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フラカ|はじまりからおわりまで官能的な『チューベローズの女王』

その他のブランド
© 2026 Robert Piguet
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フラカ

原名:Fracas
種類:パルファム
ブランド:ロベール・ピゲ
調香師:ジェルメーヌ・セリエ
発表年:1948年
対象性別:女性
価格:不明

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ディオール、ジバンシィ、バルマンにチャンスを与えた男

ロバート・ピゲと助手をつとめるクリスチャン・ディオール。

ロベール・ピゲに新しいショーのプレゼンテーションをするクリスチャン・ディオール。

ドリアン・リーがロベール・ピゲのカクテルドレスを着用し、リチャード・アヴェドンによってパリのヘレナ・ルビンスタインのアパートで撮影された写真。ハーパーズ バザー、1949年10月号。

ハーパーズ バザー、1946年6月号。

ヴォーグ、1949年3月号

クリスチャン・ディオールに、最初のチャンスを与えたファッション・デザイナーがいました。まだ30代前半だった1937年に、〝ファッションのプリンセス〟と呼ばれるこの人物に抜擢され、彼のメゾンで2年間専任デザイナーとして活躍したことにより、後のディオールのニュールックの青写真は出来上がったのでした。その人の名をロベール・ピゲ(1898-1953)と申します。

彼こそがピエール・バルマンの才能を最初に見抜いた人であり、ユベール・ド・ジバンシィマルク・ボアンにも最初のチャンスを与えた人でした。後にディオールのファッションイラストで人気を得るルネ・グリュオーも、戦後彼との仕事で、キャリアの土台を築いてゆきました。

ピゲは、真の優雅さはシンプルさの中にのみ宿ることを知っており、それを私に教えてくれました。彼には本当に感謝しています。何よりもまず、私がまだ経験の浅い頃にもかかわらず、私を信頼してくれたことに感謝しています。

クリスチャン・ディオール

ピゲのスタイルは、控えめで、シンプル、そして洗練されており、まさに真の良識そのものでした。

ユベール・ド・ジバンシィ

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1948年、〝チューベローズの女王〟フラカの戴冠式

© 2026 Robert Piguet

もし私が香水を作るなら、1つではなく、少なくとも2つの香水を作るだろう。女性にはそれぞれ2つの香水が必要だ。1つは、実質的に男性的な生活を送る昼間用、もう一つは、誘惑しなければならない夜用だ。

前者は、かなりドライで、バーレー葉のタバコ、上質な革、贅沢な木材、さらに紅茶、そしてシャンゼリゼ通りの栗の木々の間を吹き抜ける朝の風が放つ、あの何とも言えない香りを連想させるものにしたい。後者は、陶酔感を誘い、極めて女性的で、オリエンタル的ではないものの温かみがあり、ある種の恐るべき微笑みのように、危険な約束に秘めた香りにしようと努めるだろう。

ロベール・ピゲ

そんな20世紀の第二次世界大戦及び大戦後の新時代のファッション業界におけるチャンスメーカーだったロベール・ピゲ(彼自身、ポール・ポワレの下で1922年から一年間修業し、1933年に自身のブランドを創業しました)は、戦争中の1943年にパルファン・ロベール・ピゲを設立しました。

そして当時としては非常に珍しかった女性調香師のジェルメーヌ・セリエ(1909-1976)を起用し、1944年にブランド初の香水として、世界初のレザーシプレの香り「バンディ」を誕生させました(1947年に彼女は史上初めての本格的なグリーン香水「ヴァン ヴェール」を生み出しています)。

さらに、1948年に、20世紀ではじめてチューベローズが主役として脚光を浴びた香り「フラカ」が、セリエの調香により誕生し、ピゲの最も成功した香水となりました。

〝フラカ〟とは、フランス語で〝喧噪、大音響〟を意味します。チューベローズの香りは、ユリに近いのですが、魅惑的なカンファーのようなニュアンスを帯びているのが特徴です。

1980年代前半に「フラカ」は廃盤となりました。その後、アメリカの企業により、ピゲの香水は蘇ることになります。1996年にピエール・ネグリンにより復刻され、2008年にはオーレリアン・ギシャールにより再調香されました。

1951年7月にロベール・ピゲは、元々病弱だったこともあり、ファッションハウスを閉め、引退しました。ドレスの方もエディット・ピアフなど多くの著名人に愛されていました。

