『女が階段を上る時』Vol.1|高峰秀子様自身が衣裳を担当した『キモノ映画のバイブル』

高峰秀子
高峰秀子
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女性が最も美しい瞬間。それは女性が階段を上る時。

今の日本人女性の美しさに、ある要素を足していったならば、もう怖いものはないと思わせるもの、それは着物を知ることです。

たとえ着物を着る事がなくても、その和色や和柄の独特なコーディネート、乱れてもなお美しいドレープが生み出す〝世界中の女性をうっとりとさせる衣〟、つまり着物を着用している昭和の女優様の映画を見ていると、美的感覚が磨きこまれてゆきます。

フランス人は、浮世絵に描かれた女性画を見て、その画の中のに存在する、今まで見たことのなかった女性美にひきつけられました。着物とは、正確にファッション定義すると洋装で言うところのドレスです。このことを忘れた日本人女性から失われたものは何だったのでしょうか?

パンデミックを経て、今、日本に世界中の人々が訪れています。特に京都において、着物を着た日本人女性や外国人女性が増えています。それはそれで良いことなのですが、ただ「見せかけキモノ」を着た人々が目につきます。

着物とは、衣です。生地です。そして、姿勢と所作です。これらが三位一体となり、女性の美しさを演出する装いなのです。そんな着物の持つ真実の力を容易に私たちに伝えてくれる作品、それが『女性が階段を上る時』なのです。

ビジネスガールが帰る頃、銀座へプロが出勤してくる。・・・私は階段を上がる時が一番イヤだった。上がってしまえば、その日の風が吹く。

矢代圭子(高峰秀子)の台詞

着物の色気。それは裾からちらりとのぞく足もとにあります。

「もう二度と愛さない!哀しみを貫いて独り生きる女」公開当時のポスター。〝渋い〟大人の物語。

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衣裳担当:高峰秀子様。

「日本の女優には非常に珍しく、人間のニヒリズムってものを強烈に出した人。女の意地を演じることに長けた人」仲代達矢。

まだ20代の頃の仲代達矢。成瀬監督に「つまらんテクニックは使わなくていい。なるたけ静かに演技してね。立ってるだけでいいからね。黒澤君のところでやってるみたいな、ああいう大げさな芝居はしないで」と言われたという。

高峰秀子様と仲代達矢。

女優さんにしても、かつての高峰秀子さんや原節子さんは、プロ意識が高かった。何よりまず台詞がしっかりしている。基礎訓練をちゃんと積んでいるわけです。そしていちばん大事なことですが、自分の美意識を持っている。

仲代達矢

昔の日本映画を見る歓びの一つに、着物を着る事が特別ではなかった時代の女性の〝粋〟を感じ取ることが出来る歓びがあります。画面から感じ取る空気感。とくにその台詞の歯切れのよさ。そこには「失われつつある日本女性の美」があります。

新しいものをスマホをいじくりながら自分に取り入れていくことはオシャレかもしれませんが、〝粋〟ではありません。〝粋〟な女に必要な要素。それは「昔の女性の魅力」を自分の中に取り入れていくことなのです。

共演者としてマネージャー小松を演じた仲代達矢が「美しいだけじゃない、きれいだけじゃない、それから、かわいらしいという要素を削いだ女優」と称え挙げる女優・高峰秀子様(1924-2010)。

ちなみにこの作品の衣裳を担当したのは、秀子様自身でした。一人の女優がそこまで本気で着物と向き合った作品が他にどれだけ存在することでしょう。そういった意味においても、この作品は、〝日本人女性の着物の着こなし〟を知るためのバイブルと言っても過言ではないでしょう。

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昭和の銀座のママ・ルック1

縞模様の着物
  • 江戸好みの縞模様の着物
  • 黒レースのショール
  • 黒レースの手袋
  • ガマ口の黒バッグ

「店の女の子に興味はないね。店の商品に手を出すようじゃ、銀座じゃ一流のマネージャーになれないよ」小松マネージャー(仲代達矢)

