2026年に、日本の香水文化の新しい扉を開けた人
「本当にそれだけの価値があるのだろうか?」
ここ数年、高価なニッチ・フレグランスとハイブランド・フレグランスがあふれかえっている日本の香水市場の中で、新しい香りを求め続けていた人々が、ついに目を覚ます時がやって来ました。
そんな日本の香水市場に新たな風を吹き込んだ、それが『Crazy Jasmine|クレイジー・ジャスミン』です。
『お茶』によって、日本人の暮らしに寄り添ってきた伊藤園の中の人が、本気で生み出した〝手の届く贅沢。日本人の日常に寄り添い、生活が豊かになる、心に育てるジャスミン畑〟。
時代はまさにコレを求めていたのでしょう。2025年春にフレグランスをローンチしてから、わずか一年あまりで、各地で話題を呼ぶ“クレイジー旋風”という現象を生み出しています。そんなCrazy Jasmineの創造主である向田陽子さんに、緊急独占ロング・インタビューを行いました。
100人以上もの行列ができるジャスミンの香り

©2025, Crazy Jasmine
2020年から2023年のパンデミックの間に、“おうち時間”が増えたことにより、世界中で空前の香水ブームが巻き起こりました。そして、パンデミックが明けた現在、世界各国から日本に数えきれないほどのニッチ・フレグランスが上陸しています。
一方で、ハイブランドも高級香水のコレクションを量産し、今では、フレグランスは4万円から5万円超えが当たり前の高級商材になっています。
2024年から現在にかけて、日本の香水業界は(世界的にと言ってもいいのですが)、市場に溢れる香水の飽和状態のさらに上をゆくカオス期を迎えています。そんな中、伊藤園発の香水ブランドである「Crazy Jasmine」は産声をあげました。
伊藤園(1964年創業)は、「お~いお茶」で有名な茶製品および清涼飲料水メーカーです。「お~いお茶」は、1989年に発売された世界No.1の無糖緑茶飲料ブランドであり、2024年12月末時点で累計販売本数が450億本を突破しました。
その伊藤園からジャスミンティーが発売されたのは、1985年のことでした。2013年4月にはジャスミンの花の香りをより豊かにし、リラックス感のある味わいを追求した製品として「Relax ジャスミンティー」の名に刷新されました。その後、現在は「Relax JASMINE」として展開しています。
近年、香水愛好家も含め、日常的に香水を使用する人々は「日本人のライフスタイルに合った、生活を豊かにする香水」を、5000円から2万円前後の価格帯で求めるようになっていました。
そして、Crazy Jasmineは、フレグランス発売から約1年が経った、2026年5月27日から5日間、代官山にて、日本の香水産業をゲームチェンジする下剋上を起こしたのでした(7月にテレビでも放映された『クレイジー旋風』です)。
今、Z世代の若者が集まる人気スポットの代官山駅の中央口を出た方面ではなく、駅の喧騒から少し離れた北口を出た方面にある、ゆったりとした一角で、Crazy Jasmineは、初の路面店となるポップアップを行いました。このポップアップは、まさに100人以上もの行列が出来る大盛況となりました(このレンタルスペースを貸した支配人もびっくり仰天したほど)。
それは伊藤園の社内ベンチャー制度から分社化したCrazy Jasmineが、百貨店などの複合商業施設の中でポップアップを行うという発想から一歩突き抜けた、独自に場所を借りてポップアップを成功させるという、ディオールがキャット・ストリートなどで行っていることを、低予算で行い成功させました。
この成功事例は業界内でも注目を集めています。従来、ポップアップ展開では出店費用やPR費用が大きな負担となるケースも少なくありません
Crazy Jasmineによる「共感革命」は、SNSを駆使した集客力が根本にあります。
