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ラ パウザ|天国にいちばん近いシャネルのアイリスの香り

シャネル
シャネル
この記事は約7分で読めます。

ラ パウザ

原名:La Pausa
種類:オード・パルファム
ブランド:シャネル
調香師:ジャック・ポルジュフランソワ・ドゥマシー
発表年:2007年
対象性別:女性
価格:75ml/37,400円
公式ホームページ:シャネル

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全てを手にしたシャネルが辿り着いた、戦士の休息の地ラ パウザ

1928年にココ・シャネルが購入した別荘ラ パウザ。©CHANEL

高台に立ち、地中海が一望できる。©CHANEL

2007年にシャネルのプレステージ・コレクションとして「レ ゼクスクルジフ ドゥ シャネル」がスタートしました。最初の10種類の香りのひとつとして、「ラ パウザ」(オード・トワレ)は、シャネルの3代目専属調香師ジャック・ポルジュフランソワ・ドゥマシーによって調香されました。

「ラ パウザ」とは、イタリア語で「休息、休憩」を意味します。それは当時45歳のココ・シャネルが1928年9月30日に購入した、コート・ダジュールにある地中海へと切り立った断崖が続き、ラベンダー畑とオリーブの木々が広がる約2万㎡のロクブリュヌ=カップ=マルタンの地に建てたピンク色の別荘の名前です(元の建物は1911年に建てられていたが、取り壊し、新たに建てた)。

シャネルが初めてこの土地を目にしたのは、1927年12月、ウェストミンスター公爵のヨット「フライング・クラウド」号に乗って地中海を航海していた時でした。東にはイタリア国境、西にはモナコとその湾、そして背後にはアルプス山脈が広がっています。

敷地は4ヘクタールの美しい庭園に囲まれており、オレンジの木、オリーブの木、ミモザ、アイリス、ジャスミン、ラベンダー、ローズマリーが植えられていました。

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シャネルの1929年から1953年までのセカンドハウス「ラ パウザ」

ココ・シャネル、ラ パウザにて。1938年。©CHANEL

ココ・シャネル、ラ パウザにて。1938年。©CHANEL

サルバドール・ダリと談笑するココ・シャネル、1938年。©CHANEL

ココ・シャネル、ラ パウザにて、愛犬ジゴと。1930年。©CHANEL

ラ パウザのラベンダー畑、1938年。©CHANEL

180万フラン (現在の価値で260万ユーロ=約4億5千万円に相当、ウェストミンスター公爵がこの邸宅の資金提供者であると考えられている) を投じ、シャネル自身が陣頭指揮を執り1930年1月に完成したラ パウザは、シャネルが幼少期(12歳から18歳まで)を過ごした12世紀のオバジーヌ修道院の厳かな美しさを再現した造りでした。

4階建てのこの邸宅には、7つの寝室あり、シャネルにとって愛着のあるセカンドハウスとして、シャネルが最も幸福な時間を過ごした場所でした。

ゲストをもてなし、テニスやダンスを楽しみ、くつろぎ、多彩な来客を迎え入れました。当時を代表する多くのアーティストたちがラ パウザに滞在しました。なかでもサルバドール・ダリは1938年に4か月にわたってこのヴィラに滞在し(スペイン内戦の影響により)、最も象徴的な作品のいくつかを制作しました(11枚の絵画を描く)。

他にもジャン・コクトー、イーゴリ・ストラヴィンスキー、パブロ・ピカソ、サマセット・モーム、ルキノ・ヴィスコンティらも定期的に訪れていた。

そして、月日は流れ、1953年に、かつて交際していたウェストミンスター公爵(1933年に二人の恋は終わっていた)が死に、シャネルは、二人の想い出の残るラ パウザを、翌年売却しました(第二次世界大戦が始まってからは、シャネルはかの地をほとんど訪れることはなかった)。

1954年、71歳にして「時は来た」のでした。シャネルは、パリのリッツの自室と、パリのカンボン通りの一号店のアトリエだけを手元に残し、最後の戦いに乗り出しました。

