クルーエル インテンションズ
原名:Cruel Intentions
種類:オード・パルファム
ブランド:キリアン
調香師:シドニー・ランセスール
発表年:2007年(廃盤)
対象性別:ユニセックス
価格:日本未発売
1999年のハリウッド映画のような香り
キリアン・ヘネシーは2007年10月に「バイ・キリアン」(現在は「キリアン」)という名でブランド創業するにあたり、6作品からなるコレクション「ルーヴル ノワール —愛が描く甘い誘惑の世界—」を発表しました。このコレクションは、三つのテーマに分けられています。
「クルーエル インテンションズ(残酷な企み)」には「Tempt me(私を誘惑してごらん)」という副題がついています。Parisian Orgies(パリジャンの乱痴気騒ぎ、ランボーの詩)のテーマで生み出された、あらゆる種の歓びを誘う誘惑の香水です。
同時に発売された「リエゾン ダンジェルーズ」と同じく、コデルロス・ド・ラクロの小説「危険な関係」よりインスパイアされたバニラローズの香りです。女性調香師シドニー・ランセスールによって調香されました。
恐らくこの香りは、1999年に、現代のティーンエイジャーに置き換えてハリウッドで映画化された傑作『クルーエル・インテンションズ』の世界観をそのまま香りに置き換えた可能性が高い作品とも言えます。
さぁ、ローズとウードが仕掛ける危険な罠にかかってごらん
さぁ、二人の主役が現れます。贅沢に甘やかされて育てられたローズとウードです。ウードはその端正なルックスを武器(プラダのポロネックも見事に着こなす美男子)に、あらゆる美しい香りを誘惑することに至福の喜びを覚え、最終的に、常に自分の色に染め抜いて捨ててゆきます。
一方、漆黒のローズは、退屈しのぎに〝残酷な企み〟を試み、多くの香りを傷つけ楽しんでいます。そして、義理の姉弟となったローズはウードに対して、「もし私が欲しかったら、これから現れる全ての香りを誘惑して見せて」と持ちかけたのでした。
はじまりはカラブリア産ベルガモットの一瞬のイノセンスな煌きです。すぐに威風堂々とウードが現れ、瞬殺で動物的なオーラでベルガモットを喰いちぎります。嗚呼・・・実に手際よく、無垢な心を堕落させてくれる実にエレガントなウードです。
そこにメイローズが、ウードと見事な距離間を保ちながら現れるのです。さぁ、ローズとウードの「残酷な企み」があなたの肌の上で開始されるのです。
お次にウードが誘惑するターゲットはラズベリーです。このウードは実に狡猾にこう考えています。「果実の甘さを手に入れさえすれば、ローズはその甘さに引き寄せられるはずだ」と。
さらに、砂糖漬けされたヴァイオレットとバニラさえも誘惑し、自分の魅力にパウダリーさのアクセントを加え、磨きをかけてゆきます。一方、ローズは、スモーキーなベチバーと古書のようなパピルス、アーシィーなパチョリを唆し、ウードの甘さを相殺しようとするのです。
バニラの効いたウードの酸味と誘惑した香りの数々の甘みに対して、スモーキーレザリーなダークローズが見事なコントラストを生み出してゆきます。そして、あろうことかウードは真実の愛に目覚めてしまうのです。今まで加えていった全てをかなぐり捨て、ただただアンバーとサンダルウッド、ガイアックウッドによるクリーミーなバルサミックな余韻に身を任せるのです。
そして、ダークローズはただただ静かに、次なる「残酷な企み」のパートナーを求め、静かに、スティラックスとカストリウムの官能の名残をムスキーレザーに託し(罠を仕掛けたまま)、そこはかとなく寂しげに、(あなたの肌と言う名の)舞台から去ってゆくのです。
禁じられた関係とは、他人に理解を求めない関係です。だからこそ、この香りは人を選びます。そして、虜になる人をどこまでも虜にしてしまうのです。つまり〝真の意味での危険な香り〟なのです。
ちなみにこの香りには、本物のアガーウッドは使用されておらず、アガーウッド・アコードが使用されています。明らかにイヴ・サンローランの「M7」をより現代風に洗練させた香りです。
ルカ・トゥリンは『世界香水ガイド』で、「薄っぺらで、残酷(クルーエル)なのか何なのか、いいたいことがはっきりしていない。」と2つ星(5段階評価)の評価をつけています。
二つの香りの「危険な関係」
コレクション「ルーヴル ノワール」は、人生に関する物語であり、誰もが、愛、情熱、禁断、悲哀に身を委ね、ときに危険な関係に誘惑され、残酷な意図を持ったり、自分の手で楽園を作ろうとすると思うんだ。
ほとんど私の人生の一部だけど、みんな同じ感情を抱いているはずだから、それぞれの経験を見つけられると思う。
キリアン・ヘネシー
「リエゾン ダンジェルーズ」と「クルーエル インテンションズ」は、ラクロの小説「危険な関係」からインスパイアされ生み出された香りなのですが、キリアン自身の経験から生みだされた香りとも言えます。
ここで、なぜキリアンは一つの原作を、二つの香りに分けたのか不思議に思うのですが、1782年に書かれた原作の世界観を香りにした「リエゾン ダンジェルーズ」がクラシカルなフルーティーローズ(プラム)だとしたら、1999年のハリウッド映画をイメージした「クルーエル インテンションズ」は、21世紀にトレンドになるウードを主題にした香りなのです。
つまりはフルーティーシプレVSローズウードという、クラシックとモダンの色気の対比なのです。
そして、「リエゾン ダンジェルーズ」は「ソフト」な誘惑であり、「クルーエル インテンションズ」は「ハード」な誘惑なのです。(不倫のような)危険に誘惑されるのと、(純真無垢からくる)残酷さで誘惑される違いです。
更に言うと、この香りが発表された2007年時点において、キリアン・ヘネシーは前妻のメロニーと結婚生活を築いているのですが、ニューヨークにブティックをオープンの際に、現在の妻となるエリザベス(バーグドルフ・グッドマンのビューティ・バイヤー)と出会い、彼女は2008年からキリアンのアメリカのCEOになります。
つまりは、この二つの香りが、キリアン・ヘネシー自身の「危険な関係」を生み出したわけなのです。結果的にメロニーと離婚し、エリザベスも夫と離婚。そして、2人は2014年に再婚するのです。
香水データ
香水名:クルーエル インテンションズ
原名:Cruel Intentions
種類:オード・パルファム
ブランド:キリアン
調香師:シドニー・ランセスール
発表年:2007年(廃盤)
対象性別:ユニセックス
価格:日本未発売
トップノート:ベルガモット、ラズベリー、メイローズ、サフラン
ミドルノート:アフリカ産オレンジ・フラワー、ガイアックウッド、パピルス、ヴァイオレット、トンカビーン、ハイチ産ベチバー
ラストノート:アンバー、ムスク、サンダルウッド、スティラックス、バニラ、カストリウム、アガーウッド、パチョリ