オピウム プールオム
原名:Opium Pour Homme
種類:オード・トワレ
ブランド:イヴ・サンローラン
調香師:ジャック・キャヴァリエ
発表年:1995年
対象性別:男性
価格:100ml/10,500円
イヴの季節。男が男を愛する季節。
1977年にイヴ・サンローランより発売された「オピウム」は、その名前の持つ意味=阿片と、東洋の神秘を身に纏うというコンセプトが結びつき、さらにその漆塗りのボトルに黒のタッセルのついたデザインにより、〝耽美的なイヴの世界〟を生み出したことにより空前絶後の大ヒットとなりました。
その「オピウム」の男性版として、1995年に発売されたのが「オピウム プールオム」です。そのコンセプトは、西洋の男性が、東洋を訪れ、今まで自分が知らなかった世界にのめり込んで行くという背徳的なものでした。世界ではじめてガランガルが使用された香りは、ジャック・キャヴァリエにより調香されました。
「オピウム」と同じくピエール・ディナンによるボトルデザインは、竹をモチーフにしたものですが、日本では発売されなかったオード・パルファムのボトル(かなりの重量感)がとても魅力的です。
史上初めて二酸化炭素で抽出したジンジャー精油が使用された香り
ジャック・キャヴァリエは、この香りにおいて、史上初めて二酸化炭素で抽出したジンジャーを使用しました。それは正確には、トムヤムクンやグリーンカレーで使われる、すーっと爽やかで奥行きのある香り立ちが特徴のショウガ科のガランガルです。
1963年にクルト・ゾセル(Kurt Zosel)によって、コーヒーからカフェインを抽出するために発明された超臨界二酸化炭素抽出法(超臨界CO2抽出法)を香料の抽出に活用できないかと、1993年から94年にかけキャヴァリエは、アルベルト・モリヤスと共同研究に励んでいました(二人ともフィルメニッヒ)。
この抽出方法のすごい所は、二酸化炭素が唯一気体でも液体でもない、両方の性質を奇跡的に持つ瞬間となる温度が31℃で、圧力が75バールの状態=超臨界流体の状態を生み出すことにより、芳香成分を抽出する所にあります。
そのため、溶剤由来の不純物も含まず、低温かつ非酸化で処理できるため、芳香成分が最も理想的な状態で抽出されます。ただし、この抽出法は、冷却と加圧を行う必要があるため装置が大きく、設備投資に莫大なお金がかかるため、精油の価格も高くなってしまいます。
かくして二人はピンクペッパーの精油の二酸化炭素抽出に成功し、モリヤスはエスティ・ローダーの「プレジャーズ」(1995)で使用したのでした。一方、キャヴァリエは、この香りを調香するために、二酸化炭素抽出したガランガルの精油を使用したのでした。そして、キャヴァリエははじめて二酸化炭素で抽出した香料を使用したのでした。
ちなみにアルベルト・モリヤスがこのガランガルを調香にはじめて使用したのは、2001年、ブルガリの「ブルガリ ブルー プール オム」においてでした。
東洋に魅せられた美しい西洋の男たちの〝阿片〟
竹をモチーフにしたボトルデザインが特徴的なこの〝バンブー・オピウム〟は、〝オピウム=阿片〟という名の通り〝東洋に魅せられた美しい西洋の男たち〟の香りです。
美しい西洋の美女が、彩り豊かなキモノガウンを素肌の上に羽織る、そんなグラマラスなムードをそのまま美しい男たちが引き継いでいくように…この香りは、酔わせるブラックカラントに三種類のスパイス(スターアニス、ガランガル、花椒)が、甘くて苦いシャンパンを肌に降り注がせるようにはじまります。
暗闇の一室の中で、日常の感覚をすべて奪われ、そこに蠢く美しきもの(ガランガルの煌き)の息遣いを感じながら、やがて接触し、一体化していく期待感に胸を膨らませている、そんなダークでミステリアスでグラマラスなはじまりです。
すぐにトルーバルサムが果実とスパイスの毒気を抜いて、催眠をかけてゆくように、バルサミックな甘やかさを広がらせてゆきます。
やがて、アップルパイのようなシナモンの芳香が、暗黒の一室に静かにともす灯りのように広がってゆき、その美しきものの正体を明らかにしてゆくのです。そして、酸味の効いたブラックカラントとバニラ、シダーが滑らかにクリーミーに溶け合い、甘く温かいパウダリーな恍惚感で全身を満たしてくれるのです。
干されていた頃のルパート・エヴェレットを抜擢!
1996年の広告キャンペーンにルパート・エヴェレット(1959-)が起用されました。イギリスの上流階級出身の俳優で、1983年に『アナザー・カントリー』によりスターの仲間入りを果たしたのですが、1989年にゲイであることをカミングアウトし、仕事を干された人です。
そんな時期にYSLが彼を起用したことに意味があります。一方、同時期の「オピウム」のキャンペーン・モデルには、リンダ・エヴァンジェリスタが起用されていました。
ルカ・トゥリンは『世界香水ガイド』で、「この香水は「アザロオム」風のアロマティック・フゼアであり、調香師ジャック・キャヴァリエが再び手を加えた。彼がきちんと肉づけしていればよい製品にしあがっていたのだろうが、とにかく痩せ過ぎである。」と2つ星(5段階評価)の評価をつけています。
香水データ
香水名:オピウム プールオム
原名:Opium Pour Homme
種類:オード・トワレ(現在廃盤)
ブランド:イヴ・サンローラン
調香師:ジャック・キャヴァリエ
発表年:1995年
対象性別:男性
価格:100ml/10,500円
トップノート:スターアニス、ブラックカラント
ミドルノート:ガランガル、花椒
ラストノート:バーボンバニラ、トルーバルサム、シダー