衣裳デザイナー、パトリシア・ノリス。
衣装デザインを担当した、パトリシア・ノリス(1931-2015)は、元々はスタンフォード大学で考古学と古生物学を勉強していた人でした。
ファッションとは無縁な彼女が、職業を転々とし、5人の子持ちの40過ぎのシングルマザーになった時、MGMのコスチューム部門のストックルームで働くことになりました。そこで、ふとしたきっかけで彼女の歴史に対する造詣の深さと、正確なリサーチング能力を買われ、コスチューム・デザイナーとして活躍することになるのでした。
『天国の日々』(1978)、『エレファント・マン』(1980)、『ビクター/ビクトリア』(1982)、『2010年』(1984)、『キャデラック・カウボーイ』(1988)、『それでも夜は明ける』(2013)でアカデミー衣裳デザイン賞に6度ノミネートされました(受賞はならず)。特にデヴィッド・リンチ作品においては、プロダクト・デザインも担当し、その独特な世界観の構築に一役買いました。
そんなパトリシアがデザインしたエルヴィラのコスチュームの中でも圧巻なのが、このテーラード・スーツです。ちなみに、トニーが、オープンカーでエルヴィラのハットを被るシーンは、アル・パチーノの完全なアドリブで、エルヴィラの反応は、ミシェル・ファイファー(1958-)としての素の反応でした。
しかし、このファッションにだけ彼女の愛らしい笑顔が存在することが、ストーリーに奥行きを与えてくれているのでした。
エルヴィラのサングラス
トニー・モンタナというチンピラがのし上がっていくためのステイタス・シンボルのひとつが、エルヴィラ・ハンコックでした。
この女性は、無表情か、常にそわそわしているかどちらかであり、笑顔になることはありません。そして、巨大なサングラスで、内面を見せないように武装しています。幸せになることを諦めた底なしの惨めさを感じさせる彼女の少女時代は、その美しさ故に、壮絶だったことでしょう。
つまりは心がすでに死んでいる美女なのです。エルヴィア・ハンコックが、現在においても多くの女性の心を掴んで離さないのは、強さではなく、優柔不断に、フランクからトニーに流れていく、徹底的に人生を諦めている〝視線は嘘をつけない〟弱さを感じさせるところにあるのです。
ちなみにこのサングラスは、ミシェル自身が、ドラッグストアで3ドルで購入したものでした。
エルヴィラ・ハンコックのファッション2
テーラード・スーツ
- ブリムの広いホワイト・ハット
- キャッツアイ・サングラス、ブラウンのフレーム
- 白のオープントゥハイヒールパンプス
- ジョルジオ・アルマーニ風のシルクとリネンの白のテーラード・スーツ、ペプラムジャケットと、太ももまでスリットの入ったスカート
- 白のクラッチ・バッグ
エルヴィラ・ハンコックのファッション3
ワンピース水着
- エメラルドグリーン・ワンピース水着、プランジング・ネックライン
- ホワイトサテンガウン
- キャッツアイ・サングラス、ブラウンのフレーム
エルヴィラ・ハンコックのファッション4
ホルターネックドレス
- クリムゾンローズのホルターネックドレス、シルクのバイアス・カット・ガウン
- ゴールド・クラッチ
- シルバーのハイヒールサンダル
もう一着のディスコ・ドレス
エルヴィラ・ルックから、ジャンニ&ドナテラ・ヴェルサーチ、ジョルジオ・アルマーニ、ダナ・キャランなどのファッション・デザイナーが受けた影響は絶大です。
それはポップスターに対しても同じで、リアーナも本作の熱狂的なファンです。2012年にはジョルジオ・アルマーニに、レッドカーペット用のイブニングドレスを、エルヴィラドレス風にとお願いして2着発注したほどでした。
作品データ
作品名:スカーフェイス Scarface (1983)
監督:ブライアン・デ・パルマ
衣装:パトリシア・ノリス
出演者:アル・パチーノ/ミシェル・ファイファー/スティーヴン・バウアー/ポール・シェナー
- 【スカーフェイス】トニー・モンタナ帝国とアル・パチーノ
- 『スカーフェイス』Vol.1|アル・パチーノとアル・カポネ
- 『スカーフェイス』Vol.2|アル・パチーノとアロハシャツとチェーンソー
- 『スカーフェイス』Vol.3|トニー・モンタナと世界で最も薄い高級時計
- 『スカーフェイス』Vol.4|アル・パチーノとダブルのスーツ
- 『スカーフェイス』Vol.5|アル・パチーノ=トニー・モンタナ愛用香水
- 『スカーフェイス』Vol.6|アル・パチーノのトニー・モンタナ伝説
- 『スカーフェイス』Vol.7|ミシェル・ファイファーのショートボブ
- 『スカーフェイス』Vol.8|ミシェル・ファイファーのディスコ・ドレス
- 『スカーフェイス』Vol.9|ミシェル・ファイファーの元祖ウェイフルック