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ジェルメーヌ・セリエという女性調香師

© 2026 Robert Piguet

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香水界には伝説的な伝説的な香水があり、伝説的な調香師がおり、そして人々を夢中にさせる香水がある。「フラカ」はそのすべてを兼ね備えており、これは、想像以上に稀なハットトリックである。

さらに驚くべきことに、「フラカ」はチューベローズという小さな白い花(ローズとは無関係で、その名は、この植物の塊茎状の根系を表すラテン語に由来する)をコンセプトに作られている。チューベローズは強烈な香りを放つ一方で、調香師の間では扱いが難しい原料として悪名高い。おそらく、だからこそ「フラカ」の調香師であるジェルメーヌ・セリエはその難題を見事に成し遂げたのだろう。

チャンドラー・バール(ニューヨーク・タイムス、2008年)

「フラカ」が先駆的な香りである理由は、ボルドー生まれの女性調香師の性格を反映している為と言えます。当時ルール・ベルトラン・デュポン社に在籍し、チーフ・パフューマーのジャン・カールとライバル関係にあったジェルメーヌ・セリエは、あらゆる意味で先駆者でした。

科学者でありながら、商売も理解し、さらに、嗅覚という媒体で創作活動を行う芸術家であり、ジャン・コクトーなどの芸術家と深い親交を結んでいました。

外見はファッション・モデルのように背が高く、大きな青い瞳を持つ、とても優雅でスタイリッシュな目を惹くキャサリン・ヘプバーンに似た女性でした。しかし、機知に富み、彼女の口から出る言葉は、どんなに華やかな言葉遣いも下品さを失わせるほどで、自由奔放で、ヘビースモーカーで、物怖じせず率直な生まれながらの芸術家肌の人でした。

ルール社からキャリアをスタートさせたジャック・ポルジュは、セリエが時折グラースを訪れていたことを覚えていました。

彼女は私たちのオフィスにやって来て、ただ気楽に雑談をしたり、タバコを吸ったりしていました。ある時、工場から彼女に電話がかかってきました。『セリエさん、あなたの調合レシピの総量が足りていません。バランスを取るために何を入れたらいいでしょうか?』彼女は『好きなものを入れて!』と答えて、受話器を乱暴にバタンと置いた。

セリエは、時には、まるで画家が筆の代わりに指を使うように、手で原料を混ぜ合わせたりもしました。それはフォーヴィスム(野獣派)と抽象主義の扉を香水の世界に向けて開きました。このことにより、非常に強いコントラストを持つ異なる色合いや強さを組み合わせていく、合成香料を駆使した、不協和音の美学を創造しました。

その妥協のない姿勢は、あるファッション・ショーのランウェイを歩くモデルたちの下着を手に入れ、こっそりと匂いを嗅いで「最高の女らしさとは何か」を捉えようとしたほどでした。そんな彼女にピゲは、基本的なアイデアを与えたあとは、自由に創作させました。

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『双頭の鷲』のエドウィジュ・フィエールへの愛の告白の香り

エドウィジュ・フィエール

 

「フラカ」は、香水でまだすべてを表現できた芸術的で豊かな時代の最後の作品です。マーケティングの束縛がないので、好きなように自分を表現できました。

ピエール・ブルドン

1947年に公開された、ジャン・コクトーが監督した映画『双頭の鷲』。セリエは、この作品の中で絶世の美男子ジャン・マレーの向こうを張る、大人の色気がムンムンする王妃を演じた、フランスの女優エドウィジュ・フィエール(1907-1998)への愛の告白として、この女優にぴったりな香りとして「フラカ」を調香しました。セリエは女性に対して恋愛感情を持つ女性だったと言われています。

彼女は、天然香料の品質に非常にこだわる人で、他の調香師が臆病におそるおそる使う香料の魅力を引き出すことを好んでいました。この作品において、アンフルラージュで抽出したチューベローズの精油とチューベローズコンクリートを使用しました。

処方の3分の1以上は、チューベローズ58というルール社のベースで構成されており、ピーチを思わせるγ-ウンデカラクトン(C-14)やココナッツを思わせるγ-ノナラクトン(C-18)などの素材から独特の脂肪分のあるフルーティーな香りがします。

「フラカ」の秘密は、ジェルメーヌ・セリエのスタイルの力強さとチューベローズの力強さの「信じられないほど複雑」な絶妙なバランスにあるのかもしれない。

セリエは、インド産チューベローズ・アブソリュートをたっぷりと盛り込み、それによって圧倒的な力強さと「シヤージュ」(香りの軌跡)を生み出した。優れた調香師は皆そうであるように、彼女もまたイリュージョニストだった。よりリアルで、より生々しいチューベローズの香り(この花は、インドールと呼ばれる重い分子のために脇の下や生肉、腐敗臭がします。ジャスミンも同様にインドールを多く含んでいる)を実現するために、彼女は大量のチュニジア産オレンジブロッサム・アブソリュートを加え、さらに天文学的に高価なフランス産ジャスミンとイタリア産イリスルートバターを加えました。

