ベージュ
原名:Beige
種類:オード・パルファム
ブランド:シャネル
調香師:ジャック・ポルジュ
発表年:2016年
対象性別:女性
価格:75ml/33,000円、200ml/57,200円
公式ホームページ:シャネル
ベージュ・カラーの持つ魔性
私はベージュに安心感を感じます。なぜなら、それは永遠の優雅さの象徴でありながら、最もナチュラルな色だからです。それは決して時代遅れにならない色なのです。
ココ・シャネル
2007年にシャネルのプレステージ・コレクションとして「レ ゼクスクルジフ ドゥ シャネル」がスタートしました。そして、2008年9月に「ベージュ」(オード・トワレ)が、シャネルの3代目専属調香師ジャック・ポルジュの調香により発売されました。
「ベージュ」の名は、ココ・シャネルが、最も愛したカラーからです。それは人間の肌のカラーであり、パンプスや口紅においても、清純から妖艶までののふり幅を持つ、魔性の力を発揮するカラーなのです。
ファッションのスタイリングにおいても、ベージュは、かなり手強いカラーです。それはまさにファスト・ファッションにおける天敵とも言えるカラーであり、ラグジュアリー・ブランドにとっては踏み絵とも言えるカラーです。
つまりは無限のバリエーションを持つからこそ、無限の凡庸さと無限の可能性を持つカラーなのです。
そして、ある女性がこのカラーの力を手にしたならば、それは万人に愛される存在になったも同然なのです。つまりは、自分の奥様には、あまり上手にベージュを手なずけてはほしくないほどに、人類史上最強にモテてしまうカラー、それがベージュなのです。
1940年に生み出された幻の香り
この香りのオリジナルは、エルネスト・ボーにより調香され、1940年にシャネルから発売された通称「トリコロール・コレクション」のうちのひとつ「ベージュ」です。この香りは、アンバーグリスとオークモスをベースに、トップノートにアイリス、ミドルにジャスミンを配したフローラルの香りでした。
2008年に生み出された「ベージュ」のどの部分に、このオリジナルの要素が色濃いのかは、言及されていないので分かりません。
西洋サンザシ(バラ科、5月の花、黄色のおしべから蜂蜜のような香り)とフリージア、プルメリアの柔らかいフローラルに、ふんわりと甘い花蜜のようなハニーを添えた〝白い花束とイエローゴールドの輝きが混ざり合う〟フローラルブーケからはじまるこの香りは、アルデハイドとアニスにより甘すぎない絶妙な調整が施されています。
その甘すぎない=温かくないベージュの表現が、クールビューティーのためのベーシュという、女性誌に列挙されるような〝優しいベージュを着るお姉様〟とは真逆の方向を示しているところに、シャネルの真骨頂があります。
それでいて、時折みせる表情が、実に優しいのです(ここがこの香りのキラー・ポント!)。まさに下の写真のジャクリーン・ケネディ様のような表情を持つ香りです。
EDTヴァージョンよりも、このオード・パルファム・ヴァージョンは、パウダリーではなく、ハニーの太陽の光のような甘さに円やかに包み込まれます。
女性が本質的に花の香りに強く惹きつけられるのには単純な理由があるらしい。それは花のつぼみには人体と同じ匂いがするからである。この香りこそが、それであり、肌に馴染むというような生易しいものではなく、蜜蜂が花の蜜に集まるように、人を集める蜜肌を生み出す非凡な香りなのです。
シャネルが生み出したツートン・スリングバックシューズ
このシューズは、1957年にココ・シャネルによってデザインされ、シューズ・メーカー、レイモンド・マッサーロにより生み出されました。当時としては画期的なツートンカラーのスリングバックシューズです。
ベージュとブラックという配色の妙が、朝から夜まで使える20世紀の〝シンデレラ・シューズ〟として、一瞬にして、世界中の女性の心を捉えました。そして、シューズ市場に何百万ものコピーシューズを溢れさせることにもなりました。
ココ・シャネルらしいのは、この一足のシューズで、ファッションのカラーコードの常識さえも変えてしまったところにあります。「ベージュとブラックが入った服を選ぶのがこれからの流行です」と言い放ち、ベージュを一瞬にしてモード・カラーの位置に引き上げたのでした。
シャネルとベージュの歴史において、あまり語られることのない偉業のひとつです。
この「ベージュ」は、2016年9月に、オード・パルファム・ヴァージョンが発売され、これが現行品となっています。
この香りを見事なベージュ・ファッションのアンサンブルに合わせると、主張の強いファッションに対して、控えめなエレガンスの結界を張り巡らしてくれます。100人中99人(ルカ・トゥリンは100人中1人に入る)に好印象を与える香りです。
最後にジャック・ポルジュはこう発言しています。「サンザシは、過去を蘇らせる花である」と。それはプルーストを引き合いに出しているのです。
私の記憶では、サンザシが好きになりはじめたのはこのマリアの月(5月)でだった。教会の祭壇に飾られている白いサンザシをみて、その枝は葉の縁飾りで一段と美しくなり、その葉の上には、ちょうど新婦のウェディングドレスのすそのように、まぶしいくらいの純白の蕾が小さな花束になって、ふんだんにばらまかれている。
「失われた時を求めて」マルセル・プルースト
ルカ・トゥリンは『世界香水ガイド』で、「なつかしのフランス」と宣言し、「ベージュが売り出されると聞いたとき、どうしてシャネルはそんな冴えない名前を選んだのかとふしぎに思った。」「そして結局は、ベージュという名には不釣り合いな、おもわず笑ってしまう香水が発表されるに違いないと思っていた。しかし違った。ベージュはまさに、廃棄されリサイクル集積所に積まれたコンピューターのモニターの色。」
「時代遅れで陰鬱な「マ・グリフ」「レールデュタン」「クリマ」などを足して平均値をとった香りだ。しかも、凡庸さを補う高級な原材料も使われていない。素材の高級感こそシャネルの命なのに。まったくの駄作だ。」と2つ星(5段階評価)の評価をつけています。
香水データ
香水名:ベージュ
原名:Beige
種類:オード・パルファム
ブランド:シャネル
調香師:ジャック・ポルジュ
発表年:2016年
対象性別:女性
価格:75ml/33,000円、200ml/57,200円
公式ホームページ:シャネル
シングルノート:西洋サンザシ(バラ科)、フリージア、プルメリア、蜂蜜