そして、スティーヴ・ブシェミ〝様〟
ミスター・ピンク・ブラックスーツ
- ブラックジャケット。リブファブリック、シングルベンツ、ノッチドラペル
- 白のボタンダウンシャツ、胸ポケット付き
- ブラック・ナロータイ
- ブラック・ジーンズ
- ブラック・レザーブーツ
- レイバンのウェイファーラー
最もディオールオムに近いモードな着こなしをしているのが、スティーヴ・ブシェミ(1957-、175㎝)です。警官に追われて、走って逃げているシーンにおけるブラックスーツのシルエットはそれだけでCMになるくらいのカッコ良さです。
しかし、それもこれもブラックスーツの真のモード感は30代以上の男達の渋さが加味されて生まれるものなのです。いくら若くてスタイルの良い男性がブラックスーツに身を固めても、黒というカラーが生み出す魔性とでも言いましょうか、黒は若さから未熟さを引き出し、成熟からは渋みを生み出す唯一無二のカラーなのです。だからこそ、日本においてはブラックスーツは就職活動をイメージさせるのです。
そういう意味においては、いつまでたってもブラックスーツを着こなせない男性は、未熟な男性と言えるでしょう。その代表的な例が、奇しくも、タランティーノ自身のブラックスーツのバランスだったのでした。
『ライク・ア・ヴァージン』って歌を知ってるか?
ミスター・ブラウン・ブラックスーツ
- 肩パッドを増強したブラック・スーツ。トーキング・ヘッズのデヴィッド・バーン並みのオーバー・シルエット
- ホワイト・コットン・シャツ
- ブラック・ナロータイ
- レイバンのプレデターに似たサングラス
本物のレザボア・ドッグ=ローレンス・ティアニー
クエンティン・タランティーノらしいキャスティングの妙が、『犯罪王デリンジャー』(1947)でジョン・デリンジャーを演じたローレンス・ティアニーの抜擢です。『ティアニー戦史』の数々により、1940年代にB級映画のスターになり損ねた彼は、「ハリウッド一手錠をかけられたスター」とまで言われ、アルコール依存症によるトラブルは、ギネスブックに認定されるくらいあり、最も扱いにくい俳優の一人として完全に忘れ去られていた存在でした。タランティーノは監督デビュー作において、そんなローレンスを重要な役柄で起用したのです。
1958年にマンハッタンのバーで二人の警官と殴り合いの喧嘩をして逮捕されたこともあるローレンスは、1973年にはバーの喧嘩で刺されることになります。1975年には、24歳の女性が高層ビルから自殺した時に、ローレンスがその部屋にいて、実は他殺だったのではないかと調査されたこともありました。そんなトラブルには事欠かないこの男の起用は、最終的には、タランティーノとの殴り合いにまで発展しました。
しかし、結果的には、ローレンスの起用が本作に良い緊張感を生み出していたことは否定できません。本物のレザボア・ドッグがそこにいたからこそ、この作品は、ブラックスーツにより、見事なまでの複数形のレザボア・ドッグスになったのでした。