さらに言うと、向田さん自身が管理することにより、ファンを作っていく「純粋なる狂気」が共感を生んでいる所にあります。Crazy Jasmineの存在は、ある意味、AIとは逆行した人間的な販売スタイルが功を奏した好例とも言えます。
SNS上では、これまで海外のラグジュアリーフレグランスを愛用してきた方々からもCrazy Jasmineへの関心を示す声が見られます。なぜCrazy Jasmineは、既存の香水ファンだけでなく、新たな層からも支持を集めているのでしょうか。
さらには今まで全く香水に興味がなかった層にまでアプローチしているCrazy Jasmine。今、恐らく、どんな場所でポップアップを行おうとも行列が絶えないことは間違いない存在であり、テレビで取り上げると、そのYOUTUBEがバズりにバズり反響を呼び、Crazy Jasmineが人々を引き付けているという事実。それはまさにバズりやブームを越えた『現象』なのです。
今、水面下で、各所から出店のお声がけがある状況です。『クレイジー ジャスミン経済圏』へようこそ。そんな「革命」の連続を成し遂げているCrazy Jasmineの代表である向田陽子さんとのロングインタビューを2026年9月半ばに行いました。
「咲きたてのジャスミンそのものの香りに徹底的にこだわりました」
――― こんにちは。まずはCrazy Jasmineの分社化と、社長就任おめでとうございます。
ありがとうございます。社長と言いましても、伊藤園からの出向社長ですが、自分の裁量で、色々なことが出来るようになったので、一日一日、とてもやりがいを感じています。
――― 向田さんとお話しさせて頂く機会を比較的おおく頂くのですが、いつも向田さんと話していて感じるのは、すごい事を成し遂げているのに、本当に、何事にも謙虚で、しかもブレがないということです。
ブレがないですか(笑)。それは、どういったところでしょうか?
――― 向田さんは、Crazy Jasmineをビジネスとして数字のゲームのように捉えているのではなく、最初からおっしゃっておられる「私がクレイジーなまでに感じているジャスミンの魅力を、皆様と分かち合いたい」という姿勢が一貫しているところです。
まずは向田さんが、伊藤園というお茶の会社で働きながら、なぜジャスミンに対する愛が深まったのかについてお聞かせ願えますでしょうか?
はい。私は17年間、そう、2022年まで「Relaxジャスミンティー」のラベルのジャスミンの花のデザインを含むボトルデザインを担当していました。2011年には、女性の手にもフィットする〝ゆらぎボトル〟を考案したりもしました。つまりずっとマーケティング本部のデザイナーとして働いていました。

初代〝ゆらぎボトル〟500ml ©伊藤園
プライベートで、パンピューリのジャスミンの香りなどを愛用していたのですが、ジャスミンの香りに対して、クレイジーになるほどの興味を持ったのは、2010年代のことでした。
伊藤園では、商品の理解を深めるために、マーケティング本部主導で社内展示会が行われています。その時、ジャスミンティーに対して理解を深めるために、ジャスミンの生花を展示し、咲きたてのジャスミンの香りを体感してもらいました。
「咲きたての生花は、こんなにもいい香りなのか」と、衝撃を受けたことを今も鮮明に覚えています。それと同じくらい印象深かったのは、拠点長の男性たちが、熱心にジャスミンの生花を嗅いでる姿を目にしたことでした。そして「あっ、ジャスミンって、男性にとっても魅力的な香りなんだ」と感じました。
この時から、私は、ジャスミンティーのボトルデザインを行っていることもあり、ジャスミンをもっともっと知りたいと思うようになりました。そして今では、14種類のジャスミンを自宅で育てるようになりました。このようにして私は、すっかりジャスミンに夢中になっていったのでした。
――― わあ、すごいですね!14種類のジャスミンを実際に育てておられるということは、それぞれの香りの違いについても、熟知しておられるということですか?
