【サムライ】
Le Samouraï 1960年代のアラン・ドロン(1935-2024)は、世界一美しい男と呼ばれていました。そんな黄金期のドロンが、犯罪映画の名匠ジャン=ピエール・メルヴィル(1917-1973)と組み生み出した「男への挽歌」。日本のサムライの生き様を、フランスの暗黒街の殺し屋に当てはめた「殺し屋の美学」映画の元祖です。
アクアスキュータムのトレンチコートとフェドラ帽姿のドロンの姿が、永遠のメンズ・アイコンになった作品。生まれてはじめて愛してしまった女性の暗殺依頼を受けたとき、彼ははじめて殺しの現場で、フェドラ帽を脱ぎ=マイ・ルールを破り、返り討ちにあうのでした。
私の夢は、カラー作品で白黒映画を撮ることなんだ。
ジャン=ピエール・メルヴィル
この作品は、メルヴィルがはじめて撮影したカラー映画でした。以降、彼の作品の色調は、メルヴィル・ブルーと呼ばれるようになりました。
あらすじ
剣道の道場のような静謐なる空気に包まれたアパートメントの一室でひっそりと生活する男がそこにいた。部屋にこだまするのはただ小鳥のさえずりのみ。その男の名をジェフ・コステロと申します。彼の住む世界には色彩が存在しません。そして、言葉もそれほど多く存在しません。
そんな世界に突如現れた美しき女豹のような黒肌の歌姫ヴァレリー。この作品の主人公はこの二人です。『サムライ』とは、多くを語らない男と女の恋の寓話なのです。
ヴァレリーとジェフの出会いは、ナイトクラブのバックステージでした。それは丁度ジェフが殺しを終え出てきた時のことでした。ヴァレリーはジェフを目撃したことを警察に伝えません。ジェフはなぜ彼女がそうしたのか理解できません。彼女自身も自分がなぜそうしたのか理解できません。こうして二人の恋ははじまりました。しかし、無情な暗黒街の指令により、ジェフはヴァレリーの殺害を命じられるのでした。
ファッション・シーンに与えた影響
アラン・ドロンが〝男〟を演じた映画の金字塔であり、メンズ・ファッションに与えた影響は、爆発的な作品です。その爆発的なポイントは以下の四点です。
- 永遠のトレンチコート・アイコン
- 永遠のチェスターフィールド・アイコン
- フェドラ帽の教科書
- 削ぎ落した男の作法の手引書
ファッション・ムービーの鉄則。それは、その登場人物の所作を見ているだけで幸せになれる映画のことを指します。『サムライ』はそういう意味において間違いなく「男のためのファッション・ムービー」の頂点に位置する作品です。
作品データ
作品名:サムライ Le Samouraï (1967)
監督:ジャン=ピエール・メルヴィル
衣装:クレジットなし
出演者:アラン・ドロン/ナタリー・ドロン/カティ・ロシェ