和装の高峰秀子様と、洋装の団令子様。

着物に、レースのショールと手袋の組み合わせ。隣は菅井きん。

かつて「水の都」と呼ばれた昭和の銀座。今は亡き三吉橋に佇む二人。

レースで揃えたショールと手袋がよく分かる写真。

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まだ生まれていない『昭和の日本』を愛でる。

銀座八丁目あたりの『夜の銀座』を着物姿で出勤する秀子様が美しい。

後ろから見た帯の美しさ。

21世紀に生きることの特権の一つは、自分が生まれていなかった時代の空気を『高画質』で感じることが出来ることです。特にこの『女が階段を上る時』には、まるで自分自身が、東京オリンピック前の高度経済成長の活気溢れる、大人の夜の社交場である『銀座』を追体験しているような気分になります。

何よりも贅沢なのは、黛敏郎のムーディーな音楽が流れているところです。

その着物素敵・・・入って来た時、あっと思ったわ。ママって本当に縞が似合うのね。

淡路恵子様が演じるユリという女は、元々圭子のお店でNo.1だったホステスで、お客をほとんど引っ張って独立した、圭子にとって因縁の女だ。そんな彼女の賑やかな新店に行き、投げかけられたのがこの言葉です。

そして、その後のセリフがまた大人で、とてもクールです。

ユリ「じゃあ、私が車で(あなたのお店まで)お送りするわ。」

圭子「けっこう、歩いた方が早いわ。銀座は。」

ジャジーな音楽と、この空気感は、今の東京の夜の世界では、感じることの出来ない、伝統芸能とさえ言えます。

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昭和の銀座のママ・ルック2

バイカラーの着物
  • 無地と縞を片身替わりのように仕立てた着物
  • 金糸の帯

圭子さんその着物少し地味じゃない?もう少し派手なの作ったら。

オーナー夫人に言われる。

着物姿で近代的な銀座の街並みを歩く高峰秀子様のカッコよさ。

中村玉緒の父、中村鴈治郎登場。この関西弁が実にイヤらしくて良い。

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本作を象徴する着物=バイカラー・キモノ。

銀座の並木通り。今はラグジュアリー・ブランドが立ち並ぶストリートです。

この着物、見れば見るほど魅力的です。

私は新しい店に移った。スズカケの葉は残り少なくなっていた。

矢代圭子(高峰秀子)

アパートへ帰ると、殺して飲んでいた酒の酔いがいっぺんに出る。

同上

本作の高峰秀子様の台詞は、どの台詞も、音の調べが美しく、とても魅力的なのですが、その極めつけが、この台詞です。

「ぎゅっと奥歯を噛み締めてね。だからほら長い間にこんなに減っちゃったわ。」

そういって、団令子様に向かって口をあ~ンとあける時の秀子様のかわいらしさ。桃井かおり様や秋吉久美子様の先駆けとも言えるけだるさを感じさせていた空気感が、一転するアイドル級のかわいらしさのギャップ。秀子様の魅力とは、どんな役柄さえも自分のものにしてしまう魅力があるのです。

なんだか血が汚れるようで嫌じゃない。・・・それにやたらそういうことがあると、女って魅力がなくなっちゃうじゃない?

同上

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昭和の銀座のママ・ルック3

ボーダーの着物
  • へちま衿(ショールカラー)の毛皮の和装ショート丈コート
  • ボーダーの着物

11時半から12時、この界隈で働く1万5~6000の女性がドッと家路に就く。車で帰るのが一流。電車で帰るのが二流。客とどこかへしけこむのが最低だ。

矢代圭子(高峰秀子)の台詞

この町で働く女たちは、みんな生きることに必死だった。私も負けてはいられなかった。

同上

極めて日本人的なのっぺりしたルックス。しかし、彼女には、明確に欧米人やハーフの美女には出せない美が存在します。

このショート丈の毛皮の和装コートが素敵。

昭和の銀座に存在した10円寿司。

中村玉緒の父であり勝新太郎が最も恐れた男・中村雁二郎。

作品データ

作品名:女が階段を上る時 (1960)
監督:成瀬巳喜男
衣装:高峰秀子
出演者:高峰秀子/森雅之/仲代達矢/淡路恵子/団令子