はい、品種によって微妙にですが、香りが違います。だからジャスミン狂なのです(笑)。
伊藤園で、1994年より運営している社内資格制度として、ティーテイスターという資格があって、私は二級を持ってるんですが、茶葉の色、香り、味に対する品質の嗅ぎ分けなどもするので、嗅覚は訓練されている方だと思います。
――― ちなみに、伊藤園のジャスミンティーというのは、一般的なジャスミンティーの1.5倍もの花を使用して香り付けするほど、こだわりをもって作られているとお聞きしました。
そうです。ジャスミンの花の量にもすごくこだわっています。その日の夜に満開に咲くつぼみを見極めてつぼみの状態で、一輪ずつ手でていねいに摘み採ったものを、緑茶の葉の上に、積み重ねて、香りを茶葉に移してゆきます。
そして数時間おきに花と茶葉を混ぜ合わせ、香りのばらつきをなくします。この工程を一晩中かけて行います。その後、緑茶の葉に香りを移し終えたジャスミンの花を取りのぞきます。この工程を三日繰り返します。これが伊藤園のジャスミンティーのこだわりなのです。
(参考)https://www.itoen.jp/jasmine_tea/scent/
――― 私が向田さんとお話ししていていつも感心するのは、自社商品に対する誇りと深い知見ですね。この深い想いをもって作り上げた商品を、お客様の手元にお届けするという〝誠意〟をCrazy Jasmineのそれぞれの香りからも強く感じるのです。
ありがとうございます。Crazy Jasmineの香りを作るために、色々なブランドのジャスミンの香水を購入しました。それぞれが持つ香水としてのジャスミンの表現に感動しながらも、まるで咲きたてのジャスミンそのものの香りを生み出していくことに専念しました。
――― ここはとても重要なポイントですね。Crazy Jasmineのフレグランスが、香水好きに対しても、香水が苦手な人に対しても新鮮なのは、従来の香水の常識や表現にとらわれず、“ジャスミンそのものの魅力”を追求したフレグランスだからなのですね。
はい、そうなのです。咲きたてのジャスミンの花がそこにあるような香りを作りたかったのです。
〝生まれたままのジャスミン〟を素肌で飲み干すようにまとう。
――― 伊藤園という茶製品・清涼飲料水メーカーが、香りの市場に本格参入するきっかけを向田さんが切り開いたことになるのですが、そんなジャスミンの香りに対する深い愛情を、ひとつのカタチにしようと決心したのは、2022年9月の伊藤園初の社内ベンチャー制度に応募した時ですか?
はい。パンデミック下に行われた、伊藤園初の社内ベンチャー制度ということもあって、5000人以上いる社員の中から、数百人がアイデアを提出して、数名が選ばれました。
――― かなり狭き門だったのですね!ちなみにその時まで伊藤園は、香り関連の商品、または化粧品を販売したことはありましたか?
香り系はありませんでしたが、化粧品は、2011年に緑茶石鹸を販売した事があります。
――― まさに伊藤園にとっても新しいチャレンジだったわけですね。しかも、向田さんのプロジェクトが、伊藤園の社内ベンチャーでの成功例の第一号になったのですね。まさにそれは、社内で下剋上を達成した瞬間とも言えますね。
それもこれも、デザイナーとしての能力の高さは勿論のこと、マーケティング本部におられたからこそ、日本の香水産業において下剋上を起こせる『空白』を見事に見抜かれていたということですね。
いいえ、そういう訳でもないんです。元々は、大学を出てから、別の企業で車のカタログ等のデザインを作っていました。
私は性格的に凝り性なところがあって、学生時代には、テニスと剣道(二段)、そして、伊藤園に入ってからはゴルフにはまり、スコアは100を切るくらいにハマっています。ちなみに伊藤園は毎年、女子プロゴルフツアー <伊藤園レディスゴルフトーナメント>を開催することもあり、社員はゴルフ好きな人が多いです。
さらに、お茶の道も究めたいと思い、茶道を13年間学んでます。根っから、一つのものにのめり込み、とことん追求したくなる性格なんです。だからジャスミンも例外ではありません。ジャスミンの香りや品種、その咲きたの香りをもっと多くの人に知ってほしい。その想いだけでブランドを立ち上げました。
言うなれば、ジャスミンを仕事にしたかったのではなく、もっとジャスミンに狂いたかった。仕事にすることで、誰よりもジャスミンを追いかけ、詳しい人物になりたいと思いました。
――― 向田さんは、本当にジャスミンにクレイジーなんですね。
はい。本当にジャスミンが大好きなジャスミン狂なんです。つまりマーケティングとは全く逆のベクトルで進んでいったんだと思います。
――― なるほど。どこまでも「なぜ私がジャスミンに狂っているのか、その魅力を皆様にも共有させてください」なのですね。
はい!まさにそれです。Crazy Jasmineのフレグランスは、世に存在する素晴らしいジャスミン香水から、その装飾を全て剥ぎ取り、生まれたままのジャスミンの姿を、素肌の上で露わにしていくように作られているのです。〝生まれたままのジャスミン〟良い言葉ですよね。
Crazy Jasmineというブランド名に決めたのはなぜ?
