グッド ガール ゴーン バッド
原名:Good Girl Gone Bad
種類:オード・パルファム
ブランド:キリアン
調香師:アルベルト・モリヤス(ジャック・キャヴァリエ)
発表年:2012年
対象性別:女性
価格:50ml/36,850円
販売代理店ホームページ:ラトリエ デ パルファム
清楚なお嬢さんを、悪徳の虜にする香り
私はずっと〝誘惑〟をテーマにした香水を作りたいと考えていました。その理由は、〝誘惑〟に対してすべての人がイメージするものが、「蛇・禁断の果実・ぶどうの葉」であるという共通点のためでした。
であればこそ、しっかりとした芸術的な裏付けを持つレベルの香りを生み出したいと考えていました。その上で、香水の中でこれらのシンボルで遊んでみたいと願ったのでした。
キリアン・ヘネシー
キリアン・ヘネシーは2007年10月に「バイ・キリアン」(現在は「キリアン」)という名でブランド創業するにあたり、6作品からなるコレクション「ルーヴル ノワール —愛が描く甘い誘惑の世界—」(最終的には2011年までに計10作品を発売)を発表しました。
そして、ブランド創立5周年にあたる2012年に四番目のコレクションとして発表されたのが、3作品からなるホワイト・コレクション「イン ザ ガーデン オブ グッド アンド イーブル —エデンの園で紡がれるアダムとイブの物語(善悪の園の中で)— 」でした。
このコレクションは、純真と誘惑の究極の物語です。
キリアン・ヘネシー
エデンの園をテーマにする中で、誘惑する物が禁断の果実になるという点にキリアンは注目しました。そして、キリアンはコレクションの全ての香りを禁断の果実を中心に作ることに決めたのでした。
そのうちの一つ「グッド ガール ゴーン バッド」は、ヨーロッパの育ちの良いお嬢様や、ロースクールに通う才女の耳元に、美少年の姿を借りたルシファーがそっと囁きかけ、禁断のドアを開けるように促してしまう「エデンの園にある禁断の果実を、口に含んでしまう背徳の香り」です。
良い子は天国に行ける。でも悪い子はどこにでも行けるの。
メイ・ウエスト
今まで決して道を外れることなく生きてきたお嬢様が、娼婦やキャバクラ嬢のような派手なメイクと服装で堕落していく瞬間。または、きりりと後ろに束ねた髪に、眼鏡とスカートスーツで身を固めているキャリアウーマンが、その髪と眼鏡を解放する瞬間を表現した香りとも言えます。
私は、香りのテーマに合わせて依頼する調香師を変えます。そして、今回の官能的なテーマの香りには、アルベルト・モリヤスしかいないと確信していました。
キリアン・ヘネシー
そうです。このような魔性の香りを調香出来る人は、世界中でアルベルト・モリヤスをおいて他にいません。
ジャック・キャヴァリエの唯一のキリアン
悪魔の蛇にそそのかされ、ついに禁断の果実をかじってしまったアダムとイヴ。その対価で得たものは知恵でした。それまで裸で過ごしていた二人は、葉っぱで身体を隠し、善悪と性という名の恥を知ったのでした。
「グッド ガール ゴーン バッド」は、禁断の果実を齧り、バッドガールになってしまったイヴのメタファーとして創られました。
この香水の創作に対して、何よりも万全の体制で臨んでいたキリアン・ヘネシーは「ルーヴル ノワール」コレクションの成功を引っさげ、キリアンのメンターであったジャック・キャヴァリエを調香師として迎え、この香りを共に作り上げていたのでした。
しかし、2012年1月2日にキャヴァリエがルイ・ヴィトンの専属調香師として雇われたため、アルベルト・モリヤスが後任調香師として全てを引継いだのでした(しかし、当時のインタビューでは、キリアンはジャック・キャヴァリエと共に作ったも同然だと断言していた)。
キリアン様とどこまでも堕ちていきたい・・・
このコレクションはひとつの挑戦でした。なぜなら私はフルーティーな香水を作ることに慣れていなかったからです。通常、フルーティーで甘い香水は大衆的な香りになりがちで、それは私の世界ではありません。
キリアン・ヘネシー
数々のグッドガールを堕落への道へと引きずっていったであろう(コニャックで有名な)ヘネシー家の御曹司、キリアン・ヘネシーがクリエイティブ・ディレクターをつとめる「キリアン」だからこそ許されるコンセプトです。
「グッドガールがバッドガールになる」というこの香りは、フルーティーなホワイトフラワーに支配された蜂蜜のような甘い罠に、自らからめとられていく〝堕ちていく歓びを知る香り〟です。それは自ら進んで騙される香りとも言えます。
