『女囚さそり』シリーズVol.2|第一作目 女囚701号さそり(1972)

梶芽衣子
梶芽衣子
この記事は約9分で読めます。

梶芽衣子様。70年代を代表するファッション・アイコン。

北斗の拳』のケンシロウのキャラ設定に影響を与えたのは彼女ではないかと思わせるほどのセリフの少なさ(2作目においては「アタシを売ったね」と「死んでるよ」の2セリフのみ)。

それは梶芽衣子様自身のアイデアでした。沈黙の美学。そして、能面のような美貌。まさにアルティメット・ミニマルな存在の美学に、芽衣子様が演じるさそりは満ち溢れています。

そんな彼女を表現した言葉として実に興味深いのが寺山修司の言葉です。

梶芽衣子は百万人のふしあわせな人々の心が作り出した幻であり、だれもがしみじみと身の上話をしてみたくなる女なのである。

まさに世界が高度経済成長に湧いた60年代から、反逆心としらけムード漂う70年代に突入していく中、ヒッピーやボヘミアン、ロックといった、刹那的に享楽の一瞬を生きる時代の空気を体現できる女優として、ストレートの長髪にジーンズが似合う芽衣子様が〝街にいそうな憧れの女性像〟になったのでした。

だまされるのは女の罪なんだというセリフにも、「怨み節」に共通する<幸薄いオンナ>のどん底オーラ=昭和枯れすゝきオーラが感じられます。それが令和の時代の空気に完全にフィットしています。

女って、男を一度や二度怨んだ経験がないとまだまだでしょと、静かに切れ長な目で語る女になりたい。そんなあなたにこそ相応しい「さそりファッション」を大解剖してゆきます。

『さそり』が大ヒットした頃、インタビューを受ける時は、カメラマンの前では笑顔を見せていたんですが、雑誌の人たちに「笑わないでください」と言われました。さらにスタジオの広報の人にも「笑わないでください」と言われたので笑わないようにしました。

だから時々インタビューで、つい素の自分が出て、笑みを浮かべて質問に答えると「梶さんが笑うことがあるなんて驚きましたね」とビックリされました。まあその時は「私も人間ですから」って答えてたのですが(笑)

梶芽衣子

70年代パンツルック。もはやタイムレスなスタイル。

ウエスタン・サファリ・ミックス。カリクロームシューターのようなサングラス。

アニマル柄のファーコートとパンタロン。

同じくファー・レザーコートとパンタロン。

カマキリにも似た和風美女。

スポンサーリンク

記念すべき第一作目『女囚701号さそり』

常に無表情な松島ナナが、微笑んだ瞬間、とてつもない凄みが生まれます。

時系列が見えにくいシーンですが、レイプされてすぐに復讐しようとしたようです。

ロケ撮影で胸をはだけて暴れる梶芽衣子様。すごい迫力です。

主人公である松島ナミには、恋人の刑事に裏切られ犯人の男たちに犯される場面があるのですが、そうしたシーンが嫌だと言っているのではないのです。また黒いマントを脱ぎ去って(片方の乳を露出し)下着姿で元恋人に出刃包丁をつきつける場面に驚かれる方もいらっしゃるようですが、私には何の躊躇もありません。それどころか、このシーンは私のアイディアによるものでした。
『真実』梶芽衣子

昭和の女性像を一瞬でゲームチェンジした奇跡の作品『女囚さそり』シリーズの記念すべき第一作目『女囚701号さそり』は、1972年8月25日に公開されました。

劇画のさそり Ⓒ篠原とおる

「ビッグコミック」連載の篠原とおる(代表作『0課の女』『ワニ分署』)の人気劇画の映画化。さそりと呼ばれる女囚の松島ナミが、過去に自身を裏切った男に復讐するストーリーで、ただ耐えて耐えて、一気に反撃する美しきさそり女の劇画の世界でだけ許されるキャラクターに、違和感なく命を吹き込んだ芽衣子様の存在感はさすがとしか言いようがありません。

スタイリッシュなサムライブルーの女囚姿のさそりが琵琶湖のような湿地帯を駆け抜ける姿から物語ははじめます。本作中で実際に〝さそり〟と呼ばれるシーンはないのですが、学生時代にバスケットボールに熱中していただけあり、動作が俊敏で、まさにさそりそのものです。