――― さて社内ベンチャー制度というものについてお聞きしたいのですが、それは、企画案のようなものを出して、プレゼンテーションをして、選考に受かれば、部下と予算を与えられて、5か年計画みたいな形で行う感じですか?
いいえ、会社としてははじめての試みなので、トライアンドエラーで、すぐに利益が上がることを予想していなかったようです。つまり、部下を与えられるわけではありません。選ばれると、新事業部署に異動となり、四ヶ月間、メンターの下で事業化のノウハウを学びます。その後は、基本的にひとりで色々準備していく事になります。
――― ひとりでですか!すごいですね。向田さんとはじめてお会いしたのは、伊藤園の本社で、去年の10月のことでした。丁度、新宿某所のポップアップが終了したばかりの頃で、エックスを見ていても、フォロワーが4000人くらい越えていて、人気が高まっているなと感じて連絡させて頂きました。
覚えてますよ。エックスのDMから連絡が来て「もう年内はポップアップの予定はないんです」と返信したら、「本日、お伺いしてもよろしいですか?」という返事を頂きびっくりしました。
――― 最初は大企業のベンチャー事業として、活気のある香水市場に、安易に乗り出した感じかと考えていたのですが、エックスを拝見していて、どうやら、そういう類のものではないと思い、連絡させて頂きました。ちょっと上からの言い方ですみません。
さらに失礼ついでに言いますと、なぜ「お~いお茶」で有名な伊藤園が、フレグランスを作ったのか、衝撃を受けたからでした。
よく言われます。しかも、お茶のフレグランスではなくて…
――― ジャスミンなんですよね。日本では、それほど認知があるわけではないジャスミンのフレグランスに特化したブランドをなぜ立ち上げたのか?さらにそのブランドの名が「クレイジー」という部分に、すごくぶっ飛んでるなと感じました。ちなみに「Crazy Jasmine」というブランド名を付けられたのは向田さんのアイデアですか?
はい、そうです。2023年5月に、ギフトショーに出店するためにブース名をつけないといけなかったのでブランド名を考えました。
――― すぐにCrazy Jasmineがいい!と閃かれたのですか?
いいえ、すぐに決まったのではなく数週間じっくり考えました。候補として、ジャスミン・ジャンキー、ジャスミン・フリークというブランド名が頭に浮かびましたが、最終的にCrazy for Jasmineから、クレイジージャスミン(Crazy Jasmine)になりました。
――― どの名前もぶっ飛んでますね(笑)。ヒントとなったものが何かありますか?
