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チャールズ・ブロンソン

チャールズ・ブロンソン2 『ウエスタン』1(2ページ)

チャールズ・ブロンソン
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作品名:ウエスタン Once Upon a Time in the West (1968)
監督:セルジオ・レオーネ
衣装:カルロ・シーミ
出演者:クラウディア・カルディナーレ/チャールズ・ブロンソン/ヘンリー・フォンダ/ジェイソン・ロバーズ

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ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ブロンソン

男が惚れる男の横顔をとくと見よ!

彼は運命そのもの・・・花崗岩の塊のようだ。突き崩すことはできないが、生命力にあふれてもいる。合衆国にいる間、多くの重要人物にあった。実業家や、会社重役などにね。ブロンソンが演じた人物よりもタフな人たちさ。そして、彼らは皆ブロンソンと同じようにニヤリとするんだ。脅迫的で、人を落ち着かない気分にさせる微笑みを浮かべるんだよ。

セルジオ・レオーネ

チャールズ・ブロンソンは、1921年11月3日に生まれた。この作品が撮影されていた時、ブロンソンは46歳だった。そんな中年男性の吹くハーモニカ姿になぜ私は痺れるのだろうか?

日焼けした顔に、刻み込まれた皺。思えば、ブロンソン以外の男性陣も見事なまでに中年男性で占められている。そして、そんな男たちの年輪とも言える皺をアップで舐め回すようにカメラは捉えているのだ。つまりは、この作品は、10代から20代の女性が、大人の女性の一歩を踏み出すための「聖典」なのだ。大人の男の色気を見て学ぶための「聖典」。若い女性の特権は、ひとまわり年上の男性を愛することが許されることなのです。

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世界中の男たちがロングコートの美学に酔いしれた。

オープニングに登場する〝3人の聖者たち〟が教えてくれるロングコートの美学。

左のウディ・ストロードのコートのドレープが半端ないです。

左のアル・ムロックのクールな立ち姿は、後に多くの漫画に模倣された。

ダスターコートを着た二人の後ろ姿。良質なコートは翼のように広がります。

男たちはゆっくりと登場する。ゆっくりと動くからこそコートは呼吸するのです。

『ウエスタン』の衣装に感心したアメリカ人たちに、どの映画の真似をしたのかと訊かれたよ。私は「私の思いつきではないよ。史実に忠実なだけさ」と言ったんだ。ダスターはカウボーイたちが町を離れて砂漠で数日過ごす際、日中の酷い砂埃や夜間の土砂降りから守ってくれる実用的な装いだったんだ。ダスターはウイスキーをこぼしても染みになりにくかった。表面を保護するためにバッファローの脂が塗られていることがあったからね。だからダスターを着ていないカウボーイは無防備同然だったのさ!アメリカ人の監督たちは脚本家に何もかも任せっきりで、自分でちゃんと歴史を調べようとしないんだよ。

セルジオ・レオーネ

ファッション史において、最も見落とされがちな事実があります。それはセルジオ・レオーネの『ウエスタン』によって、世界中でロングコートが大流行したという事実です。

はじまりは、レオーネ監督の『続・夕陽のガンマン』(1966)からでした。しかし、本編において、頻繁に登場するダスターコートのロング・シルエットの格好良さが、その魅力を伝える決定打となりました。全てはこのオープニング・シーンにおける〝3人の聖者たち〟のダスターコート姿からはじまったのです。

それまで、アメリカの西部劇における定番ファッションは、タイトパンツにホルスター姿でした。そして、ダスターコートは格好悪いという先入観が存在していました。そんな先入観が、この作品において、未来永劫に吹き飛ばされたのでした。

コートとは、ドレープの美学です。コートは風の友達です。風と遊ぶために重要なことは、良質な生地です。生地が悪いコートは、風を泣かせることになってしまいます。そんなロングコートの美学を視覚的に教えてくれるこのオープニング・シーンは、男性よりもロングコートを着る機会の多い女性にとってのアイコニック・シーンなのではないでしょうか?

この作品は、過去10年間の最高傑作と言ってもいいでしょう。テンポが速い傑作がある一方で、とてもテンポの遅い傑作というのもあっていいはず。『ウエスタン』のバレエ的とも言えるような特徴がとても気に入ってるんです。特に最初の15分ほどのね。

グレアム・グリーン

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アル・ムロックよ!安らかに眠れ!

死神のようなルックスのこの男は、撮影中に自殺した。

この男の名をアル・ムロックと言う。

彼のコートは、エポレットなしのトレンチコートでした。

3人の選者ルック アル・ムロック
  • ブラウンのテンガロンハット
  • ブラウンのトレンチコート、エポレットなし、センターベント
  • ベージュのシャツ
  • ブラウンのパンツ
  • ブラウンのブーツ

アル・ムロック(1926-1968)は、4日間の撮影が完了する寸前(1968年5月)に本作の衣装を身に付けたまま、滞在先のスペインのホテルの3階の屋根から飛び降り自殺しました。カナダ出身のアルは、元々は50年代にアクターズ・スタジオに参加していました。そして、撮影当時、彼は深刻な麻薬中毒でした。

自殺現場にセルジオ・レオーネが駆けつけた時に言い放った一言は「衣装は脱がせておいてくれ!必要だから!」でした。そして、編集中にも、アルの演技が映る度にレオーネは「あと一日遅く死んでくれたら、よかったのに。彼のクローズ・アップがもう一つ必要だったんだ」と言っていました。

それはレオーネなりの不器用な愛情表現だったのかもしれません。それ程、アル・ムロックという俳優には、独特な存在感が存在していたのです。オープニング・シーンの彼の所作は、後年の西部劇や、日本のアニメに多大なる影響を与えたのでした。