クルキー
原名:Kurky
種類:オード・パルファム
ブランド:メゾン・フランシス・クルジャン
調香師:フランシス・クルジャン
発表年:2025年
対象性別:ユニセックス
価格:70ml/39,600円
販売代理店ホームページ:ラトリエ デ パルファム
「アナザー13」「ムスクK」のような〝究極のスキンパルファム〟

©Maison Francis Kurkdjian

©Maison Francis Kurkdjian
物心ついた頃から私はクルキーと呼ばれていました。私のアルメニア系の名字は発音に苦労する人が多かったからです。だから、Kurky(クルキー)は親しい友人たちがつけてくれた親しみやすいニックネームなんです。Kurkdjian(クルジャン)の略称で、小さい頃から今でもそう呼んでくれる人もいます。奇抜で風変わりなイメージとよく合うところが気に入っています。親しみやすく、親密な響きです。
フランシス・クルジャン(以下、すべての引用は彼のお言葉です)
「クルキー」は、私の創造する香りの中で、『解放』という概念を世に送り出したいと思った時に生まれました。人々の内なる子供のこころを目覚めさせるような香りを作りたかったのです。
だからノスタルジーとは全く関係がない香りです。それどころか、揺るぎなく現代的な作品です。私たちの奥深くに眠る、無頓着さと情熱の残滓を目覚めさせる香り。それは子供のように夢を見る勇気を持つ大人のための香りです。「クルキー」は、人生に夢を持ち、笑顔を大切にする時間を謳歌するためのマニフェストです。
大人になったら、どうして何もかもが真面目になる必要があるのでしょうか?大人になったら、水たまりに飛び込んだり、どうしてバカなことをしてはいけないのでしょうか?どうしてもうキャンディを好きになってはいけないのでしょうか?私は正直に言います。奇妙に思われるかもしれませんが、今もグミキャンディを食べるのが好きです。
ディオールの二代目専属調香師をつとめるフランシス・クルジャンが、自身のフレグランス・メゾン、メゾン・フランシス・クルジャンより2025年3月(日本では5月14日に発売)に発売した新作「クルキー」は、トゥッティフルッティ・グミキャンディ(イタリア語で「すべてフルーツ」の意味)の抗しがたい魅力を捉えた香りです。
元々、子供向けの香りをリリースするというコンセプトを約4年間開発していたのですが、途中でその計画がディオールの「ボン エトワール」として昇華したので、その開発を生かした新しいコンセプトの香りを一年半かけてこちらでは生み出すこととなりました。
「おとなは、だれも、はじめは子どもだった」

©Maison Francis Kurkdjian

幼少期のクルジャン ©Maison Francis Kurkdjian
「クルキー」は美しくシンプルで、楽しく、軽快で、人の内なる子供心を目覚めさせる香りです。「おとなは、だれも、はじめは子どもだった。そのことを忘れずにいるおとなは、いくらもいない」とサン=テグジュペリの『星の王子さま』は語ります。それは、憂鬱な日々や悲観主義への解毒剤です。クルキーは、虹の色を通して人生を体験するための招待状であり、子供のように夢を見る勇気のある大人への招待状です。
「クルキー」は、子供の目で人生を体験する勇気を持つ大人のために作られた、子供時代の香りです。子どもらしさとは、雲を見て雨が降るかを心配するよりも、雲のかたちから想像をふくらませることなのです。
〝クルキー〟とは、フランシス・クルジャンの幼少期のニックネームです。この香りのイメージは〝フルーティーなぬいぐるみ〟なのですが、そのような無邪気な部分も含めて、まるでクルジャンがサン=テグジュペリの『星の王子さま』(内藤濯訳)のたいせつな言葉をすべて詰め込んだような香りです。
有名な献辞の文章である「むかし、いちどは子どもだったのだから、わたしは、その子どもに、この本をささげたいと思う。おとなは、だれも、はじめは子どもだった(しかし、そのことを忘れずにいるおとなは、いくらもいない)」はまるでこの香りを作ったクルジャンの声明のようです。
さらに香りが進むにつれて「ものごとはね、心で見なくてはよく見えない。いちばんたいせつなことは、目に見えない」「子どもたちだけが、なにをさがしているのか、わかってるんだね」「きみのバラをかけがえのないものにしたのは、きみがバラのために費やした時間なんだ」そのような名文が、子どもだった大人の心に染み入っていくようなのです。
「レ ビュル ドゥアガタ(アガサのバブル)」=香りつきのシャボン玉

©Maison Francis Kurkdjian

©Maison Francis Kurkdjian
この香りの創造へと導いてくれた二つの言葉があります。一つはシャルル・ボードレールの「天才とは、子供時代の自分を意志の力で取り戻した者である」。そしてマルセル・プルーストの言葉としてよく引用される「創造とは、取り戻された子供時代である」です。
メゾン・フランシス・クルジャンは、2009年に幼児向けのフレグランス入門として「レ ビュル ドゥアガタ(アガサのバブル)」という〝香りつきのシャボン玉〟を発売しています。アガサとは、クルジャンの姪の名前です。
太陽王・ルイ14世が愛した洋梨、ミント、カットグラス、ヴァイオレットといった4種類の香りが発売されました(日本未発売)。現在ラインナップに変更があり42ml/20ユーロ(約3300円)で、ローズ、ストロベリー、メロン、カットグラス、ヴァイオレットの5種類が発売されています。
香りのついたシャボン玉を使った、〝香りを楽しむ習慣〟を幼少期に浸透させていくというこのクリエイションが、今回の「クルキー」への道のりのはじまりでした。
あなたの心に、あの青いネコ型ロボットがタイムマシーンに乗ってやって来る。

