女性の最高の武器は、〝神秘性〟
ブリジット・バルドーのファッションの面白さとは、近いようで遠く、実際にはそれほど遠くもない所にあります。この作品のBBファッションに共通するのが、「何を考えているのかわからない」人物像を反映している所にあります。
そして、この主人公は、絶対にファッション雑誌などには興味がなく、アートブックや哲学書ばかり読んでそうであり、そう思わせているところに、彼女の魅力は存在するのです。
バルドーの魅力とは、決してファッション誌やショーに興味がなさそうなはすっ葉な所から生まれているのです。であるにも関わらず、ココ・シャネルからドレスをデザインしてもらい、プレゼントしてもらった1961年の暮れのある日のことを自伝に、「メルシー、シャネル。あの日の贈り物を私は生涯忘れない」と書くわけなのです。
プチプラコーデに夢中になる人も、ラグジュアリー・ブランドに夢中になる人も本質は同じです。それは神秘性の欠如です。バルドーは、私たちに思い出させてくれます。女性の最高の武器は、神秘性なのよと。だから彼女は、ヒールのないレペットのバレエシューズを履き、ある瞬間までは全く自分自身のセクシーさを誇示しないのです。
そんなバルドーが、ふとした瞬間にセクシーさを発散させるからこそ、BB(=Bebe=赤ちゃん)なのです。つまるところ、ファッションのふり幅が、女性に神秘性を生み出し、人々を夢中にさせるのです。常に見せることは、見せていないも同然であり、異性からすぐに飽きられる存在になるということなのです。
カミーユ・ルック2
ノースリーブワンピ
- ペールグリーンにグリーンドットのノースリーブワンピース(少しチャイナドレス風)
- ネックラインとヘムに凝った刺繍
- ルック1と同じネイビーのカーディガン
- ハイヒールサンダル
ゴダール映画史上最も予算が豊富な作品
出演することによって失うものも多いだろうが、得るもののほうが大きいだろうと思い、自分自身のために賭けをするようなつもりで出演した。
ブリジット・バルドー自伝
バルドーが、ゴダールに何回もダメだしされ、20回も撮りなおししたシーンで、何がいけないのかと問うと、「あなたの歩き方がアンナ・カリーナに似ていないからだよ」とゴダールは答えました。この作品は、唯一のゴダール×バルドーの作品であり、60年代前半のヌーヴェルバーグ×バルドーという稀有な空気感がそこにはあります。実に居心地の悪そうなブリジット・バルドーを見ることが出来る唯一の作品でもあります。
しかし、この中には、まぎれもなく時代を超えるアートセンスに満ちた色彩感覚と、60年代の本質を知りたいと願う若き創造主たちにとってマストな世界観がすべてを支配しています。
そこにあるのは、ミニマルの本質であり、省略の美学であり、ハッタリにも似たいかがわしさであり、ダサいことをいかにカッコ良く見せるかという凡庸さを振り切った超越感です。ここにヒントは隠されています。ミニマルとは、色彩と配置の美学であり、ファッションにおけるミニマムも同じくなのです。
カミーユ・ルック3
ピンクカーディガン×グレープリーツ
- サングラス
- ピンクのカーディガン。グレー×白のラインが所々に
- グレーのプリーツスカート
- 白のバレエシューズ
カミーユ・ルック4
カプリーヌ×スカート
- 白のカプリーヌ。縁にネイビーのパイピング
- 半そで、ネイビーハイゲージセーター
- ルック3と同じグレーのスカート
- ローヒールサンダル
バルドーを知ることから、女ははじまる。
ジュリー・オードンが出演した、2006年のシャネルの「ルージュ・アリュール」のCMで、ジョルジュ・ドルリューの「カミーユのテーマ」と共にオープニングシーンが再現されました。
「鏡越しに私の足が見える?きれいだと思う?足首は?膝は?太ももは?鏡にお尻は写ってる?お尻はいい形?・・・」とカミーユが夫に延々尋ねていくシーンです。
ブリジット・バルドーという存在の不思議さ。1973年に40歳を目前にして女優を引退し、決して復帰しない人。一人の女性の存在が、21世紀に入っても影響を与え続けている数少ない「生きる伝説」。
「私は人から押し付けられた服は着ない」という強烈な自我と個性が生み出すブリジット・バルドーという「女性が憧れる女性像」。
一人の少女が「ホンモノの女」になるときに必要なのは、「ホンモノの男」とブリジット・バルドーを知る心なのです。そんな心を養う女っぷりを磨く美容液としての、ファッション感度の高い映画。それがこの『軽蔑』なのです。
この作品はストーリーを見る映画ではなく、バルドーを吸収する映画なのです。さぁ、あなたも赤いバスローブ一枚のバルドーに蹴られましょう。
作品データ
作品名:軽蔑 Le Mépris (1963)
監督:ジャン=リュック・ゴダール
出演者:ブリジット・バルドー/ミシェル・ピコリ/ジャック・パランス