そのうえ、天然のヴァイオレットリーフを加えて、甘く重厚な香りに爽やかで鋭く、みずみずしいグリーンのニュアンスを与え、アイリスでウッディな深み、合成シベット(洗っていない建設作業員の匂い)で力強さ、合成香料C18で滑らかでミルキーな柔らかなトロピカルな質感、そして発泡性を与えるためにメチルアントラニレートで活気を加えました。その結果、シグネチャーとなる香り、肌への持続性、そして拡散性――これら3つすべてが驚くべきものとなった。またしてもハットトリックです。

チャンドラー・バール(ニューヨーク・タイムス、2008年)

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はじまりからおわりまで官能のチューベローズによろめいて。

© 2026 Robert Piguet

© 2026 Robert Piguet

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「フラカ」は香水界におけるチューベローズの代表的な存在であり、それはセックスしたすぐ後の、とても熱い肉体の匂いを彷彿とさせます。他の香水も官能的な要素をほのめかしていることはありますが、「フラカ」は最初から最後まで官能そのものです。

ロジャ・ダヴ

ローズは簡単だが、ジャスミンはより難しく、チューベローズはもっともっと難しいと断言します。チューベローズ・アブソリュートは花の香りがしません。代わりに、それは酩酊感があり、ワックス状で攻撃的であり、花の繊細さを表現するために溶液で処理する必要があります。

「フラカ」において、セリエは、チューベローズを他の成分でバランスよくすることで、非常に丸みがあり、柔らかく、落ち着いた香りで作り上げています。バランスは完璧で、余分なものは一切ありません。わずか20種類強の成分で作られています。彼女の処方は常に非常に簡潔です。

パトリシア・ド・ニコライ

漆黒のボトルから飛び出す〝よろめきの白〟。この香りを身にまとう女性の肌に〝理想の白〟を生み出してくれます。吸いつきたくなるようなヌードな肌に重ね合わせられた汚れのない白、こんな肌を持つ女性に男性が直面したら、どのような衝動に突き動かされるものでしょう?

まだチョモランマの頂に人類が到達したことがなかった1948年に、その前人未到の頂に匹敵する、難攻不落の魅惑の花の香りの登頂に挑んだ女性調香師がいました。彼女が生み出したチューベローズの香りは、日本では手に入らないのですが、欧米世界においては、チューベローズ香水の不滅の聖杯して、今も根強く愛されています。

そんな「フラカ」は、遠くからチョモランマや富士山の全景を視野に捉えた瞬間の感動的なチューベローズの息吹からはじまります。ファンファーレのようにベルガモットとマンダリン・オレンジが高らかにシトラスシャワーを鳴り響かせる中、ジューシーなピーチとオレンジ・ブロッサムと共に、チューベローズはふくよかな香りを広がらせてゆきます。それはまるでコレットが「若い女性の乳首の香り」と喩えたようなそんなチューベローズのフレッシュな香りに包まれてゆきます。

この香りの魅力は、最高峰の山の麓に到達した時のように、ふいに花の美しさよりも、五感を刺激するグリーンノートの広がりと、その中からヒヤシンスと鈴蘭、水仙、カーネーションが、ピリっしたハーバルなスパイシーさと共に、静やかに花々を開花させていく瞬間にあります。いよいよ何かがはじまる〝予感〟がこの香りのミドルに存在するのです。

つまりはどこまでもドラマティックな空気にめまいさえも覚えてしまうのが、この香りを寵愛する人と嫌悪する人を生み出す理由なのでしょう。

そして女神が光臨するのです。ジャスミン、ガーデニア、オスマンサス、ローズなどの花々を従え、衣装替えした甘やかなチューベローズが再び到来するのです。まるで摘みたての花束に囲まれ、世界はチューベローズのためにあると言わんばかりに、ムスク、サンダルウッド、アンバー、オークモス、ベチバー、シダーの喝采を浴び、その名の示すとおりに、際限のないゴージャスな、魅惑的でくすぶるようなバルサミック・クリーミーな輝きで着用者の素肌と心を満たしてゆきます。

