第八章 ドリーミン
Dreaming 前作『恋の平行線(Parallel Lines)』が初の全英No.1(そして、全米No.6)の売り上げを記録し、次回作に対する期待とプレッシャーが高まる中、前作と同じくマイク・チャップマンをプロデューサーに、1979年10月にフォース・アルバム『恋のハートビート(Eat to the Beat)』が発表されました。
そして、その先行ファースト・シングルとして、1979年9月に発売されたのがこちら「ドリーミン」でした。アバの「ダンシング・クィーン」のブロンディ・ヴァージョンとも揶揄されるこの曲は、人を殺す勢いで演奏する「ヘビー級ドラマー」クレム・バークの凄まじいビートが堪能できる作品です。
概要
曲名:ドリーミン
原名:Dreaming
リリース:1979年
最高順位:全英2位、全米27位、全加4位
デボラだから共感できる歌詞「夢見るのはタダ」
今ではデボラ・ハリー(1945-)の名を出すと、ファッション感度がとてつもなく高いと思われます(ハッタリが効きます)。本当は、テイラー・スウィフトあたりが好きでも、そういったスーパースターが影響を受けた伝説のロックスターの名を出すところが、ただ者ならぬオンナの演出には欠かせません。
しかし、本当のデボラの魅力は、「大阪弁を話す、小柄な、角度によっては美人に見える、性格のよさそうな姉御」な雰囲気にあるのです。
スタイルが良いとは言いがたい幼児体形の彼女の身長は160cmです(おそらく実際は157cmくらいでしょう)。そんな彼女が、「夢見るのはタダよ!」と歌うからこそ、共感できるのです。もしかしたら、現在のポップシンガーに欠けているのはこの部分かもしれません。
庶民的な体形を持つからこそ、彼女が創り上げていくスタイリングから共感が生まれるのです。若くて歌も上手く、180cmのスーパーモデル体型で、ファッションセンスも抜群な女性歌手が失恋の歌など歌っても共感なんてできないものです。
日替わり弁当のようにラグジュアリーブランドに身を包み、人間らしさを感じさせない、大掛かりな歌姫創造のプロセスに伴う、思考力が奪われていくような華麗すぎる映像の流れ、流れ、流れ!この人たちの手にかかると「夢さえもマネー」になるのです。
ブロンディ・ルック13 カットアウトロンパース
PVの中でデボラが着ているエメラルドブルーのカットアウトロンパーズは、スティーブン・スプラウスがデザインしたものでした。同色のタイツとヘッドバンドの組み合わせが、一見するととてつもなくダサく、時が経過するにつれてなんか「かわいいね」という不思議な共感を呼び覚ましてくれます。
「ドリーミン」ライブ映像集
ブロンディ・ルック14 ワンショルダー
デボラ・ハリーのファッションを見ていると、ワンショルダー出現率が高いことに気づきます。もちろんこちらもスティーブン・スプラウスがデザインしたのですが、もうワンショルダーだけは、日常で着ていると、それがたとえクリスチャン・ディオールのものであったとしても、チープに見えてしまうので、敬遠されてしまうスタイルです。
ちなみにこの写真は、1979年に撮られたものです。
こちらはワンショルダーのブルージャンプスーツバージョンです。
ブロンディ・ルック15 エアロビルック
まさにケネス・クーパーが提唱するエアロビクス前夜のエキササイズ・ファッションで歌うデボラ。この時代、ディスコ・シンガーの多くは、エアロビルック(レオタードスタイル)で歌うことを好みました。それにしても、ブロンドヘアにブラックのコントラストを生かした組み合わせが素敵です。
※ このスタイルについて詳しく知りたいあなたは、『Mr.Boo!インベーダー作戦』(1978)のオープニングを見よう。
【ブロンディ伝説】デボラ・ハリーのファッション史