エリザベス・テイラー9　『クレオパトラ』1（3ページ）

作品名：クレオパトラ　Cleopatra　（1963）
監督：ジョーゼフ・L・マンキーウィッツ
衣装：アイリーン・シャラフ／レニー・コンリー／ヴィットリオ・ニーノ・ノヴァレーゼ
出演者：エリザベス・テイラー／リチャード・バートン／レックス・ハリソン／ロディ・マクドウォール／マーティン・ランドー

クレオパトラを演じたハリウッド女優たち

真の意味で、最後のハリウッドスターと呼ばれる女優の名を挙げるとするならば、それは、エリザベス・テイラー（1932－2011）をおいて他にないでしょう。

そんなリズ・テイラーの全てを体現する作品が、良くも悪くも『クレオパトラ』なのです。そして、この作品は、（壮絶なるムダと）史上空前の豪華絢爛なるハリウッド製のスペクタクル時代劇というだけでなく、ファッション史においても、今まで女性美の象徴として、漠然とした存在であったクレオパトラに、はっきりとした輪郭を与えたのでした。

ちなみに映画史においてはじめてクレオパトラを演じた人は、『アンソニーとクレオパトラ』（1908）のフローレンス・ローレンスでした。そして、その次にクレオパトラを演じたのが、『クレオパトラ』（1917）のセダ・バラ（上の写真）でした。

さらに3人目は、セシル・B・デミル監督による『クレオパトラ』（1934）のクローデット・コルベールでした。彼女のクレオパトラは、現在において再評価されており、最もクレオパトラらしいクレオパトラだと考える人々もいます。

そして、4人目は、『シーザーとクレオパトラ』（1945）のヴィヴィアン・リーでした。ちなみにこの作品は、イギリス映画史上、最も製作費のかかった失敗作になりました。

しかし、リズ・テイラーの『クレオパトラ』が誕生した後には、全ては消し飛びました。今では、クレオパトラ＝リズ・テイラーという風に、歴史の教科書においても登場する存在になりました。そして、その時に必ず追加される一文がこうです。「映画会社を倒産寸前にまで追い込んだ歴史的失敗作」。

幻のマリリン・モンローのクレオパトラ

1951年12月13日に妻と浮気した男の股間を拳銃で撃った夫がいました。この夫の名をウォルター・ウェンジャー（1894－1968）と申します。彼は、ジョン・フォードの『駅馬車』（1939）、イングリッド・バーグマンの『ジャンヌ・ダーク』（1948）、スーザン・ヘイワードの『私は死にたくない』（1958）を製作したハリウッドの伝説的な映画製作者でした。そして、妻の名は、ジョーン・ベネットであり、男の名は、彼女のエージェントだったジェニングス・ラングでした（浮気は誤解だと言われている）。

当時50代にして、まだまだ血気盛んなウェンジャーが、60代半ばにして、最後の戦場と決めたのが、『クレオパトラ』だったのです（彼は、殺人未遂事件を起こした1951年にリズ・テイラーの『陽のあたる場所』を見てクレオパトラを作りたいと決心したのでした）。ウェンジャーの熱意が通じて、1958年9月30日に20世紀フォックスの社長スパイロス・ スクーラスが200万ドルの予算を承認しました。当初は、ジョアン・ウッドワード、ジョーン・コリンズ、スージー・パーカーといった専属女優で撮影するBムービーの予定でした。そして、5年後には、この予算が、4400万ドル、まさに22倍の製作費となり、フォックスを倒産の危機にまで追い込んだのでした（『タイタニック』は、2／3の制作費で作られた）。

予算拡大のきっかけは、1959年に公開されたライバル会社MGMによるスペクタクル歴史劇『ベン・ハー』の空前の大ヒットでした（制作費1500万ドルで8000万ドルの興行収入をあげた）。スクーラスは、社長就任以来大ヒット作を生み出せていなかったこともあり（6年間にたった3本のヒット作しか生み出せなかった）、『クレオパトラ』を、フォックスにとっての『ベン・ハー』にしようと、予算の大幅拡大を決定しました。

そして、ウェンジャーは、まず最初にアルフレッド・ヒッチコックに監督を依頼したのですが、断られ、ルーベン・マムーリアン（1897－1987）が監督に決定しました。そして、クレオパトラ役の選考が開始されたのでした。まず最初に登場したのはマリリン・モンロー（1926-1962）でした。彼女はスクーラスに、1958年にリチャード・アヴェドンと撮影したクレオパトラの写真を送りつけアピールしました。しかし、マリリンをかつて愛人にしていたスクーラスにとって、彼女がシーザーとアントニーを手玉に取る古代エジプトの女王を演じることは不可能だと判断されたのでした。