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フレデリック・マル

【フレデリック マル】ヘブン キャン ウエイト(ジャン=クロード・エレナ)

フレデリック・マル
©FREDERIC MALLE
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ヘブン キャン ウエイト

原名:Heaven Can Wait
種類:オード・パルファム
ブランド:フレデリック・マル
調香師:ジャン=クロード・エレナ
発表年:2023年
対象性別:ユニセックス
価格:10ml/9,790円、50ml/33,770円、100ml/46,530円
販売代理店ホームページ:ラトリエ デ パルファム

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天国にいちばん近いスパイスの楽園

©FREDERIC MALLE

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「ヘブン キャン ウエイト」は、クローブ、キャロットシード、アンブレットといった温かみのあるスパイスの豊かさへのジャン=クロード・エレーナの航海である。数々の傑作を生み出してきた彼の極めつけの作品のひとつであり、かつてないほど大きな交響曲のようなテーマが貫かれている。

フレデリック・マル(以下すべての引用は彼からのもの)

エルメスの調香師を引退していたジャン=クロード・エレナが、フレデリック・マルから電撃復帰したのは、2019年の「ローズ & キュイール」からでした。そんなエレナが、2023年10月4日に、4年ぶりのフレデリック・マルでの新作を発表しました。その名も「ヘブン キャン ウエイト」、〝天国は待ってくれる〟と名付けられた香りです。

フレデリック・マルにとっても、2021年(日本では11月24日に発売)に発売された「シンセティック ジャングル(シンセティック ネイチャー)」以来、2年ぶりの新作となりました。

ジャン=クロード・エレナと言えば、とてもフレッシュなノートの組み合わせで、夢のような香りを作り出す伝説の調香師です。スパイスだと、カルダモンやペッパーのようなヒリヒリしてフレッシュなコールドスパイスを好んで使用しています。

70歳を過ぎても尚、創作意欲が衰えないエレナは、マルに「私が今まで世に出したことがない、官能的な温かいスパイスをメインにした香りの創造に挑戦したい」と提案したことからプロジェクトがスタートしました。それは2019年末のことでした。

しかし、2020年にパンデミックが起こり、エレナは、自分のスタイルを進化させ、もっと大きなスケールの香水を作り、ドラマティックな感覚も付け加えてゆきたいと考えました。そのため、スパイスのブーケがこの香りの中心で渦巻いているのです。さらに、アイリスをアルコールに長時間浸し、スパイスと混ぜ、バニラ、フルーツ、ムスクのタッチで温めています。

かくしてシャープな香りのスタイルを持つエレナとしては珍しいぼやけたような香りが誕生しました。完成に向かう中でエレナとマルは、現代版の「ロリガン」を生み出すことを意識していました。

後にゲランの「ルール ブルー」に多大なる影響を与えたフロリエンタルの元祖「ロリガン」に対する敬意をもって生み出されたこの香りの誕生は、後の世に、香水界における新古典主義=ネオクラシシズムのはじまりと言われるかもしれません。

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二つの映画から、この香りの名は借用された。

『天国は待ってくれる』(1943)のドン・アメチーとジーン・ティアニー。

2つの異なるストーリーの映画があり、それが名前のアイデアになったのですが、「ポートレイト オブ ア レディー」のように、フレグランス自体が特定のストーリーを説明するためのものではなく、それ自身のストーリーを語るものなのです。そして、ジャン=クロードもこの名前を気に入ってくれました。もっとも難しいのは、彼が気に入ってくれることなのです。

〝HEAVEN CAN WAIT〟の香水名は、世界中の人々にとって二本の映画をすぐに連想させることでしょう。1943年の エルンスト・ルビッチ監督による『天国は待ってくれる』と、1978年のウォーレン・ベイティ主演による『天国から来たチャンピオン』です。

『天国は待ってくれる』は、地獄行きか天国行きかを告げる、あの世の入り口である地獄の閻魔大王のオフィスに一人の老紳士が到着し、「僕は女性を泣かせてばかりだったから、当然地獄に決まってます」とつらつらと告白することからはじまるソフィスティケイテッド・コメディの名作です。

一方、『天国から来たチャンピオン』は、天使のミスで50年の寿命が残っているのに、スーパーボウルを前に交通事故で死んでしまったアメフト選手が、地上に戻ることになるファンタジーの名作です。

そんな二つの映画の共通点とも言える、人生を謳歌する楽天的なムードを、この香りは運んでくれるのです。ちなみにエレナは、「パンデミックの中、ただただ幸せな気分になる香りを生み出したかった」と述べています。

