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【ドルセー】あなたの唇で E.Q.(ドミニク・ロピオン)

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©D'Orsay
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あなたの唇で E.Q.

原名:Sur tes levres. E.Q.
種類:オード・パルファム
ブランド:ドルセー
調香師:ドミニク・ロピオン
発表年:2023年
対象性別:ユニセックス
価格:10ml/11,550円、50ml/23,650円、90ml/32,450円
公式ホームページ:ドルセー

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二種類のアイリスで生み出す、会いたいけど会えない香り。

©D’Orsay

ダンディズムという言葉が英国で生まれたのは18世紀後半から19世紀前半にかけてでした。そして、この言葉を代表する二人の人物がいました。ボー・ブランメルアルフレッド・ドルセー伯爵です。彼らは現代でいう所の、男性のスタイルアイコンであり、ファッショニスタの先駆的存在でした。

ブランメルは香水を一切愛用しませんでした。一方、ドルセー伯爵(1801-1852)は香水を愛し、1830年には愛する女性マルグリト・ブレッシントンのために「エチケットブルー」という香りを生み出すほどでした。

そんなドルセーの香水に対する愛をブランディングへと結びつけたのが1908年に創業された「D’ORSAY/ドルセー」でした。第一次世界大戦後に人気香水ブランドとして急浮上し、1920年代には、パリのラ・ペ通りやニューヨークの5番街にも店舗を出し、1926年から1933年にかけてアンリ・ロベール(1899-1987)はドルセーの専属調香師として活躍しました。彼はのちに二代目シャネルの専属調香師(1953-1978)になりました。

1982年にドルセーはブランドとして衰退期を迎え、2015年に現在の体制でリローンチされ、2019年6月にパリ7区に旗艦店をオープンしました。そして、2020年12月20日に2号店として青山にオープンし、新型コロナウイルスが蔓延する最悪のタイミングであるにも関わらず、フレグランス愛好家の心を捉えて離さない〝香りの聖地〟として定着し今に至ります。

ドルセーから2023年に発売された「あなたの唇で E.Q.」は、リブランディング以降クリエイティブ・ディレクターもつとめるオーナーのアメリー・フインが、はじめて世界的な調香師ドミニク・ロピオンを招聘し生み出された香りでした。

ちなみにドルセーのフレグランスの名前は〝手がかりとなるフレーズと、正体の明かされないある人物のイニシャル〟から命名されています。そしてすべてのフレグランスは、性別を問わず、恋人同士で共有されることを強く望んでいます。

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ドミニク・ロピオンのお言葉

ドミニク・ロピオン ©D’Orsay

E.Q.の香りで私は、唇を他人に委ねるこの信じられないほどの感覚を表現したいと思いました。そのため、私はムスクのフローラルな香りを選ぶことにしました。

そしてミドルノートでは、アイリスとジャスミンが互いを引き立て合い、くちづけの主人公のように抱き合います。ジャスミンが動物的な情熱をもたらし、アイリスがシルキーでパウダリーなノートでそれを包み込み、なだめます。

くちづけの前の瞬間のスリルを表現するために、私は2つの非常に美しいLMRの特性香料を使用しました。ピンクベリーエキス(ピンクペッパー)のフレッシュでほんのりレモンのようなノートと、ノートの最後まで残るアンブレットの温かくパウダリーなノートのコントラストをうまく利用しました。

ベースには、活気に満ちたウッディとアンバーノートのトリオ (カシュメラン、パチョリ、アンバーモア) が、ノートの官能性を強調し、交わしたくちづけの記憶のような強烈で中毒性のある余韻を残します。

アイリスとアンブレットシードを使用したのは、私が大好きな最高級のLMR品質の崇高な天然成分だからです。これらはすぐに香りに洗練と上品さをもたらします。

私はアイリスの2つの性質を選びました。それは、調香師のパレットの真の宝であるコンクリートです。フローラルで非常にパウダリーなこの香りは、化粧品を思わせるヴァイオレットのような繊細な仕上がりを加え、くちづけの痕跡を残す口紅の香りを彷彿とさせます。

