アン パッサン
原名:En Passant
種類:オード・パルファム
ブランド:フレデリック・マル
調香師:オリヴィア・ジャコベッティ
発表年:2000年
対象性別:女性
価格:10ml/8,250円、30ml/21,560円、50ml/29,040円、100ml/42,460円
販売代理店ホームページ:ラトリエ デ パルファム
一回限りの出会いだからこそ、奇跡は生まれる。
彼女とは面識はなかったのですが、ラルチザンの「プルミエ フィグエ」を知り、以後ずっと彼女の生み出す作品に対して賞賛の気持ちを持っていました。
フレデリック・マル
フレデリック・マルが、2000年に創業するにあたり、この人にこそ、是非トップバッターとして調香をお願いしたいと望んでいた調香師がいました。その人の名をオリヴィア・ジャコベッティと申します。
1988年にルール・ベルトラン・デュポン社(現ジボダン)に入社したマルが、同僚のピエール・ブルドンによってドミニク・ロピオンと交流を深め、ある時、ドミニクからジャコベッティを紹介してもらったのでした。
「アン パッサン」とはフランス語で「通りすがりに」という意味です。そして、ジャコベッティにとってもまさにその名の通り、唯一のフレデリック・マルの作品となったのでした。
偉大なる才能と才能の交差は一回限り。しかもその主題は、ジャコベッティが子供時代から愛している香りの記憶である〝風に乗ってやって来るライラックの花の香り〟。そして、それはマルが、一番最初に香りに対して衝撃を受けた寄宿学校時代の想い出の花でもあったのです。
元々は、マルが、ジャコベッティとはじめて対面し、自身の創業のプロジェクトについて説明するために、ボックスを最初に作り、彼女の前に持参したときのボックスの表面に〝アン パッサン〟と記している文字を見つけたジャコベッティが、プロジェクトに賛同しながら、この名で、香りを創造したいと提案したことから始まりました。
全ての香りのうちこの香りだけが、名前を元に生み出された香りです。彼女の持つ〝自由な精神、形にとらわれない創造力〟を思う存分に発揮してほしいというマルの願いを反映して生み出された、オリヴィア・ジャコベッティの世界観が100%反映された香りです。
オリヴィア・ジャコベッティの真骨頂
記憶の中で花の香りは、現実よりもどんどん美しくなります。ライラックの花も実際は近くで嗅いでみると、不快な側面があります。それはとてもグリーンでテレビン油のようで、しばらく経つと、直線的な蜂蜜の甘さを含んだアニマリックな香りになります。
フレデリック・マル
この香りはオリヴィア・ジャコベッティが、イタリアのとあるパン屋と花屋の間を通り過ぎたときに鼻腔を包み込んだ一瞬の香りがヒントになって生まれました。
ジャコベッティはライラックの花の香りではなく、ライラックの香りが乗る風の香りを生み出そうと考えました。そのための隠し味としてキューカンバー・アブソリュートを使用し、香りにエアリーさを追加したのでした。
さらに、スキン・パルファムの様相を生み出すために、小麦とホワイトムスクを使用し、楽園のような自然の理想的な美しさを突出させ、ひいては、純潔のホワイト・ウエディングをイメージさせる香りへと昇華させたのでした。
「プルミエ フィグエ」で世界で最初のイチジクの香りを生み出し、さらに人参や小麦のノートを香りに加えていったジャコベッティの真骨頂とも言える香りです。
特にホワイトムスクが多くなると、エアリーさが失われるので、キューカンバー(キュウリ)とホワイトムスクの絶妙なバランスに気が配られています。この香りの天才性は、ライラックの香りをフローラルノートではなく、グリーンノートで表現したところにあります。
『雨宿り』と『あいあい傘』を連想させる香り
忠実にただ花の香りを作るだけでは、自然を連想させる香りになりません。自然をシンプルに連想させる香りほど難しいものはないのです。
オリヴィア・ジャコベッティ
長かった冬が過ぎようとしています。春の訪れを感じさせる雨上がりのすがすがしい早朝の田園地帯で、陽光に包まれたフレッシュパウダリーなライラックとプチグレンの香りが、キューカンバーと遭遇するところからこの香りははじまります。
グリーンフレッシュな(百合のような水っぽさを含んだ)ミュゲのような香りが、優しくふんわりと香ります。やがて、朝日は昇り、ライラックも大地も生命力をたぎらせながら、とおくから、パンの香りが優しく〝おはよう〟という言葉のように香り立ちます。
オリヴィアには、一流の写真家のようにその場のすべてを捉えて、香りに投影させる稀有な才能があります。
フレデリック・マル
ジャック・ゲランによって調香された1906年のゲランの名香「アプレロンデ」以後、最も素晴らしい(透明感溢れる)〝雨〟を表現した香りとも言えます。
ジャコベッティの香りの特徴とも言える(俳句のような)引き算の美学が存分に発揮されている香りです、香りが心にストレートに飛び込んでくるのです。
香水をはじめて使う人のための香り
春一番にセーヌ川に沿って歩いているときに嗅ぐ香りをイメージして生み出しました。
オリヴィア・ジャコベッティ
ロベール・ドアノーが撮影していたような〝パリの道路に面する庭〟の彼方から漂ってくる感じがする素敵な香りを写真を撮るように調香したの。
オリヴィア・ジャコベッティ
この香りの素晴らしさを的確に示す一例としまして、〝香水を使うことを避けてきた人たちが、一番最初に香りに目覚めるきっかけになる香り〟または、〝この香りだけは、香水は嫌いだけど使いたくなる香り〟と言われているところにあります。
つまりは、それほど〝自然〟を感じさせる香りであり、香水だと感じさせない香りなのかもしれません。また、香水に興味を持ったばかりの教養人のこだわりの最初の一本として選ばれる香りとも言われています。
タニア・サンチェスは『世界香水ガイド』で、「これこそオリヴィア・ジャコベッティの見本といった香水。淡く、冷たいフローラルになっていて、コルセットを締めていられない中世の肺病のヒロインと同じ香り。それでも、きれいなホワイトオンホワイトの絵画になっていて、ライラックで始まり、最後はかすかなヘリオトロピンでひんやりする。通りがかりには、「アプレロンデ」(雨上がりのあと、ゲラン)をつけてるって思われるけど。」と3つ星(5段階評価)の評価をつけています。
香水データ
香水名:アン パッサン
原名:En Passant
種類:オード・パルファム
ブランド:フレデリック・マル
調香師:オリヴィア・ジャコベッティ
発表年:2000年
対象性別:女性
価格:10ml/8,250円、30ml/21,560円、50ml/29,040円、100ml/42,460円
販売代理店ホームページ:ラトリエ デ パルファム
シングルノート:キュウリ、ホワイトライラック、小麦、プチグレン、ウォータリーノート