花々の中に存在するインドールが、ここまで潔く、その存在を感じさせる香りはなかなか存在しません。インドールという腐敗していく果実と花を思わせ刺激臭は、あらゆるものの生命に宿命づけられている土にかえることを予感させてくれます。この死の気配があるからこそ、ジョルジュ・バタイユ風に言うなら、この香りには『禁断の媚薬』のムードが存在するのです。

「フラカ」のチューベローズの魅力は、朽ち果てる寸前の、もっとも生き生きと花の香りを発散させていく、生命の謳歌と、背後に迫る死神の予感を同時に感じさせられるところにあります。

普段、ナチュラルなメイクで、その楚々とした女性美を輝かせている女性が、フルメイクで、ほれぼれするような美貌を、スティレットヒールやミニワンピでさらに引き立たせ、自信と魅力を引き出し、なまめかしく誇示していくような、抗し難い魅力で包み込んでくれる〝見えないヌード〟効果を生み出してくれる香りです。

つまりは、この香りを身に纏っている美女に対して、男性が取る反応は、まぶしすぎて直視出来ないということです(ある意味、世界でもっともモテない香水とも言えます)。偉大なる誘惑者の神秘のオーラを感じさせながらも、同時に、その中に身を包み込みたくなるような、力強さと優しさを同時に感じさせる、サンクチュアリのような香りも感じさせます。

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マドンナとマリリン・モンローとブリジット・バルドーが愛した香り

イザベル・ユーペル、2012年 ©Robert Piguet

イザベル・ユーペル、2012年 ©Robert Piguet

イザベル・ユーペル

「フラカ」の神秘的なオーラは、この香りを知り愛するすべての人々の間に、ある種の共犯関係を生み出します。自然でありながら洗練され、致命的でありながら母性的な香り。

まさに唯一無二で、独特のオーラに包み込んでくれる真の味方であり、常に私に寄り添う存在である。

イザベル・ユーペル

この香りを愛している現代の著名人の代表格は、マドンナイザベル・ユーペル(1953-、『沈黙の女/ロウフィールド館の惨劇』と『エル ELLE』でセザール賞主演女優賞、『ヴィオレット・ノジエール』と『ピアニスト』でカンヌ国際映画祭女優賞、『主婦マリーがしたこと』と『沈黙の女/ロウフィールド館の惨劇』でヴェネツィア国際映画祭女優賞を受賞しているフランスの大女優)でしょう。

かつては、マリリン・モンロー(No.5をつけていない時はこの香りを付けていた)、リタ・ヘイワースエヴァ・ペロンブリジット・バルドーなど蒼々たるレジェンドが愛用してきた香水です。

ジョン・カサヴェテスの名画『オープニング・ナイト』(1977)でジーナ・ローランズ扮する主演の舞台女優マートルの楽屋に「フラカ」が置いてあります。

ルカ・トゥリンは『世界香水ガイド』で、「バター様 チューベローズ」と呼び、「ある友人が、フェラーリはどうすればあんなゴージャスな赤になるのか説明してくれたことがある。まず全体をシルバーに塗り、6層の赤を重ね、最後に透明ピンクのニス塗りをするそうだ。ジェルメーヌ セリエが聞いたらうなずくだろう」

「彼女の最高傑作であるフラカは80年代のわびしい時期を経て、アメリカの会社から蘇った。セリエの作品にはつきものの今では存在しないベースがいくつかあったが(→バンディ)、できるだけオリジナルの品質に近づくよう整えられた。フラカをみごとにしているのは、トップまでのバターのようなすばらしいノートだ。それはカモミールと、ブレッドのようなアイリスタッチの素敵な残香のおかげである。ピンクとシルバー、その間にはチューベローズの赤がある」と5つ星(5段階評価)の評価をつけています。

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香水データ

香水名:フラカ
原名:Fracas
種類:パルファム
ブランド:ロベール・ピゲ
調香師:ジェルメーヌ・セリエ
発表年:1948年
対象性別:女性
価格:不明


トップノート:ピーチ、チュニジア産オレンジブロッサム・アブソリュート、ヒヤシンス、グリーン・リーブス、マンダリン・オレンジ、ベルガモット
ミドルノート:インド産チューベローズ・アブソリュート、フランス産ジャスミン、ガーデニア、オスマンサス、水仙、鈴蘭、カーネーション、ホワイト・アイリス、ヴァイオレット、コリアンダー、ゼラニウム、ローズ
ラストノート:ムスク、サンダルウッド、アンバー、オークモス、ベチバー、シダー、ベンゾイン