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作品データ
作品名:007 スペクター Spectre (2015)
監督:サム・メンデス
衣装:ジャニー・ティマイム
出演者:ダニエル・クレイグ/レア・セドゥ/ベン・ウィショー/モニカ・ベルッチ/クリストフ・ヴァルツ
私が愛したロジャー・ムーアの007
私が〝007〟で一番好きな作品は、2本あります。それは『私を愛したスパイ』(1977年)と『ムーンレイカー』(1979年)です。ちなみに、マイベスト〝ボンド〟ソングは、『ムーンレイカー』の終わりに流れるディスコ・ヴァージョンの「ムーンレイカー」。まさにこの2作こそが、007の醍醐味を体現した作品だと思います。
大真面目に夢のようなことに命をかける男たちの映画が大好きです。私の中のそんな映画の金字塔は『大脱走』(1963年)と『ワイルドバンチ』(1969年)、『タワーリング・インフェルノ』(1974年)、そして、『コン・エアー』(1997年、特にスティーヴ・ブシェミ登場シーン)と一作目以外の『ミッション・インポッシブル』シリーズです。一言で言うと、これらの映画は、何か大きなことをしでかしそうなワクワク感に包まれています。その感覚を私はブロンソンイズムと呼びます。
ボンドとしてのダニエル・クレイグは、すごく魅力的です。ジェームズ・ボンドをファッショナブルな映画に変えたのは、彼からです。しかし、彼のボンド作品はどの作品も「ワクワク」感が足りません。悪く言えば、ティモシー・ダルトンの『消されたライセンス』(1989年)のような展開なのです。私の中のダニエル=ボンドの理想形は、2012年ロンドン五輪の女王陛下とJBのあのムービーです。そんな私の期待に応えてくれそうなテーマがこの『スペクター』でした。「ボンド君」なんて語り掛けるマオカラーのブロフェルドが登場して、世界征服を企み、ボンドは絶体絶命の状況に追い込まれる。リアル路線なんてクソっくらえなんです!
トム・フォード・スーツを着る男性の世界紀行
007、それは世界一周ラグジュアリー・スーツの旅。ボンドムービーを見て、旅の予定を立てる人がいるほどに、過去に遡っても、異国に対する憧れを掻き立ててくれます。本作においても、オープニングからメキシコシティが登場します。ノーカットで撮影している約4分30秒間のオープニングシークエンスです。登場するホテルは、グランホテル・シウダッドデメヒコです。
ボンドマニアが必ず話題に出すのが、ボンドが活躍した場所のどこに行った事があるか?です。僭越ながら私にも自慢させてください。2015年に私は丁度メキシコシティでこのホテルに滞在していました。特徴のある年代物のエレベーターと天井のステンドグラスが映し出された時、感動しました。「あっ、私、あれを見たよ」って。
このホテルは、広大なソカロ(中央広場)に面しています。そして、劇中、ソカロは、何万人かと思える人海で埋め尽くされています。セシル・B・デミルイズム全開です。このシーンはCGを一切使わず、群集もヘリコプターも全てホンモノで撮影が行われています。しかし、私としてはこのオープニングシーンが手に汗握る展開でありながら、メキシコシティの魅力を全く伝えていない点が残念でした。このオープニングにメキシコシティの独特な危険な空気を醸し出さずして、なぜメキシコシティなの?と感じた訳です。
それでも、ボンドのスーツ姿はため息が出るほどに男性的魅力に溢れています。「ああ・・・こんな男性に抱かれたい」と思うよりも「男性はスーツをこんな風に着ることも出来て羨ましい」と感じてしまいます。ずっとジャケットのボタンは閉め続けています。落下して、ジャケットの形が崩れた後も、動じずにさっと崩れを直す。そのスーツに対する様式美。007が他のスパイムービーと違う点がここにあります。
ジェームズ・ボンド・スタイル1 メキシコ・スーツ。オープニングはスーツで決めるべし!
- トム・フォードの「オコナー」スーツ。プリンス・オブ・ウェールズ・チェック、3つボタンの段返り。Vラインは少し深め、白カーチーフ(リネン)
- トム・フォードのシルク製のネイビータイ、フォア・イン・ハンド結び、ティンプルをはっきりつける
- トム・フォードの白シャツ、ポイントカラー、ダブルカフス
- クロケット&ジョーンズの外羽根ストレートチップ「ノーウィッチ」、ロンドンや敵アジト潜入シーンでも
トム・フォードこそ、ジェームズ・ボンドにとっての本当のQ
『007 慰めの報酬』(2008)『007 スカイフォール』(2012年)に続いて本作のボンド・スーツは全て、トム・フォードによるものです。これらのスーツは全てイタリア寄りのスイスのエルメネジルド・ゼニアの工場で製造されており、ゼニアの生地を贅沢に使用したものです。
ダニエル・クレイグが復活させたニュー・ボンド・イメージの共犯の1人とも言えるのが、トム・フォードです。彼がボンド・スーツを担当することにより、ボンド・ムービーに対する関心を失っていた20代~30代の男性の支持を勝ち取ったのです。オシャレな男子のマスト・ムービーとして確固たる地位を築き上げたのです。
今回のボンド・スーツはまさに「戦闘服のようなスーツ・スタイル」の提案がなされています。カジュアルなスタイルなんて、男性の魅力よりも、倦怠を引き出すものでしかない!とでも言いたげな、隙のないボンドのフォーマル・スタイルの格好良さ。女性から見ても、プチプラコーデなんて言って、ファストファッションに依存する男性には魅力を感じません。やはり、男性には、カジュアル以上に戦闘服でもあるスーツスタイルに磨きをかけて欲しいものです。
ユニクロとトム・フォードのシャツの違いは何でしょうか(比べるべきではないことは百も承知です)?それは端的に言って、生地感やシルエット以上に、そこに辿り着くことの難しさが容易に伝わる点にあります。一度でもトム・フォードのシャツを着た男性を見たならば、確実に5秒以内で分かるファッションの単純な感覚が理解できるはずです。それを「男性の色気」と私は呼びます。ユニクロのシャツは、実に見事にそれを感じさせない代物なのです。プチプラ・フォーマルの秘密。それはただ単に想像で、ラグジュアリーとそう変わらないと考えているだけで、ラグジュアリーを知る人には、容易にその違いを見破られてしまう所にあります。結局はカジュアルよりフォーマルの方が、ホンモノ思考が問われるのです。
ジェームズ・ボンド・スタイル2
- トム・フォードのグレー・ヘリンボーン・トラック・ストライプ・スーツ。細いラペル、ウール×シルク×モヘア
- トム・フォードのシャツ、Mオフィス・シャツ(白コットン、ポプリンとダークグレータイ)、Qオフィス・シャツ(スカイブルー、ネイビータイ)両方ともポイントカラー、ダブルカフス
- トム・フォードのヘリンボーンチェスターフィールド・コート、ヘリンボーン、ヴェルベット・カラー
- マルベリーの黒の鹿革のグローブ
- シルク×カシミア。マフラー
ボンドの自宅に訪ねてくるマネーペニー(ナオミ・ハリス)のブルーのチェスターコートも美しい。