ローフォアッド|雪の女王が素肌の上で目覚める香り

セルジュ・ルタンス
セルジュ・ルタンス
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ローフォアッド

原名:L’Eau Froide
種類:オード・パルファム
ブランド:セルジュ・ルタンス
調香師:クリストファー・シェルドレイク
発表年:2012年
対象性別:ユニセックス
価格:日本未発売(75ml/€260)

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雪の女王が素肌の上で目覚める香り

©Serge Lutens

一番最初に発売された時のボトル

この〝水〟の核心にあるのは、ソマリア産フランキンセンスの力強い香りです。それは砂漠のふちに生える木々から採れるもので、木々は酷暑から身を守るために、透き通るような樹脂を空気中に放出することで生まれる香りです。

「『状況があまりに熱すぎて手に負えなかった』とか、『背筋が凍る思いだった』といった表現があります。私は単に、その概念を〝水〟に応用したのです。この物語の主人公は、雨が年に1度か2度程度しか降らない地で、猛暑にさらされ、自然の奇跡として生き延びている一本の木です。幹に切り込みを入れると、『ガラスの涙』が流れ出ます。エアコンがなければ、この暑さで木は枯れてしまうでしょう。フランキンセンスは、この香りに氷のような冷たさを保つ手助けをしてくれるのです」

セルジュ・ルタンス公式サイトより

かつて2019年5月21日に、セルジュ・ルタンスより発売されていた「コレクションポリテス」。それは軽やかでフレッシュな、透明感溢れるオード・パルファムのコレクションでした。

ローフォアッド」は、元々は「ルタンスの水(ロー)」シリーズの第二章として、2012年に発売された香りです。フランス語で「冷たい水」の意味です。クリストファー・シェルドレイクにより調香されました。

「コレクションポリテス」廃止後は、パレ・ロワイヤル本店だけで取り扱われている「レフラコンドターブル」コレクションのひとつとなっています。

この香りは私にとって非常に個人的なものです。「熱い」と「冷たい」の違いについて考えるのは興味深いことです。人は恐怖を感じると冷や汗をかくことがありますが、汗は熱に近いものなのです。

セルジュ・ルタンス(以下、すべての引用はセルジュ自身のお言葉)

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氷のように冷たくなり、安らかに死を迎える瞬間の香り

ローセルジュルタンス」は、屋外で乾いてゆくシーツの肌触りを思わせ、肌にのせると、清潔な体に白いシャツをさらりと羽織ったような感覚をもたらします。一方、こちらはその名の通り、つけた瞬間に氷のように冷たく、その涼しさを長く保ち続けます。

入手可能なあらゆる原料の中で、この「冷たさ」を感じさせるのは、ソマリア産のフランキンセンスだけであり、他の産地のものでは決して得られない。主に主に砂漠地帯に生育するボスウェリア・サクラという木から採取されるフランキンセンスは、乾燥すると、まるで研磨されたガラスの小石のような外観を呈する。

この「ガラスの涙」は、木の幹に切り込みを入れると自然に滲み出てくる。この地域では年に1、2回しか雨が降らないことを考えると、この樹脂は種の存続に不可欠だ。容赦ない太陽の光の下でもこの木が生き続けることが出来る生命の源であるこの樹液が、その氷のような冷たさを保ち続ける香りの原料として使われるというのは、特異でありながらも理にかなっています。

ボスウェリア・サクラの木の樹液は人間の血液のようなものですが、冷たい。ひょっとすると、冷血動物(=変温動物)だと言っても過言ではないかもしれない。あの木がそこで耐えているのは、まるで罰を受けているかのようです ―― そこは極めて乾燥した場所なのです。

樹液のおかげで生き延びているのです。木は自らを保つために、氷のように冷たいものを生み出さなければならない。それはまるで、エアコンの最初の例のようだ。植物はとても賢い。自然界は信じられないほど素晴らしい!まさに太陽の冷たさです!

ボスウェリア・サクラの樹から採取されるソマリア産の透明なフランキンセンスから生み出された〝乳香の水〟は、矛盾に満ちた予期することの出来ない狂気じみた〝冷たい水〟の香りです。それは氷のように冷たくなっていく、完全に意識を失い、安らかに死を迎える瞬間の香りとも言えます。

フランキンセンスは、高濃度だとスモーキーに燻るのですが、希釈すればするほどレモンの皮やペッパーのような、フレッシュな側面が増し、浄化作用のある香りになります。その側面を〝冷たい水〟へと昇華させたこの心が清められる=心が喪失する香りは、海水(アクアティックノート)とアルデハイドに洗われたミントとローズマリーとレモンが、ジンジャーと混じり合い弾け合う〝冷たい空気〟からはじまります。

すぐに氷点下の渋みがあるスモーキーなフランキンセンスが到来し、ピリッとスパイシーなペッパーが加わり、主役が入れ替わってゆきます。そして素肌は凍る寸前にまで、ほのかに甘い酸味が広がり、〝冷たい水〟のひりひりする感覚に満たされてゆきます。

やがて4種類のムスクとソーピィーなベチバーが溶け込み、ひんやりと心地良く爽やかに輝くような官能性が包み込むように漂います。厳粛な教会の空気とは一線を画する、天に召されるような、真っ白にすべてが失われていく、(一瞬、背筋にひんやりとしたものを感じる)フレッシュな心地よい甘さに満ちたフランキンセンスです。

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天に召される、明るくかがやく至福のフランキンセンス

肌を目覚めさせる最初の冷たさの衝撃の後、「ローフォアッド」は空気と融合し、まるで体を不浄から守る流れるようなローブのように、身に着ける人を包み込みます。これはあまり知られていない事実です。人々は、香炉から渦巻く煙が立ち上る、その熱を帯びた側面を思い浮かべがちです。

しかし、フランキンセンスに関連する冷たさという感覚といえば、古い教会の奥深くにある涼しさだけなのです。

まさに肌を目覚めさせる、最初の冷たさの衝撃です。〝温かい空気の中の冷たい水〟ではなく〝冷たい空気の中の冷たい水〟であるところが、しかもこの冷たい水は〝氷になる寸前の氷点下の水〟であることが、この〝冷たい水〟の香りを稀有なものにしてくれている点です。

この香り以降、フランキンセンスは、ダークなイメージから脱却し、アルマーニの「アクア ディ ジオ プロフーモ」(2015)など、明るいフランキンセンスの香りが多くのブランドから生み出されることになります。

私は、清潔で純粋、そして冷たさを感じさせる香りを求めていました。コロンは、偽りの爽やかさがあるのが好きではありません。誰もがこう言うでしょう。オーデコロンをつけると、アルコールが含まれているので、すぐに冷たさを感じると。しかし、その最初の衝撃が消え去ると、残るのはレモンやオレンジの皮の香りだけ。私にはそれがしっくりこないので、この香水では、極限まで冷たいものを作りたかったのです。

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香水データ

香水名:ローフォアッド
原名:L’Eau Froide
種類:オード・パルファム
ブランド:セルジュ・ルタンス
調香師:クリストファー・シェルドレイク
発表年:2012年
対象性別:ユニセックス
価格:日本未発売(75ml/€260)


シングルノート:レモン、シーウォーター、ムスク、ベチバー、ミント、ソマリア産フランキンセンス、ペッパー、ジンジャー