ヒントを頂いたものは二つあります。ひとつは私が欠かさず見ていたドキュメンタリー・バラエティ番組名です。そしてもうひとつは、私の推しのKPOPアーティストのソロデビューの曲名です。
――― すごく興味深いです。ブランド名を命名するプロセスをお聞きして、すごくしっくりきたのですが、向田さんのエックスを拝見していると、推し、つまり応援したくなる!そんな感情が湧きあがってきます。それは告知と、フォローしてくれたら抽選でプレゼント差し上げます的なやり方で、購買層に繋がらないフォロワーさんを集めるのではなく、しっかりとファンになって下さる方を、フォロワーさんとして集めている所が、すごいなと思いました。
えっ、そうなんですか!あまりそこまでは意識していませんでした。ただ、ジャスミンの魅力が皆さんに伝わればいいと思い、私のナマの声が伝わればいいなとだけ思って発信しています。
「お~いお茶」の生みの親、向田さんに影響を与えた師の存在。
――― Crazy Jasmineは、2024年春に、アロマオイルとロールオンフレグランスからスタートしたということですが、フレグランスからスタートしなかったのはなぜですか?
ちゃんとしたフレグランス、つまり雑貨扱いじゃない、肌乗せできるものを作る場合、化粧品として販売するための手続きが必要なのですが、これがとても時間がかかります。さらに言いますと、いくつかの香料会社に依頼して、これだ!というフレグランスを選び出すプロセスにもとても時間を費やしました。
――― そういった流れをほとんど一人で行われたんですね。すごいバイタリティですね。
私の仕事のスタイルは、長らくマーケティング本部にいたので、定年退職されるまでマーケティング本部の本部長だった社三雄(やしろみつお)氏に、最も強い影響を受けていると思います。
「お~いお茶」の生みの親と呼ばれている人です。とにかく博学で、色んなことに少年のような心で好奇心旺盛で、貝や古銭を収集されていたり、歴史・美術、他分野にかけてかなり詳しい人です。ずっと定年まで電車通勤していた人で、清貧を地で行くような、私が心の底から敬愛する師匠です。
私が、出来るだけ店頭に立つようにしているのは、社本部長(当時)が、実際に売り場を見て、お客様と接する現場主義の方だったからです。
――― 社三雄さんと言えば、マーケティングの世界において、リビング・レジェンドと言ってもいい人ですよね。なるほど、向田さんの只者ではない雰囲気は、この方の影響なのですね。私は、向田さんにはじめて伊藤園の本社でお会いした時、私がイメージしていた大都会のビジネス街でバリバリ働く冷たい女性のイメージとは全く違う、どこか自然体で親しみやすく、温かい人だなと感じたのです。
ハハハ、助けてあげたくなる人ってよく言われます。昔、お電話でお話ししていた時に「向田さんて、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康の三人と比べると、徳川家康って感じですね」と仰られたので、なるほどって感心した覚えがあります。
実は私の人生の指針の1つに、徳川家康が旗印とした「厭離穢土欣求浄土」があります。
――― 徳川家康が旗印に掲げた「カルペディエム=今を生きる」的な言葉ですね。向田さんの温かい人柄が、Crazy Jasmineの未曽有の成功劇の原動力だと私は思っています。
恐縮です。私の中では、Crazy Jasmineの成功は、ある一人の伊藤園の女性社員との出会いが大きいと考えています。
「彼女は、私の片腕、いいえ、両腕と呼んでいる人です」
――― 露内若葉さんですね。
はい。私の片腕、いいえ、両腕と呼んでいる人です。
――― 代官山のポップアップでも、開店前の忙しい時間に特別時間を割いて頂き、向田さんと一緒にお話しさせて頂きましたが、颯爽とした、太陽のような明るさを持つ、ただ者ならぬオーラをひしひしと感じる方でした。
