シルク・シャツの誘惑
トニー・モンタナ・スタイルの肝は、優雅なシルクシャツにあります。日本においても一定レベル以上のシルクシャツは、10万円台の金額となります。その上、扱いにおいて、最上級の難易度を要します(さらに寿命は短い)。
軽やかで優雅なシルエットと色合いが出せる分だけ、変色と臭いに対するケア、洗濯不可、しみがつきやすく、虫に食われやすいという快適さと不便さが同居したファッションの本質をもっとも体現するようなシルクという素材を身につけることは、まさに〝王の特権〟なのです。
トニー・モンタナのいかにもチンピラのような振る舞いの中に、有無を言わせぬ威厳が漂うのは、シルクが生み出す優雅なシルエットゆえなのです。
エイブラハム。裏切り者がよく似合う男
この作品において、トニー・モンタナに対する嫌な奴っぷりにより、強烈な存在感を見せつけてくれるオマーを演じたF・マーリー・エイブラハム(1939-)は、この時、アカデミー主演男優賞を獲得することになる『アマデウス』(1984)に同時撮影していました。
そのため撮影中にハリウッドからプラハへ四往復していました。それにしても、彼の黒のシルクシャツと、トニーの赤のシルクシャツのコントラストが素晴らしいです。
トニー・モンタナのファッション8
ホワイトスーツ
- ライトクリームのダブルスーツ、ピンストライプ、ピークドラペル、ベントレス
- レッド・シルクシャツ、スプレッドカラー
- 同色のポケットチーフ、白のポルカドット入り
- コードバン・ベルト
- コンコルドのデリリウム マリナー
- コードバン・レザーのプレーン・トゥ・レースアップシューズ
- レッドシルクソックス
- 2つのイエローゴールド・ネックレス
アレハンドロ・ソーサ
コロンビアの麻薬王ソーサのファッションは、控えめなベージュのウインドブレイカーとリネンシャツと白のスラックス。あくまでも主張しすぎないファッションの中に、ワンポイントとしてホワイト・ラインを入れていくところに大物のゆとりと風格を感じさせます。
真にリッチなスタイルとは、上から下まで〝汚れの目立つ〟色を選び、清潔感たっぷりにコーディネイトしていくところにあります。つまり、リッチにみせたければ、黄金や宝石や派手なブランドの服を着るよりも、白とベージュとブラウンでファッションを組み立てていくほうが効果的なのです。
ソーサのこのファッションはその典型です。
21世紀の男たちに今最も必要なもの。
トニー・モンタナのこの物語には、たとえ進む道の果てが〝破滅への道〟であろうとも、壮大なスケール感があります。女性にとって、絶対に惚れてしまう男性とは規格外の男性です。それは、我が道を進み、泥水をすすりながらも、絶えず前進する意思を見せ、自らの信ずる山の頂へと邁進する男の姿です。
確約されたものになぞ興味のない男性に、女性はとてつもない母性本能を感じるものなのです。
トニー・モンタナと80年代~90年代のアル・パチーノ(40~50代の役者としての新境地を創造した)にはその爆発的な規格外の存在感がありました。
トニー・モンタナのファッション9
グレー・ダブルスーツ
- グレーのシルクのダブルスーツ、ピークドラペル
- ホワイト・オン・ホワイト・ストライプ・シルクシャツ、スプレッドカラー、テッド・ラピドスのようなポインテッド・タブカフス
- 白のサテンのポケットチーフ(後に黒シャツに黒のカーチーフ)
- タン色のパテントレザーのキャップ・トゥ・オックスフォード
作品データ
作品名:スカーフェイス Scarface (1983)
監督:ブライアン・デ・パルマ
衣装:パトリシア・ノリス
出演者:アル・パチーノ/ミシェル・ファイファー/スティーヴン・バウアー/ポール・シェナー
- 【スカーフェイス】トニー・モンタナ帝国とアル・パチーノ
- 『スカーフェイス』Vol.1|アル・パチーノとアル・カポネ
- 『スカーフェイス』Vol.2|アル・パチーノとアロハシャツとチェーンソー
- 『スカーフェイス』Vol.3|トニー・モンタナと世界で最も薄い高級時計
- 『スカーフェイス』Vol.4|トニー・モンタナと『白と赤の美学』
- 『スカーフェイス』Vol.5|アル・パチーノ=トニー・モンタナ愛用香水
- 『スカーフェイス』Vol.6|アル・パチーノのトニー・モンタナ伝説
- 『スカーフェイス』Vol.7|ミシェル・ファイファーのショートボブ
- 『スカーフェイス』Vol.8|ミシェル・ファイファーのディスコ・ドレス
- 『スカーフェイス』Vol.9|ミシェル・ファイファーの元祖ウェイフルック