©Maison Francis Kurkdjian

©Maison Francis Kurkdjian
私は自分のブランドでは花をそれほど前面に出すことはありません。しかし、ディオールでは花は創業の精神の一部なんだ。花はブランドのDNA。だからディオールでは、花と仕事をすることを心から楽しんでるんだ。
この香りを創るにあたり私が思い描いたのは、ジューシーで楽しく、そして風変わりな、食欲をそそる香りでした。伝統的なグルマン系の香りとは一線を画す、思わず笑みがこぼれそうな、甘いお菓子のようによだれが出るほど甘く、それでいて軽やかでフレッシュな香りも保つ必要がありました。
最初はアーモンドノートのものを作ろうと考えていたのですが、アーモンドでは遊び心が足りず、陽気さやカラフルさが足りないと思ったので、それをやめました。
ムスクの香りが強く残るベースは、首筋へのキス、愛撫、そして優しさを想起させます。それはまるで巨大なムスクのシャボン玉のような香りに、ピーチとラズベリーのフルーティーなノート(私がトゥッティフルッティ・アコードと呼んでいるもの)を加え、甘酸っぱいジェリービーンズキャンディのような香りに、クリーミーなバニラの香りをほんのりと加えました。あるいは、ぬいぐるみのような香りです。
〝いつもこころに子どものピュアハートを〟そんな心が生み出したこの香りは、華やかな花の世界=ディオールの世界から、しばし逃避して、ディオールが存在しない子どもの世界に喜びを見い出していくように、一切、花の香りは使用されていません。
フレッシュなピーチやアプリコット、洋ナシ、ラズベリー、ブラックベリー、オレンジという無条件に子どもの心を揺り動かす明るく色鮮やかな香りに、ホワイトムスクとバニラがやさしく注ぎ込まれるようにしてこの香りははじまります。
グミキャンディを素肌で味わうような、やわらかいクリーミーな甘さが広がってゆきます。あの青いネコ型ロボットが、勉強机の引き出しの中からやって来ると信じていた心を再び心に蘇えらせてくれるように、会社の机の引き出しをそっと開けたくなる香りに満たされてゆきます。
やがて四半刻も経つと、グルマンな甘さは、ホワイトムスクとサンダルウッドが主体となった、エアリーな甘さ、それは花の甘さでも、ピリっとした果実の甘さでも、スイーツやチョコバーの甘さでもなく、童心にかえらせる果実をたっぷり詰め込んだ、グミキャンディの儚い甘さが、まるで太陽の光を眺めているような幸せな気持ちと共に広がってゆきます。
肌の上を滑り落ちていくようではなく、肌を透かして心にまで染み入るような軽やかな甘さが、子供の目を通して世界を見るような、内なる輝きで包み込んでくれるようです。
何よりも素晴らしいのは『星の王子さま』が、分かりやすい言葉で書かれており、とても読みやすい本でありながら、心に向かって言葉がすべりこんでくる、大人のための童話であるように、分かりやすいグミキャンディの香りで作られた、とてもはかなく繊細で優しい、大人のためのお菓子の香りなのです。
つまりは、この香りは、フランシス・クルジャンが生み出したル ラボの「アナザー13」、エラケイの「ムスクK」のような〝究極のスキンパルファム〟なのです。
楽しくて遊び心のある内箱は、クルジャンの子供時代の思い出に響くように、フランスの学校で筆記体を学ぶノートからヒントを得た柄を、メゾンの象徴的な色である「パリグレー」で表現しています。また、クルジャンの名字のスペルミスにも着想を得ており、パッケージには彼自身が小さなイラストを落書きしました。キャンディのような優しい雰囲気を醸し出すために、オレンジとグリーン(子供の頃の寝室の壁紙の色)と柔らかな色調が使用されています。
ボトルは、ゴールドのキャップに、透明なガラスをピーチカラーのラッカーで仕上げ、ラベルには子どもの手描き文字でクルジャン自身が「Kurky」と描いたものが採用されています。
最後にキリアンの「ラブ ドント ビー シャイ」とのレイヤードがかなり好評です。
フレグランスのワードローブにおいて、「クルキー」はスニーカーやジャケットの下に着る白いTシャツのように際立っています。ルックのエレガンスを損なうことなく、むしろリラックスした態度、解放感を表現します。
「クルキー」は、現代のトレンドに少し反抗的な香りです。堅苦しくシリアスな雰囲気とは対極に位置する、思わず笑みがこぼれてしまう香りを作りたかったのです。
香水データ
香水名:クルキー
原名:Kurky
種類:オード・パルファム
ブランド:メゾン・フランシス・クルジャン
調香師:フランシス・クルジャン
発表年:2025年
対象性別:ユニセックス
価格:70ml/39,600円
販売代理店ホームページ:ラトリエ デ パルファム
トップ・ノート:ラズベリー、ピーチ
ミドル・ノート:トゥッティフルッティ・アコード
ラスト・ノート:ホワイトムスク、バニラ