ちなみに、この香りを男性が付けこなすと、どんな美女であろうとも陥落させてしまうドンファンの香りへと転生を遂げてしまう〝危険な甘い香り〟となります。
“When I’m good, I’m very good, but when I’m bad, I’m better. “(私がいい子のときはとても素敵よ、でも私が悪い子のときはもっと素敵なの)でした。
限りなく黒にちかい白の魔性
この香水はシャネルの「N°5(No.5)」の21世紀バージョンです。「N°5」はアルデハイド(合成香料)でフローラル(天然香料)のブーケを作っている抽象的な香りです。そして、この香水はホワイトムスク(合成香料)でフローラル(天然香料)のブーケを作ることによって、「N°5」ほど比喩的ではなく、より抽象的な香りになっています。
キリアン・ヘネシー
夢のように美しい美少年二人が、両方の耳元で囁くように、アプリコット(杏露酒)のような甘美なオスマンサス(キンモクセイ)と、純粋さを見事に装うフレッシュなジャスミンサンバックの〝誘惑の挟み撃ち〟からこの香りははじまります。
若い女性にとってこのトップノートは、自ら発するラクトンC10とラクトンC11という10代後半をピークに年齢とともに減っていくピーチ/ココナッツのような甘い香りと、オスマンサスのラクトンが溶け込み、至上のクリーミーさを生み出してゆくことになります(だから10代の女性がこの香りを身に纏うと、捥ぎ取られることを待つ果実のように自分自身が熟していくような香りとなる)。
ここでキーになっているオスマンサスは、キリアンがこの香りを開発する数年前に、フィルメニッヒ社により創造されたレザー調のオスマンサスが使用されています。ピーチの香りを生み出すためにこのオスマンサスを使用している理由は、徐々に現れるアニマリックな側面(=バッドガール)を生み出したかったためでした。
「グッド ガール ゴーン バッド」には、実はクランベリーの香気成分を元に作った強いフルーティーアコードと、中国産のオスマンサス・アブソリュートが入っており、それがこの香水の禁断の果実なのです。
私が選んだオスマンサスはとても強いアプリコットの面を持ちます。それは、アプリコットにヴァイオレットとレザーをミックスしたような香りで、香水に使うにはとても手強いものです。
キリアン・ヘネシー
やがて、ハニーのような濃厚なメイローズも加わり、齧りつきたくなるようなピーチの果汁の濃厚さに包まれてゆくのです。そして、酸っぱいピーチの蜜の中から、バターのようなチューベローズが花を咲かせてゆき、香りはフルーツからリキュールへ転生してゆくのです。
このチューベローズはスパイシーグリーンな側面も持ち合わせています。それらを取り囲むように官能的なナルシス(スイセン)が扇情的な熱を放ちます。
この香りの素晴らしさは、抑制するために現れたはずの鋭角に切り込むようなシダーウッドとパチョリ、アンバーが、全ての甘き香料にすっかり翻弄され、同調し、驚異的な持続力=もう逃れられない背徳の罠に身を委ねる覚悟を教えてくれるところにあります。
そして、何よりも面白いのは、キリアン・ヘネシーとアルベルト・モリヤスが、女性の肌の上で、〝善悪の彼岸の戦い〟を起こしてやろうと画策したところにあるのです。
そのため香料の世界において特に美しいと思われる6つの花が使用されています。清純かつ貞淑さの象徴ともいえる三つの花々=中国産オスマンサス、オレンジブロッサム、グラース産メイローズと、究極の誘惑者とも言える三つの花々=インド産チューベローズ、インド産ジャスミン、フランス産ナルシスを対峙しています。そして、最後までオスマンサスが生き残るのです。
「グッド ガール ゴーン バッド」とは、究極の誘惑者でさえも手なずける、ジャンヌ・ダルクのような柔らかい甘さと鋼の意思を持ったオスマンサスとピーチ肌が融合した究極のフルーツの香りなのです。だから、ピーチの果汁に包まれている感覚を最初から最後まで得られるのです。
ルシアン・フロイドとキャロライン・ブラックウッド
キリアン・ヘネシーにとってこの香りのイメージとして浮かぶ絵画は、1954年にルシアン・フロイド(1922-2011祖父はジークムント・フロイト)作の「Hotel Bedroom」です。
この絵画の面白いところは、イノセンスとセクシュアルのコントラストが描かれているところです。彼がこの絵画に妻を描いたとき、彼の妻はまだ22歳でした。しかし、私には彼女が22歳に見えません。
