ジャージー|男性のための素材であるラベンダーで生み出された女性のための香り

シャネル
©CHANEL
シャネル
この記事は約5分で読めます。

ジャージー

原名:Jersey
種類:オード・パルファム
ブランド:シャネル
調香師:ジャック・ポルジュクリストファー・シェルドレイク
発表年:2011年
対象性別:女性
価格:75ml/37,400円、200ml/66,000円
公式ホームページ:シャネル

スポンサーリンク

1916年にココ・シャネルが、ジャージードレスを生み出しました。

1928年、ジャージー・ドレスを着るココ・シャネル。

1929年、ジャージー・ドレスを着るココ・シャネル。

2007年にシャネルのプレステージ・コレクションとして「レ ゼクスクルジフ ドゥ シャネル」がスタートしました。そして2011年のクリスマス・シーズンに合せ「ジャージー」が、まずはオード・トワレとしてシャネルの3代目専属調香師ジャック・ポルジュクリストファー・シェルドレイクの調香により発売されました。

「ジャージー」の名は、1916年にココ・シャネルが、史上初めて(水兵のセーターや男性用下着にしか用いられなかった地味な素材)ジャージー素材を女性用ドレスのために使用して発表したことに由来します。

ジャージーとは、チャンネル諸島(Channel Islands、シャネルと非常に似たスペル)のジャージー島にすむ牛から採れた毛糸を使い編んだ漁夫のセーターが起源と言われています。

女性のファッションに革命をもたらしたジャージー素材のドレスは、1914年に開戦の火蓋が切られ、ヨーロッパ全土を戦禍に巻き込んだ、第一次世界大戦のさなかに、シンプルで着心地の良い素材のドレスを求めていた女性たちのニーズにぴったり合い、瞬く間に普及しました。

安くて丈夫で伸縮性のあるジャージー素材にココ・シャネルが目をつけたのは、アーサー・〝ボーイ〟・カペルの馬の調教師のセーターからでした。

ジャージー・ドレスは、1916年に、いち早くアメリカのハーパース・バザー誌に掲載され、翌年には同誌上にて、「シャネルを一着も持っていない女性に未来はない」とまで書かれ、シャネルは「ジャージーの独裁者」と呼ばれるようになるほどの成功を収めるのでした。

後に、ダイアン・フォン・ファステンバーグジル・サンダーといった女性デザイナーにとってもアイコニックな素材となりました。

スポンサーリンク

男との愛に殉じる女性の「意志の勝利」の歴史を投影した香り

1924年のシャネルと、バレエ リュスのプリンシパルダンサーのセルジュ・リファール。

ココと言えば、有名なのがこの写真。1924年。

©CHANEL

ココ・シャネルという女性の本質は、この一言に集約されます。「たとえあなたが仕掛けられた罠だとしても、私の破滅のはじまりだとしても・・・」。このラベンダーバニラの香りは、まさにそんなシャネルイズムの極みのような香りです。

通常は男性用フレグランスに使用されるラベンダーを、男性用の素材だったジャージーで女性のためのドレスを作ったように、女性の香りへと転生させていくこの香りは、広大な風通しの良い大草原の輝きを背景に展開してゆきます。

まずは甘くもクリーミーな色男の体毛から滲み出るような体臭の如しトンカビーンが、仄かにアルデハイドを効かせたグリーンノートにじんじんと溶け込んでゆきます。

すぐにひんやりと軽やかに冷たげなラベンダーが現れ、トンカビーンにより、ラベンダーの奥に潜む、焦がしキャラメルのような甘さが、清涼感に包まれながらもパウダリーに浮き上がってきます。

この香りの中で使用されているラベンダー精油は、二人の調香師が、山と海に囲まれたモンペリエ周辺で栽培された選りすぐりのラベンダーをドライスチーム蒸留したものです。

やがて香りは甘い色男の色気に、引き込まれるのではなく、女性らしい華やかさと、透明感を併せ持つジャスミンに包まれていきます。そしてクリーミーなバニラが、パウダリーなラベンダーと見事にひとまとめになり、色男を逆に夢中にさせるような香りを広がらせてゆきます。

大草原の輝きがこの〝ラベンダーとバニラで作られたジャージー〟の秘密のレシピです。

最後に、ホワイトムスクが溶け込んだムスキーなローズが大草原のラベンダーに溶け合うように、女性は、この色男にすべてを委ねる決意を固めていくのです。ココ・シャネルの歴史。それは、自立した女性の歴史でありながら、(ナチスの将校を含めて)男との愛に殉じる女性の「意志の勝利」の歴史なのです。

静かなる柔らかな甘い余韻が、ココ・シャネルの芯の強さを感じさせます。心地良い解放感と同時に、迷いを吹っ切らせてくれるそこはかとなく続いていく〝パンツルックの大草原の香り〟とも言えます。

2016年9月には、オード・パルファム・ヴァージョンが発売され、これが現行品となっています。エルメスの「ブラン ドゥ レグリス」や、キリアンの「テイスト オブ ヘブン」とよく比較される香りです。

ルカ・トゥリンは『世界香水ガイドⅢ』で、「ジャージー」を「ラベンダー バニラ」と呼び、「なんて奇妙な獣だろう。ラベンダー バニラは主にゲランとキャロンの縄張りだ。すでに100万回ほじくり返された場所で、シャネルの魔術師が何を見つける? 答えはとても賢明。ラベンダーは香りの境目でキャラメル調に外れがちだが、カンファーのラバデインで補うか、クマリンの苦みで覆うか(「ジッキー」)、あるいは徹底した甘さに浸す(「プールアン オム」) という手がある」

「シャネルが選んだ手法は、そのどれでもない。ラベンダーをメタリックなヴァイオレットリーフの大きなバックネットで挟み、さらにジャスミンを加えるのだ。これはいわばプロイセンの軍服を着て片眼鏡、乗馬鞭を携えたラベンダー」と3つ星(5段階評価)の評価をつけています。

スポンサーリンク

香水データ

香水名:ジャージー
原名:Jersey
種類:オード・パルファム
ブランド:シャネル
調香師:ジャック・ポルジュクリストファー・シェルドレイク
発表年:2011年
対象性別:女性
価格:75ml/37,400円、200ml/66,000円
公式ホームページ:シャネル


トップノート:ワイルドフラワーズ、草
ミドルノート:ローズ、ラベンダー、ジャスミン
ラストノート:ホワイトムスク、バニラ、トンカビーン