またアイリスの樹脂質を使用して、くちづけの甘い記憶を彷彿とさせる、わずかにチョコレートのような効果を生み出しました。ベースノートでは、アンブレットが温かく官能的でパウダリーな側面を放ちます。

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二人の匂いが生まれる〝ふたつがひとつになる香り〟

©D’Orsay

ひとつのフレグランスを生み出すために、クリエイティヴ・ディレクターの力量、もしくは調香師との相性がどれほど左右するかということを、このブランドほど教えてくれることはありません。

はじまりから人生の最も美しかった瞬間が、蘇るような、うっとりとふんわりとしたパウダリーなアイリスとアンブレットの心地よい調べ、ここ最近開けることはなかった心の扉を開けていくような、心が洗われていくようなすべりだしでこの香りははじまります。

極めてしづやかなはじまりなのですが、遠くから聞こえてくる歓喜の声のようなピンクペッパーのほのかなアクセントにより、このしづやかさが、ただ静かなのではなく、ロマンスとドラマを感じさせる、それ自体に物語があるのではなく、物語が生まれてくるような香りが満ち広がっていくのです。

スプレーを吹きかけ一分も待つ必要なく、この作品のドミニク・ロピオンは、只者ではないクリエイティブ・ディレクターと出会い武者震いしているような、まさに、超一流の監督の下で、のびのびと演技に集中する名俳優のような、生き生きとしたクリエイションを感じさせるはじまります。

ちなみに、このアイリスは、IFF傘下のラボラトリー・モニーク・レミーによる、フランス産アイリス・パリダとイリス・ゲルマニカを二種類の抽出法で抽出したものが使用されています。ひとつは水蒸気蒸留法によるイリスコンクリート=イリスバターで、もうひとつが溶剤抽出法によるイリスレジノイドです。

まるで蜃気楼のように美しいムスキーなアイリスは、奪い奪われる唇の感触を、ジャスミンとカシュメランに身を委ねるように受け止めていくのです。どこか失われた口紅の匂いに、なつかしさよりもとまどいを覚えるように、胸を焦がしていくのです。

この香りの美しさは、どうやら、会いたいけど会えない香りなのでしょう。失われた愛の記憶(=失われた温かい抱擁)を素肌が思い出すように、叶わなかった愛のバラードを繰り返し聴きたくなるように、浴びたくなる、白い雪のような失われた唇が心に降り続いてゆくのです。

だからこそ、最後のパチョリとアンバーがアイリスに溶け込む余韻が、孤独に頬を寄せ合っていた二人が、遂に最後の愛を確信し、唇と唇をはじめて触れ合わせるように、香りとひとつになる余韻に満たされていくのです。カップルで一緒に身に纏うと、香りは立ちどころに素肌にとけこみ、二人の匂いが生まれる〝ふたつがひとつになる香り〟とも言えます。

改めて使用されている香料の凄さにびっくりします。二酸化炭素抽出法によるピンクペッパーCO2 LMR、アンブレットアブソリュート LMR、アイリスコンクリート LMR、アイリスレジノイド LMR、パチョリエッセンス LMR、カシュメラン®、アンバーモア®。
最後に、ドミニク・ロピオンにとっての「至上のくちづけとは?」という質問に対する答えが、この香りの根底に流れるイメージを伝えてくれることでしょう。

神話や文学に登場する壮大なラブストーリーは、多くの場合、運命づけられた2人の恋人が愛の物語を生きることができず、死によってのみ結ばれるという悲劇的な結末を迎えます。しかし、悲劇的な結末を迎えたにもかかわらず、これらの情熱的なラブストーリーは、おとぎ話のハッピーエンドよりも私にとって感動的です。

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香水データ

香水名:あなたの唇で E.Q.
原名:Sur tes levres. E.Q.
種類:オード・パルファム
ブランド:ドルセー
調香師:ドミニク・ロピオン
発表年:2023年
対象性別:ユニセックス
価格:10ml/11,550円、50ml/23,650円、90ml/32,450円
公式ホームページ:ドルセー


トップノート:ピンクベリーエクストラクト、アンバーアブソリュート
ミドルノート:ジャスミンアコード、アイリスコンクリート
ラストノート:パチョリエッセンス、カシュメラン