、ルル・ドゥ・ラ・ファレーズ(1948-2011)の叔父であり、1963年にロンドンの高級会員制クラブ「アナベルズ」を創設した英国のダンディズムの代名詞のような人です。

かつてマルは、彼のブランドのために、1994年にドミニク・ロピオンと一緒に香水を作ったこともありました。

ホセ・ルイス・デ・ヴィラロンガ

三人目はホセ・ルイス・デ・ヴィラロンガ(1920-2007)です。50~60年代のジェットセッターであり、オードリー・ヘプバーンの『ティファニーで朝食を』(1961)で大富豪役を演じ、余暇に俳優もしていました。

本物のスペイン貴族であり作家でもある彼は、ルイ・マルの『恋人たち』(1958)に出演し、競演した女優ミシェル・ジラルドン(1938-1975、『ハタリ!』で印象的な美女を演じていた)をたらし込み、許されぬ恋に落ち、60年代は一緒に住んでいました。

1972年に関係が失われ、ホセが74年に再婚することを知った1年後彼女は自殺しました。

ジャンニ・アニェッリ

ジャンニ・アニェッリ

そして、最後の人はジャンニ・アニェッリ(1921-2003)です。イタリア最大の自動車会社フィアットの御曹司であり、後の総帥である彼は、アニタ・エクバーグやリタ・ヘイワースなどと浮名を流すプレイボーイであり、世界的なスタイルアイコンでした。

特に、シャツのカフの上に腕時計を着けるスタイルが有名でした(一分一秒でも早く時間を確認することが出来るようにするため)。31歳のとき、自動車レースで左足の膝から先を切断し、それ以降は義足を使うことになりました。

つまりは中野香織様が著書『ダンディズムの系譜』で書かれているように「堂々と、演技的に、〝空気読めない〟、いや〝空気を読んだうえでぶちこわす〟男たち。徹底して個を貫き、世間を支配する枠組みとはまったく別の枠組みをもちこむことで、その他大勢にすがすがしく優越した」そんな〝空気を読まない男達〟に捧げられた香りなのです。

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21世紀に失われつつある男のロマンを求める!

©FREDERIC MALLE

この香りは過剰に感動をしない、もしくは必要以上に装飾をしない、真のMonsieurのためにデザインされた香りです。だからこそ省略の意味もこめて『.』があるんだ。

フレデリック・マル

フレデリック・マルとブルーノ・ジョヴァノヴィックは、この香りを生み出す5年前からキャンドルの香りの調香を皮切りに、一緒に仕事をしていました。そして、2013年に「ドリス ヴァン ノッテン」を誕生させ、次の香りに取り掛かることになりました。

マルに対して、ブルーノはパチョリの天然香料を駆使した香りを作りたいという希望を出しました。そして、最終的に「カーナル フラワー」のように天然香料の輝きをより突出させたパチョリの香りを作ることになりました。

LMR(モニーク・レミー研究所。2000年よりIFF社の傘下に入ったグラース最高の天然香料会社)により開発された、パチョリの葉を水蒸気蒸留した後、分子蒸留法で精製されたパチョリクールがこの香りのために使用されています(甘いおがくずのような香りがする)。

パチョリを愛する人々が、この香料に期待する、ウッディ、モッシー、スモーキー、スパイシー、チョコレート、アーシー、そして、墨汁のような芳香のすべてが堪能できるように工夫が凝らされた香りです。

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モテる男のエキスを超臨界二酸化酸素抽出した香り

ルキノ・ヴィスコンティ

濃厚に甘いフレッシュなタンジェリン(マンダリン・オレンジ)の中に、マンダリンアルデヒドとラム・アブソリュートが注ぎ込まれることによって、あなたは60年代のロンドンの高級会員制クラブへとタイムスリップします。まるでグラン・マルニエのような芳香に全身が包み込まれてゆきます。

アルデハイドのC10もしくはC12の偶数のアルデハイドはマンダリンのような香りがする。ちなみにC14以上の偶数は他のフルーツ、C8以下はほぼ香りがしません。

そして、すぐにパチョリが登場するのです。この香りにおいて、最初から最後まで存在感のあるパチョリを感じることが出来ます。それはどこかジバンシィの名香「ジェントルマン」(EDT 1974年)を彷彿させます。

グラン・マルニエの芳香が、パチョリハートによりクリーンなカンファーに包まれながら、シダーウッドとスエード(サフラン=サフラナール)、フランキンセンスにより、香り全体をアーシーかつスモーキーへと発展させてゆきます。

ダークでミステリアスな苦みのあるグリーンなパチョリがそこには居ます。やがて、官能的な甘さに包まれた合成アンバーが加わり、少しのムスクとスクラソール(Sucrasol バニラ、キャラメル)が全体に丸みを与えています。かくしてパチョリは円やかな甘さを伴った余韻で肌に優しく馴染んでゆくのです。

この香りをよく分析してみると実に面白いです。

  1. バーチタールやキノリンでレザーの香りを生むのではなくサフラナール
  2. アンバーグリスの代わりにアンバーエクストリーム(Amber Xtreme)
  3. バルサミックバニラやバニリンの代わりにスクラソール
  4. 天然のムスクの代わりに合成ムスク
  5. ベルガモットの代わりにマンダリンとマンダリンアルデヒド

ただしどうしてもパチョリの性質上、少し病院のような臭い(殺虫剤のような)がするので、クリーニングしていないジャケットを着ているような香りになる危険性もはらんでいます。

ちなみに、パチョリにはラムに共通する部分があり、そのアルコール調のシェードを強調するためにラム・アブソリュートが入っています。

男性用とされていますが、マル自身は、男性にとってエレガントなフレグランスは、真にエレガンスを知る女性であれば、容易に使いこなすことが出来ると断言しています。

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香水データ

香水名:ムッシュー
原名:Monsieur.
種類:オード・パルファム
ブランド:フレデリック・マル
調香師:ブルーノ・ジョヴァノヴィック
発表年:2015年
対象性別:男性
価格:10ml/7,920円、30ml/21,780円、50ml/27,720円、100ml/39,600円


トップノート:タンジェリン、ラム
ミドルノート:パチョリ、シダー、フランキンセンス、アンバー、スエード
ラストノート:バニラ、ムスク