その通りです。道を歩いていてすれ違うと、思わず振りかえって二度見してしまうような人ですよね。まさにそのような状況に私が遭遇しました。それは一昨年(2024年)の夏のはじめのことでした。
7月に、渋谷ヒカリエ1階で、Crazy Jasmineがアロマオイルとロールオンフレグランスをテスト販売する7日間のポップアップを行うことが決定しました。このイベントの結果次第で、近い将来、本格的なフレグランス販売へ進めるかどうかが決まる、まさに「運命を左右する一週間」でした。
しかし、ひとつ私の中で大きな課題が残っていました。ともに店頭に立ってくれる仲間がいなかったのです。そんな不安を抱えたまま迎えた、ポップアップ開始のわずか一週間前のある日、本社社屋の廊下ですれ違った女性社員に心を奪われました。
爽やかな雰囲気がまるで〝ジャスミン〟そのもの。一旦通り過ぎたのですが、どうしても気になって、引き返して声を掛けました。『一緒に販売を手伝ってくれませんか?』と。
その女性こそ、露内さんでした。彼女は、大手企業向けECを長年担当してきたプロフェッショナルで、しかも彼女の直属の上司は、私のマーケティング本部時代の仲間。すべてが自然と導かれたように、協力体制が整っていきました。
実は、彼女が本社に来てから4年間、同じビルで働いていたのに、一度も会ったことがなかったのですが、だからこそ、Crazy Jasmineが結んでくれた不思議なご縁だと感じています。
――― 露内さんは、大学時代には水泳の個人メドレーでオリンピックを目指した元アスリートだとお聞きしました。
はい。すごく強い意志を感じる方で、「限界に挑む」ことを怖れない精神力をお持ちなのではないでしょうか。だからこそ、まだ海のものとも山のものともわからない『Crazy Jasmine』プロジェクトに協力してくれることになったのだと思います。
――― 露内さんの存在は、ひとりぼっちの戦いだったCrazy Jasmineに新しい展開をもたらしてくれたのですね?
はい。ひとりで新しいことをするのは、手探りで一歩ずつ進むことなので、「新しいことをはじめる」という言葉の楽しさとは裏腹に、実は孤独で、困難続きで、マイナス思考にも陥りがちです。でも、露内さんという同志ができて、相談する相手ができてから、出来ることが沢山増えてきました。
そして三種のフレグランスを発売したすぐ後の2025年5月に、露内さんは正式にCrazy Jasmineチームの一員となり、全国ポップアップ展開とDtoCの本格運用がいよいよ始まりました。
ちなみにCrazy Jasmineで使用している写真は、会社の写真撮影が得意な同僚や、私自身のiPhoneで撮影したものばかりです。つまり、ブランドの世界観を自分たちの手で育ててきたんです。
――― あのウェブサイトの写真には、そのような背景があるのですね。ブランドの世界観を自分たちの手で育ててきた。Crazy Jasmineが驚異的な人気を勝ち取っている理由のヒントとなるキーワードだと思います。
「一日の売り上げが0円の時もありました」
――― ところでCrazy Jasmineのフレグランスが発売される前の状況を私はほとんど知らないのですが、最初から話題になっていたのですか?
最初は全然話題になりませんでした(笑)。2024年3月に渋谷さくらステージから、つまり、さくら祭りに伊藤園として出店して、その後、ルミネ池袋で初ポップアップを、マーケティング本部の仲間数名に手伝ってもらい行いましたが、かなり苦戦しました。
お客様が集まらないので、エスカレーター前などでムエットを地道に配り続けました。
2024年3月から7月にかけて、7回ポップアップを行ったのですが、フレグランスを発売するまでの2025年3月までの間は、本当に大変でした。
イベントによっては、一日の売り上げが0円の時もありました。
エックスの電撃作戦により、下剋上の連続を起こしていく。
――― そして2025年3月に三種のフレグランスをローンチしてから、どのタイミングで手ごたえを感じたのですか?