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2000年から、世界の香水文化の歴史を変えてきた二人の再会

ジャン=クロード・エレナとフレデリック・マル ©FREDERIC MALLE

ジャン=クロードは、少し未完成なスタイルで作品を作るのが好きなんだ。この香水は少し完成度が高いが、まだ短い処方で抑えています。そうしないと、子供の絵のように色が多すぎて、本質が見えなくなってしまうからです。

ほとんどあらゆる文化は、時の試練を経て、過去の創造物の価値を知り、芸術として評価されてゆきます。そうして人々は、時代を超越するその魅力と向き合い、文化的な成熟期を迎えることになります。香水文化は、まさにパンデミックという一大試練を経て、その時期を迎えようとしているのかもしれません。

そんな中、2023年に発表された「ヘブン キャン ウエイト」は、さりげなく人を引き寄せ、抱擁を誘うスパイスに誘われる、官能の扉を解放していく香りと言えます。

私は個人的に、冷たいスパイスよりも温かいスパイスにとても興味があります。それは2つのことを意味します。まず第一に、自分の中の温かさに関するもので、ここでは異なるタイプの官能性に入る。そしてもう一つは、冷たいスパイスは通常トップノートなので、温かいスパイスはより長く残り、香りの重みが私を本当に興奮させることを意味します。

こうしてすべてが始まり、その後、段階的に進んでいきました。基本的にバックボーンができたら、それを少し変更するために何かを追加します。すべてがバランスが取れるようにする中で、ジャン=クロードがベチバーを使って軽くて温かいものを作ろうと考えたのは、私にとってお湯を発明するようなものだった。とても複雑でしたが、とてもスマートだった。

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氷のように微笑んで、炎のように燃え上がるスパイスの香り

©FREDERIC MALLE

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エルメス時代の円熟期を経て引退したエレナが、なぜ戻って来たかということを教えてくれるこの香りは、まるでフォアグラを泡立てるように、クローブを中心にキャロットシード、ピメントシード、アンブレットが混ざり合い、素肌に向かって燃え移ろうようにしてはじまります。

はじまりから、エレナの香りを愛してきた人々を驚かせる、ザラザラとした滑らかではない、燃え尽きて、焦げていくスモーキーさと、塩水で洗われた石を思わせるミネラル感のザワザワしたコントラストを感じることが出来ます。

妙な生々しさ、剥き出しの香りがそこにあります。まるで男と女が愛を交わすために、衣服を脱いでいく、奇妙な沈黙のひと時のようです。無防備な姿を見せる妙な恥ずかしさがあります。冷たいアイリスの香りが、そんな空気を象徴するように粛々と香りを広がらせてゆきます。

しかし、すぐに静けさは打ち破られます。生まれたままの姿になった二人が、お互いの果肉を貪り合うように、じんわりと砂糖漬けされたプラムとフレッシュでジューシーなピーチを浴び、弾け合う汗のような感触を素肌で受け止めていくのです。アイリスは抱かれて、うっとりするような温かさを解き放ってゆくのです。

やがて、二人が燃え尽き、スモーキーなベチバーとドライなシダーに包まれる中、ついにふたつがひとつになるように、艶やかなマグノリアと哀愁のカシュメランが満ち広がるのです。そしてクリーミーなサンダルウッドとパウダリーなバニラとすべての絶頂(スパイスブーケ)がひとまとめになり、スエードのようなまろやかな素肌の抱擁の余韻で満たしてくれるのです。

実に興味深いことは、パンデミックの最中にルイ・ヴィトンの「パシフィック チル」も、エレナのラボがある同じグラースで、ジャック・キャヴァリエにより作られたということです。両方とも、キャロットシードが主役に近い役割を果たしているのです。

フレデリック・マルの「ノワール エピス」「イリス プードゥル」「ダン デ ブラ」をひとまとめにしたような、夢のような感触もある香りです。

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香水データ

香水名:ヘブン キャン ウエイト
原名:Heaven Can Wait
種類:オード・パルファム
ブランド:フレデリック・マル
調香師:ジャン=クロード・エレナ
発表年:2023年
対象性別:ユニセックス
価格:10ml/9,790円、50ml/33,770円、100ml/46,530円
販売代理店ホームページ:ラトリエ デ パルファム


トップノート:クローブ、キャロットシード、ピメントシード、アンブレット、プラム
ミドルノート:アイリス、ベチバー、マグノリア、カシュメラン、シダー
ラストノート:ホワイトムスク、ピーチ、バニラ