「グッド ガール ゴーン バッド」は花とムスクだけで作られており、トップからドライダウンに至るまで2つの正反対の花のコントラストがあります。
繊細でイノセントなアプリコット調のオスマンサスとハチミツのように甘いグラース産のローズ。続けて、柔らかいオレンジブロッサムのアブソリュートと強烈でアニマリックなジャスミンのコントラストが描かれ、最も中毒性のあるインド産のチューベローズとフランス産のナルシスのコントラストへと展開していくのです。このドラマティックなブーケが、純粋な気持ちを高めてくれるベビームスクに包み込まれてゆくのです。
キリアン・ヘネシー
絵を描いた当時、ルシアン・フロイドは32歳で、妻のキャロライン・ブラックウッド(1931-1996)は22歳でした。彼女は、ギネス一族(1759年にアーサー・ギネスが創業したビール醸造会社)の令嬢として生まれ、ロンドンの名家の令嬢は稀代のプレイボーイに夢中になりパリに駆け落ちし、1953年12月に結婚しました。
しかし、すぐに二人の関係は冷め、最終的には1958年に離婚しました(二人は、ジェームズ・ボンドの生みの親である作家イアン・フレミングの妻の紹介で出会った)。この絵は僅か二年でお互いの気持ちが冷め切り、夫婦の心がまったく通ってない部分を描いた作品でした。
ある意味、ヘネシー家のお坊ちゃんであるキリアン自身が、自分の姿をルシアンとキャロラインの中に見出しているのだとも言えます。
全世界でも最も売れているキリアンの香り
全世界、どの国でも、圧倒的に一番売れている香りは「グッドボーイゴーンバッド」です。そして、その次に売れているのが「ラブ ドント ビー シャイ」です。
つまり、最初のキリアンの香りとして選ばれることが最も多い香りであり、キリアンを愛する人々にとってそのネーミングの完璧さも含め、避けがたい存在感を放つ香りと言えます。
「グッドボーイゴーンバッド」を生み出す香り
この香りを身にまとうべきではない女性は、このような女性です。母性愛に満ち溢れ、情愛の深い、笑顔が眩しくて美しい女性。そんな女性がこの香りを身に纏うと、世の青年たちは「グッドボーイゴーンバッド」になってしまうでしょう。つまりは齧りつきたくなるホワイトフローラルの誘惑の香りとなるのです。
「イン ザ ガーデン オブ グッド アンド イーブル」のすべての香りを包み込むアール・デコ調の白いミニクラッチは成金趣味たっぷりです(キリアンというフレグランスが必ずしも洗練と同義語ではない由縁)。
それはキリアンが個人的に集めていた1920年代から1930年代のヴィンテージのシガレットボックスと1933年に発売されたヴァンクリーフ&アーペルのミノディエール(化粧品バッグとハンドバッグを融合した伝説の箱)にインスパイアされたものです。キリアン自身はタバコを吸いませんが、キリアンはその造詣を非常に愛していたのでした。
そのクラッチにもなる白いケースの上を黄金蛇が這うデザインは、大仰なボトルデザインと共に、一歩間違えると悪趣味になりかねないギリギリの最後の一線で踏みとどまっています。白は純粋と無垢の象徴、ゴールドは贅沢と豊かさの象徴です。蛇は24金でできており、その目の輝きはスワロフスキークリスタルにより生み出されています。
ボトルの側面には、「ルーヴル ノワール」コレクションのようにアキレスの盾ではなく、エデンの園が描かれており、リンゴ、蛇、ブドウのツタが彫られています。さらに白エナメルの文字は、1つ1つプレートを手で彫って、手作業でエナメルが塗られています。
リアーナが2007年5月に発表した3枚目のアルバムと同じ名を持つ「グッド ガール ゴーン バッド」。しかし、どちらかというとオスマンサスとチューベローズが主役のこの甘い香りのイメージをビジュアルで表現するならばコブラ・スターシップが2009年に発表し、全米No.7ヒットになった「グッド ガールズ ゴー バッド」でしょう。
香水データ
香水名:グッド ガール ゴーン バッド
原名:Good Girl Gone Bad
種類:オード・パルファム
ブランド:キリアン
調香師:アルベルト・モリヤス(ジャック・キャヴァリエ)
発表年:2012年
対象性別:女性
価格:50ml/36,850円
販売代理店ホームページ:ラトリエ デ パルファム
トップノート:ジャスミン、オスマンサス、メイローズ
ミドルノート:インド産チューベローズ、スイセン
ラストノート:アンバー、シダー、ムスク、パチョリ、ベチバー