2015年にシャネルはこの邸宅を買い戻し、ピーター・マリノと共に修復計画をスタートし、5年かけて2025年夏に、すべてを1935年に戻すイメージで修復を完了しました。
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天国にいちばん近いアイリスの香り

モーリス・ラヴェルが「マ・メール・ロワ」を献呈したゴデブスキ夫妻とココ・シャネル。ラ パウザのベッドルームにて。

ピーター・マリノにより修復されたベッドルーム。©CHANEL

あなたが家を出る前にもう一度だけ鏡を見ましょう。そして、さらにひとつ何かを取り除くのです・・・

ココ・シャネル

ファッションにおけるエレガンスの極意についての彼女の言葉なのですが、ココ・シャネル個人が、21世紀に入ってもなお、世界中の女性から愛されている理由は、この清々しさにあるのではないでしょうか?

アイリスの希少な品種であるパリダを3年かけて自社栽培し、その後さらに3年かけて乾燥させた花の根からわずかに得られるアイリス・アブソリュート。その優しいパウダリーノートとウッディノートの二面性を、天空に舞うが如く、ひんやりとした清涼感によって、シャネルの生き様とオーバーラップさせたのがこの香りの真骨頂です。

シャネルというブランドのアイリスに対する賛歌とも言えるこの香りは、アイリスパリダのラ パウザへの単独飛行からはじまります。言葉にできない領域を探して飛行するこの飛行艇は、緑と柑橘の祝福を受けた後、澄み渡る大空へと羽ばたいてゆきます。

そこには素敵な虹とヴァイオレットのペールカラーの雲が浮かんでいます。その間をアイリスパリダは飛行しながら、大地への憧れをアーシィーな香りにほんのりと香らせてゆきます。

やがて、眼下に見える、地上一面に咲き乱れるジャスミンの香りを、ムスキーな空の上で受け止めながら(強烈なジャスミンの香りがふんわりと優しくほのかに)、ピンクペッパーとベチバーの補給を受け、「シャネルの空」を優雅に飛行するのです。

天国にいちばん近いアイリスの香り〟です。だからこそ、この香りには、大自然よりも洗練された都会で身に振りまくほうが、〝神秘性〟と〝透明感〟が引き立つのです。

2016年9月には、オード・パルファム・ヴァージョンが発売され、これが現行品となっています。しかし、オード・トワレ・ヴァージョンに存在したアイリスの儚さは、少し失われています。シコモアとの共通点を多く感じさせる香りです。

ルカ・トゥリンは『世界香水ガイド』で、「ガーデニアにあらず」と宣言し、「アイリスルート(根)というのは、シャネルのフレグランスに共通する主題だが、理由は単純だ。香りはすばらしく、値段は恐ろしく高く、どんな香りにも確かな贅沢さを加えることができる。「キュイール ドゥ ルシー」「No.18」「No.19」「31 リュ カンボン」なども同様に強いアイリスの香りがする」

「28 ラパウザは個性的で洗練されたベチバーのドライダウンが現れるまでは、ほとんどアイリスルートの香りだ。それから後はパンの香りからトリュフまで、ウッディ・バイオレットやパウダリーなレザーを経由して、アイリスの豊かさをゆっくりと楽しめる」

「もしアイリスにこだわるなら、ほとんど天然の香りで調香されたこの愛らしい香水か、モーリス・ルーセルの魅力あふれる天衣無縫な半合成「アイリス シルバー ミスト」(セルジュ・ルタンス)のどちらかだ」と4つ星(5段階評価)の評価をつけています。

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香水データ

香水名:ラパウザ
原名:La Pausa
種類:オード・パルファム
ブランド:シャネル
調香師:ジャック・ポルジュフランソワ・ドゥマシー
発表年:2007年
対象性別:女性
価格:75ml/37,400円
公式ホームページ:シャネル


シングルノート:アイリス、ピンクペッパー、レザー、グリーンノート、ウッディノート、ベチバー