「怨み節」が流れるタイトルロールで、全裸の女囚たちが、謎の空中雲梯を歩かされるシーンが強烈すぎます。
スポンサーリンク

恋人に裏切られた時に着ていた、ウンガロのようなドレス

『女囚701号/さそり』のための衣装チェックする梶芽衣子と監督の伊藤俊也。

撮影のための靴を選んでいる芽衣子様。

このドレスの全身ショット。

4ヶ月間の撮影を終えた頃、監督から主題歌を歌ってほしいと依頼されました。4ヶ月間の撮影で疲れ果てていたので、「セリフはいらないって言ったのに、今さら歌わせるの?」と思いました。

初めて「怨み節」を聴いた時は、演歌っぽい曲だなと思って、歌える自信がありませんでした。この映画の作曲家が菊池俊輔さんで「怨み節」も作曲してくださったのですが、「自分が歌う姿が想像できない」と監督に伝えたところ、「彼の作ったメロディーは無視して、自分の好きなように歌っていいよ」と言われました。それですごく気が楽になり、映画の登場人物として歌おうと決めました。

梶芽衣子

松島ナミの唯一の社会生活の片鱗が見える衣装がナイトドレスです。このドレスを着て、ナイトクラブで恋人の刑事(夏八木勲)のため潜伏捜査をするのですが、恋人に裏切られ、ヤクザたちにレイプされてしまうのでした。

芽衣子様が一言も台詞がない役柄を演じるために、監督はストーリーの流れに即して順番に撮影することにしました。そうしてやっていくうちに、ここはどうしてもというところで台詞をしゃべることになりましたが、基本的には無言を貫きました。

とてもハードスケジュールだったため、撮影が終わると疲れ果て、シャワーを浴びて毎日3時間くらい寝るだけという生活を繰り返していました。

人にもよると思いますが、私は作品に入ってしまうとストイックになりそのことしか頭になくなる性質です。四か月という異例の長い期間を費やしての撮影は肉体的にはたいへんでしたが、充実した毎日でした。
『真実』梶芽衣子
以下、本作における松島ナミのクールなセリフを列挙してゆきます。
  1. 騙されるのは、女の罪なんだ
  2. しゃべりが過ぎるよ
スポンサーリンク

梶芽衣子様が自身で百貨店でチョイスしたさそりルック。

ファッションにそのまま引用するとかなりの不審者。

新御茶ノ水駅のエスカレーター


ラストシーンで黒い服を着るというアイデアを出したのは芽衣子様自身でした。その為、ブラックのトレンチコート(エポレット付き)と黒の女優帽(ガルボハット)とブラック・パンタロンと黒革の手袋とブラック・ハイヒールブーツは、芽衣子様自身がすべて百貨店でチョイスしました(本作のメイクもシリーズを通して自分自身で行いました)。

元々、日活で生意気な女優のレッテルが貼られ干されていた芽衣子様を『縄張はもらった』(1968年)で起用したのが長谷部安春監督でした。彼は、普段撮影所でジーパンを履いて歩いている彼女の姿を見て『女番長・野良猫ロック』(1970年)の主役に抜擢したのでした。

私がふてぶてしく撮影所を歩いてる態度とか、他の女優と違う部分を絵にしたらはまるんじゃないかと思って、起用して下さったんでしょう。だから私、芸能界に入って最大の恩人は長谷部監督だと思ってます。あれがなければ『さそり』はないです。長谷部監督は俳優をかっこよく撮る天才だと思います。『野良猫ロック セックス・ハンター』の、あの帽子もファッションも、全部私が好きな衣装を選んで着ていますから。
芽衣子様のさそりルックは、1970年代はじめの若者のファッションを反映しているのですが、そこに劇画調のエッセンスを加え、全身黒ずくめの〝死神のようにクールで美しいヒロイン像〟を生み出したのでした。
スポンサーリンク

撮影中のオフショット

伊藤俊也は、東映労組の闘士だったので、作風が反体制的なものになりました。

作品データ

作品名:女囚さそりシリーズ Female Prisoner 701: Scorpion(1972-1973)
「女囚701号/さそり」「女囚さそり 第41雑居房」「女囚さそり けもの部屋」「女囚さそり 701号怨み節」の4部作。
監督:伊藤俊也(最終作のみ長谷部安春)
衣装:内山三七子
出演者:梶芽衣子/渡辺やよい/夏八木勲/成田三樹夫/田村正和