一つの転機は、実はまだフレグランスが発売されていない頃に、ポップアップに来て下さったお客様でエックスで香水アカウントを運営されている方が、「今はインスタよりもエックスに力を入れた方が良い」とい教えて下さったことでした。
そしてすぐにエックスも運営するようになり、その後、ある方がエックスで、Crazy Jasmineを取り上げて下さったことから、それがバズり話題になりました。このバズりは、私たちの中で大きな勇気になりました。
――― まさに店頭でお客様のアドバイスを頂き、実行に移す、社三雄イズムですね。実際のところ、私は、Crazy Jasmineの香水業界に対する革命は、エックスの使い方の上手さだと考えています。基本的に香水ブランドのエックスは、どうしても商品やイベントの告知が中心になりがちですが、Crazy Jasmineのエックスは、向田さんの存在が見えてきて、なんか応援したくなるんですよね。
ほんとうにそこはほとんど意識していないのですが、店頭と同じスタンスで、商品を購入して下さったお客様に対しての返信や引用リポストは欠かさないようにしています。
――― その返信と引用リポストのクオリティの高さが、向田さんの凄さだと思うんです。
定型文ではなく、心が伝わるんですよね。だから、自然とCrazy Jasmineを推したくなるんです。今の時代、ただエックスを運営しているだけでは、フォロワーさんはほとんど増えていかないと思うんです。一方で、マニアックなことを書きすぎても、それはそれで増えないですよね。
実は、そこのところも私自身全く意識していなくて、私自身が、香水に対して素人同然なので、色々な香水アカウントを見て、勉強して、自然に交流していくというスタンスなんです。
――― なるほど!Crazy Jasmineのフレグランスの香りの中に身を置いた時、感じた感情について今はっきりしました。“香水香水”しているものではなく、良い意味で、生活の中でずっと感じていたい香りだという感情です。ある意味「まるで飲める香水」だと感じたのです。「素肌で飲み干すようにまとう」という表現が正しいのでしょうか。
おそらく、私のジャスミンの香りに対するアプローチが、香水からではなく、お茶に関わる仕事の中から生まれたことも影響しているのではないでしょうか。
中国出張で見た、BEAST 野獣派から受けた衝撃。
――― 実際にフレグランスの調香を依頼する為に、ジャスミンをもっとよく知るために、中国に出張されたとの事ですが、どのくらいの期間、行かれたのですか?
一週間です。広西チワン族自治区南寧市横県に行きました。それまで私は伊藤園で香りづけしているジャスミンティーのジャスミン・サンバックを実際に香ったことがなかったのでとても感動しました。
最後の一日は上海にある最先端のショッピングモールでBEAST 野獣派を訪問して、花屋と香水屋と雑貨屋が融合したブランディングにびっくりしました。ポップアップで苗を渡したいと思ったのもこの時閃いたアイデアです。

中国の広西チワン族自治区南寧市横県のジャスミンサンバック畑。(向田さん提供)
――― 野獣派(BEAST)とはすごい名前のブランドですね。なるほど、Crazy Jasmineが目指している地平線が見えてきた気がしました。さてCrazy Jasmineが今のような成功を収めるのではないかと感じたのはいつくらいからですか?
フレグランスをローンチしてから半年間のポップアップの売り上げは、思うように伸びず、2025年の10月にはじめて大きな手応えを感じ時は、すごく嬉しかったです。
――― 渋谷ヒカリエのポップアップ辺りから、エックスやインスタなどのSNSを通じて、話題になっていったのでしょうか?
明らかに違う!と感じたのは、2026年1月のスクランブルスクエアのポップアップからです。あと、この頃から、ジャスミンティーのファンの方々も多くお越しいただくようになりました。
この時に、エックスのフォロワーさんが、数日で4000人くらいから1万7千人くらいに増えました。この流れには心の底からびっくりしました。
香水業界の未来地図:アンバサダー店員の導入。
――― アンバサダー店員さんもこの頃から導入されたのですか?
