スプリングフラワー
原名:Spring Flower
種類:オード・パルファム
ブランド:クリード
調香師:オリビエ・クリード、ピエール・ブルドン
発表年:1996年
対象性別:女性
価格:30ml /24,640円、75ml /39,380円
オードリー・ヘプバーンのクリード伝説
オードリー・ヘプバーンのために生み出されたジバンシィの香水「ランテルディ」以上に、謎が多い香り、それがオードリー・ヘプバーンが1951年にクリードに依頼して作らせたという伝説がある「スプリングフラワー」です。
なによりも不思議なのは、1760年に創業されたフランスの香水ブランド、クリードに、1951年当時無名だったオードリー・ヘプバーンが高価なオーダーメイド香水を作ってもらうことが出来たのかという疑問です。
「スプリングフラワー」を知るには、まずはこの疑問に対する考察をはじめなければなりません。まずこの年、オードリーは、数分の登場シーンしかない煙草売りの娘により、はじめての映画出演を『素晴らしき遺産』で果たしました。
さらに同年、映画出演第二弾『若妻物語』でタイピストの小さな役で出演するのですが、独裁的な監督のヘンリー・キャスと衝突し「私は撮影中の半分は泣いてばかりいた」と回想するほど散々な目にあいました。少なくともこの頃のオードリーには、オーダーメイド香水を作る金銭的余裕も精神的余裕もなかったはずです。
次に、オードリーは『ラベンダー・ヒル・モブ』で三度目の映画出演を果たします。こちらもチキータという小さな役でした。
そして、『モンテカルロへ行こう』においてオードリーは、短い出演時間に対して、破格の出演料とクリスチャン・ディオールのドレスを着ることを条件に、はじめてモンテカルロの太陽の下で一ヶ月間の夢のような撮影に臨むことになったのでした。
『ローマの休日』の撮影中につけていた可能性が高い香り
1951年5月21日から10月3日にかけて『モンテカルロへ行こう』が撮影され、オードリー・ヘプバーンは、その間の一ヶ月間をフランスのリヴィエラで過ごしました。そして、この時期、オードリーはシドニー=ガブリエル・コレット(1873-1954)との運命的な出会いを果たすことになるのでした。
1951年の夏、モナコのレーニエ3世(のちにグレース・ケリーと結婚)の賓客としてオテル・ド・パリに滞在していたコレットは、オードリーに目を留め『ジジ』の主役に抜擢したのでした。
オードリーが大きなチャンスを掴むことになったこの時期こそが、クリードにオーダーメイド香水を作ってもらうタイミングとして自然であると考えられます。
1951年10月3日の早朝、オードリーは、ロンドンから豪華客船によってニューヨークの埠頭に到着しました。そして、『ジジ』は1951年11月24日にブロードウェイで初演を迎え、総公演回数は219回を数え、1952年5月31日に千秋楽を迎えました。
ちなみに、1952年という一年は、オードリー・ヘプバーンが実質的に誕生した一年でした。それは正確には、ローマの6月23日から始まる10月11日にかけての111日間の『ローマの休日』(1953)の撮影期間を指します。
フレグランス・スペシャリストによるこの香りの世界観
1993年にオードリー・ヘプバーンの死の直前まで愛用していたとされるこの香りは、彼女の死後3年の時を経て、オリビエ・クリードとピエール・ブルドンにより再調香され、1996年にはじめて〝オードリーの愛した香り〟として世に出ることになりました。
ここでかつてブルーベルのチーフとしてクリードの香りを案内しておられた現役フレグランス・スペシャリスト様にお言葉を頂きましょう。以下、彼女のお言葉となります。
私にとって、ピンクのボトルと言えば、一番最初に思い浮かぶのがクリードの「スプリングフラワー」です(ちなみに次に浮かんだのが、ニナリッチの「デシデラ」でした。)。
そんな「スプリングフラワー」は一言で表現するなら、「瑞々しさと愛らしさ、清楚でありながら凛とした佇まいなのに笑顔が可愛い大人の女性」です。
真っ赤な薔薇のブーケも似合うのですが、ピンクの薔薇やピオニーのブーケがお似合いになるような…品格があるのに、手が届かない高嶺の花ではなく、愛嬌を感じるような「愛される女性」です。
フルーツの風に乗りはじまる〝新鮮な花々の春の祭典〟
〝春の花〟という名のこの香りは、目の前に色々なフルーツが盛り付けられたフルーツバスケットの到着と共にはじまります。鮮やかなフルーツの色彩を香りで感じるように、みずみずしいメロンがベルガモットによって、フレッシュに軽やかに弾けます。
爽やかなグリーンアップルが優しく酸味を放つ中、シャンパンシャワーがスカっと吹きかけられます。すぐに発泡し終えたフルーツに、ふんわりと甘やかでクリーミーなピーチ、アプリコットが注ぎ込まれ、ローズ、ジャスミン、スズランといった春の花々が明るく開花してゆくのです。
やがて、春の陽光のようなムスクとアンバーグリスに温められ、フルーティなメロンが愉しげに躍動する空気の中で、ローズを中心とした〝新鮮な花々の春の祭典〟がはじまるのです。
エレガンスとチャーミングが見事に同居した女性像をショッキングピンクのカラーイメージどおりに表現した香りです。
ルカ・トゥリンは『世界香水ガイド』で、「フルーティフローラルの香水は数多くあり、「バッジェリー ミシュカ」といった例外を除けば、一様に間が抜けていて期待度は低い。この香水は数あるフルーティフローラル系の標準型だ。適切に製造され、最低レベルのものよりは天然の香りがし、パッケージのイメージ(ピンク色で石けん調の香りがふわふわする綿菓子)どおりに香る。」と3つ星(5段階評価)の評価をつけています。
香水データ
香水名:スプリングフラワー
原名:Spring Flower
種類:オード・パルファム
ブランド:クリード
調香師:オリビエ・クリード、ピエール・ブルドン
発表年:1996年
対象性別:女性
価格:30ml /24,640円、75ml /39,380円
トップノート:アップル、メロン、ピーチ、アプリコット、ベルガモット
ミドルノート:ローズ、ジャスミン
ラストノート:ムスク、アンバーグリス