アラン・アーキンがオードリーを引き立てる
生身の人間でオードリー・ヘプバーンを襲ったことがあるやつなんて、僕だけだろうね。
アラン・アーキン
最近の映画は見せすぎるから印象が薄くなるんだ。映画とは本来想像力を使って観るものだが、最近の作品にはその余地がない。
アラン・アーキン
今だから告白すると、私はこの作品に出るまでこういう役柄を演じたことがなかった。だから、精一杯でした。そして、私はずっとオードリー・ヘプバーンが憧れの人でした。しかし、役作りのため彼女とは仲良くできず、傍目に、彼女が楽しそうに仕事をしている姿を見て、彼女がもっと好きになりました。それはまるで王族と仕事をしているようでした。
皆と距離を置いて役作りをしていた私はいつも惨めな気分でした。本当にオードリーは、全てにおいて素晴らしい人なんです。そんな彼女と距離をおいて仕事をしなければならないのは、実に居心地の悪いものでした。彼女が怯えている演技に対して、私はその迫真に迫った姿に、本当に彼女は怯えているのではないかと自己嫌悪に浸ったほどです。それほどオードリーは私の憧れの人だったんです。
アラン・アーキン
自分自身も麻薬を常習し、何を考えているのか分からなく、一見すると弱そうなのだが、人間の心を持ち合わせていない蛇のような男。あの九州で一家を支配し全滅させた死刑囚になった男もこういう男なのではないだろうかというほどのあらゆる人間的な感情を放棄し、純粋悪そのものの男。そんな男が、一転して追い詰められると平謝りし、隙をついて形勢逆転を狙っているという死神そのものの悪漢ロートを見事に演じたアラン・アーキン(1934-)。
当初ロート役はジョージ・C・スコットかロッド・スタイガーで予定されていました。ちなみに当初、スージー役にジュリー・アンドリュース、マイク役にはロバート・レッドフォードで考えられていました。
アラン・アーキンには、ジョージ・C・スコットがやった場合の凶暴な凄みはなかったかもしれないが、この役にまったく新しい次元―完全な感情の欠如と忘れがたい悪の本質を与えた。
テレンス・ヤング
監督はジェームズ・ボンドを作った男テレンス・ヤングです。そうです彼こそが16年前にまったく無名だったオードリー・ヘプバーンをオーディションで落とした人であり、その時に彼女にこう予言した人でした。「とにかくたいへん魅力的で、わたしのオフィスで30分も話していった。わたしは、君に向く役があったらかならず声をかけると約束した。そして君はきっと成功するだろう、いつか君のほうから声をかけてわたしに監督をやらせてくれとまでつけくわえた」(テレンス・ヤングの回想)。
そんな宿命の人であるテレンスと、アラン・アーキンの当時としては、まったく新しい形の悪役の芝居が存在したからこそ、奇跡的な化学反応が起き、オードリーは迫真の演技を見せることができたのでした。
オードリー自身で選んだ衣装とは?
スージー・ヘンドリクス・ルック1 ミリタリーコート
- ローズ・ベルタン・チューリッヒのミリタリーコート、ウール素材にコーヒーブラウンとベージュのヘリンボーンチェック、シングル、鼈甲のボタン、エポーレット、カービーな隠しポケット、後ろはゆったりしたプリーツ、膝上の丈
- ベッティーナのダークブラウンニット・タートルネック
- ローズ・ベルタン・チューリッヒのコートと同じ柄のスカート
- ジバンシィのストッキング、1966/67AW
- シャルル・ジョルダンのブーツ、コーヒー・ブラウン・スウェード、1965/66AW
- セリーヌのハンドバッグ、ブラックレザー、1966年10月オードリーが購入した私物
- ダークブラウンの手袋
オードリーは役作りのため、スイスのローザンヌで盲人を教育している医師のもとで学び、音だけで人との距離を判断したり、鏡なしで化粧することも出来るようになりました。そして、6歳のときに視力を失った大学生カレン・ゴールドスタインを指南役にして、ワーナーのスタジオで、オードリーが真似を出来るように、各シーンの動きを一通りやって見せました。数日後にはオードリーが自分自身で全て演技プランを作れるほどになり、12週間だった予定分のサラリーをカレンは早期に全額頂き、指南役を終えたのでした。
スージーの賢さが分かる、実に興味深いシーンがあります。それは外出するためにマフラーを取るシーンです。彼女はあらかじめ違うコロンの匂いを染み込ませる事によって、色を“嗅ぎ分け”、マフラーの色を判断しているのです。
使用しなかったもう一着のコート
こちらのコートは、本作中では使用されませんでした。それは同じくローズ・ベルタン・チューリッヒのコートであり、トレンチコートをモチーフにしたものでした。ギャバジン・ウールを使用したベージュのコートであり、ネックラインの収まり方が実に美しいAラインのシルエットでした。