アンバサダー店員は2025年10月のルミネのポップアップから導入しました。2025年8月まで、各地で行われたポップアップでは、伊藤園社内の若手社員を中心とした〝希望者〟が店頭に立ち、Crazy Jasmineの販売を支えてくれていました。
しかし、社員たちはそれぞれ本来の職務を持ち、特に繁忙期に店頭へ立つのはどうしても難しいので、ブランドが成長するにつれ、販売体制を〝想いのある継続的な仲間〟へと広げていく必要性が高まっていました。
そこで私はすでにCrazy Jasmineを愛してくれているお客様に、売場に立っていただけないだろうか?と考えました。すでに使ってくださっているファンの方であれば、作られた言葉ではなく〝自分の言葉で〟ブランドの魅力を伝えられる。その想像は、すぐに現実のプランへと動き出しました。
起用に向けて、SNSのDMを通じてファンの方へ直接連絡を取ることにしました。しかし、ここで難題が持ち上がります。「ファンの方に売場に立っていただく」── それは言葉にすれば簡単ですが、企業として起用するには、規定・基準・手続きなど、クリアしなければならない条件が数多くあったのです。
そこで人事部採用課の担当者にも協力してもらい、ひとつひとつ課題を丁寧に乗り越え、ついに、アンバサダーによる販売が正式に実現したのでした。
〝ブランドを愛しているから〟〝この香りをもっと多くの人に届けたいから〟そんな純粋な想いで立ってくださるアンバサダーの姿は、私たちにとって胸が熱くなるほどの出来事でした。
販売経験がない方でも、自分の好きな香りを紹介する姿はとても自然で、お客様との会話もスムーズに弾みました。むしろその〝気取らない言葉〟が、お客様の心を柔らかく動かしていたのです。こうしてアンバサダーは、Crazy Jasmineの売場に新しい風と、深い説得力をもたらす存在となりました。

ポップアップの露内さんたち(向田さん提供)©2025, Crazy Jasmine

ジャスミンラバーアンバサダーの方々(向田さん提供)©2025, Crazy Jasmine

ジャスミンラバーアンバサダーの方々(向田さん提供)©2025, Crazy Jasmine
――― Crazy Jasmineが、ブームやバズりではなく『現象』である理由がよく分かります。みんなで愛し育てていくブランドなのですね。SNS上で「スタッフさんの想いが伝わった」「説明が心に残った」と話題になった背景には、まさにこうした〝人の力〟があったのですね。
〝心で売る〟つまり香りそのものだけではなく、香りを届ける人の誠実さや情熱が、来店したお客様の心を動かしていったのですね。
はい。だから実は、ブランドというよりもひとつの共感の輪のような気がしてるんです、最近は。〝ジャスミンの魅力を広めるジャスミンの輪〟的な仲間が増えていっている感じがします。
――― 面白いですね。なにかみんなが仲間になっていく物語のようですよね。そう言えば、今年、ジャスミンミントという限定フレグランスを発売されているということなのですが、これはどういったものなのでしょうか?
ジャスミンとミントは相性が良いので、夏にぴったりなアイテムとして出したいと1年前から構想してました。SNS上で名前を投票し、この名前に決定しました。数百本だけ作り、季節限定で販売しました。私は、北見ハッカが大好きなのですが、薄荷が入っているのが特徴です。
Crazy Jasmineの見ている夢
――― 代官山の後で行われた渋谷スクランブルスクエアのポップアップも、すごい行列で、凄かったようですね。ちなみに、新作のフレグランスの予定はございますか?
まだまだジャスミンには種類があるのでリリースしていきたいです。
――― 最後に、Crazy Jasmineの夢を聞かせて下さい。
まずもう一度、中国出張したいと考えています。なぜなら今度は露内さんにもジャスミン畑を体感してもらいたいと思っているからです。実際に自分が関わっているジャスミンの魅力を肌で感じることが出来る場所に行くことはすごく大切なことだと思います。
その上で、私たちの夢は、フランスで展示会を開く事です。その前に、ジャスミンの香水をいくつかテスト販売し、総選挙のようなイベントをしてみたいとも考えています。そしてお客様の声を反映した一本を持って、フランス上陸を果たしたいと考えています。




