もう一人のボンドガール、ジェマ・アータートン
『007 慰めの報酬』で、もう一人のボンド・ガールであるストロベリー・フィールズを演じているのは当時21歳の新人女優だったジェマ・アータートン(1986-)です。父親は溶接工、母親は清掃員というイングランドの労働者階級に生まれ、しかも多指症で両手に指が6本ずつありました(すぐに手術で切断)。
僅か5歳で両親は離婚し、母親に引き取られるのですが、この母親が素晴らしい人で、昼夜懸命に働きながら、娘の才能を伸ばすために、積極的に援助を惜しみませんでした。
そして、ジェマは、ロンドンの王立演劇学校の奨学金を得て、在学中に約1500人の女優の中からボンドガールに選ばれたのでした。彼女は、現在ではこの作品に出演したことを後悔しているのですが、この作品で経験した屈辱感が、後に、自分自身でプロダクションを作らせ、「女性」として意味のある仕事しか引き受けないスタンスを生み出したのでした(2013年にRebel Parkというプロダクションを設立した)。
全裸にトレンチコート・スタイル
メインのボンドガールであるオルガ・キュリレンコの最初のファッションが微妙だったように、ジェマ・アータートンが登場するシーンのファッションも、敢えてそうする意図が分かりかねるものでした。
ボリビアの空港でボンドと合流するとき、ストロベリー・フィールズは、全裸の上にトレンチコートを羽織っているのです。この役柄の奇妙さ。彼女は何をするために現れ、殺されていったのだろうか?
2020年のインタビューでジェマは、「プロデューサーのバーバラ・ブロッコリにはとても感謝しています。当時私は21歳で、学生ローンを抱えていましたし、ボンドムービーの出演は本当に嬉しかったんです。でもあの映画がこれほど長く私の女優人生に付いて回るとは見当もつきませんでした。今ならあの役は選ばないでしょう。だって、彼女は面白くて、優しくて、でも特にやることもなく、バックストーリーもない薄っぺらな存在だったんですもの」。
ストロベリー・フィールズのファッション1
トレンチコート
- 全裸の上からカーキのマッキントッシュのトレンチコート
- キャメルレザーのスエードのロングブーツ
プラダを着たもう一人のボンドガール
ボンドガールのために、ミウッチャ・プラダにドレスの制作を依頼したところ、一週間で20着ものドレスを作ってくれたそのうちの一着です。大きな天然石のネックレスとのバランスが、〝未知なる惑星〟を感じさせるこのドレスのイメージとぴったりマッチしています。
ストロベリー・フィールズのファッション2
カクテルドレス
- プラダのノースリーブ・カクテルドレス、ウエストにシルバーボウ
- 天然石のオーバーサイズ・ネックレス
ゴールドフィンガーのように死す
そして、最終的にストロベリー・フィールズは、ホテルのベッド上で全裸の全身に原油を塗りたくられて死にます。
これは『007/ゴールドフィンガー』におけるシャーリー・イートンの全身に金粉を塗られて死んだシーンへのオマージュでした。それは美しいかどうかも分からないカメラアングルの悪さで演出された007シリーズ屈指の無駄な死に様でした。
エイボンによりタイアップされ、フィルメニッヒに調香を依頼し、販売されたフレグランス「ボンドガール007」。このCMにジェマ・アータートンは主演しています。
作品データ
作品名:007 慰めの報酬 Quantum of Solace(2008)
監督:マーク・フォースター
衣装:ルイーズ・フログリー
出演者:ダニエル・クレイグ/オルガ・キュリレンコ/ジェマ・アータートン/マチュー・アマルリック