【007 ゴールデンアイ】
GoldenEye 前作『007 消されたライセンス』(1989)以降、ベルリンの壁が崩壊し、冷戦が終結し、世界情勢は劇的に変化を遂げる中で、007シリーズはもはや時代から取り残されつつありました。21世紀に向けて古くから長く続くものより、新しいものが持て囃される時代になっていました。
そんな中、007シリーズ第17作として、6年ぶりに作られたのがこの作品でした。そして、この作品から、1987年にTVドラマの契約問題により幻の四代目ボンドになってしまったピアース・ブロスナン(1953-)の五代目ジェームズ・ボンド就任となったのでした。
「失敗すれば、007の歴史に終止符を打ちます」という悲壮な決意の元、アルバート・R・ブロッコリの娘バーバラ・ブロッコリらにより製作された本作は、あらゆる面で妥協のない作品でした。この作品から、ボンドスーツは、イギリスのテーラーではなく、ファッション・ブランドに任されることになります。そうですブリオーニを着たジェームズ・ボンドの誕生です。
ブロスナンのボンドほどスーツを戦闘服に変えたボンドはいませんでした。そして、バランス良くロジャー・ムーア時代の〝敵と遭遇してにっこりと会釈〟パターンも継承し、スパイ=秘密諜報部員の007から、世界を守る男へと脱皮を遂げていったのでした。
本作から登場する女性のニューMを演じるジュディ・デンチ(ローレンス・オリヴィエ賞を7度受賞したシェイクスピア劇を神であり、『恋におちたシェイクスピア』でアカデミー助演女優賞受賞者)の存在感も素晴らしく、厳しい女性の上司に認められようと頑張るボンド像も新鮮でした。
結果的に『007 ムーンレイカー』が持つシリーズ最高の興行成績を塗り替える大ヒットとなり、ここに007シリーズは奇跡の復活を遂げることになるのでした。
あらすじ
ソ連崩壊前の9年前に、ソ連の化学兵器工場に潜入したジェームズ・ボンド(ピアース・ブロスナン)は、006ことアレック(ショーン・ビーン)と合流し、工場の爆破を目論見ます。しかし、アレックは見つかり、ウルムフ大佐により射殺されてしまいます。
ボンドも同じ目に会う危機一髪のところで大脱出し、更に、工場も見事爆破したのでした。そして、9年の月日が流れ、モナコのカジノで謎の美女ゼニア・オナトップ(ファムケ・ヤンセン)と出会います。翌日、フランス海軍によりお披露目された最新鋭のタイガーヘリが、その場で、変装したオナトップと、ソ連崩壊後、新生ロシアで将軍に昇格していたウルムフにより強奪されてしまいました。
オナトップとウルムフは、タイガーヘリで北極圏のロシアの宇宙兵器管理センター・セヴェルナヤ基地を襲撃し、〝ゴールデンアイ〟と呼ばれる軍事衛星兵器を手に入れます。手始めにセンターが破壊され、天才プログラマーのボリス(アラン・カミング)と二級プログラマーのナターリア(イザベラ・スコルプコ)以外は全員殺害されてしまうのでした。偶然生き残った二人は別々に逃亡しました。
一方、オナトップの正体が国際的な犯罪組織ヤヌスの殺し屋であることが判明し、ボンドはM(ジュディ・デンチ)から命じられロシアへと向かいました。その後、オナトップに襲撃されるも逆に捕獲し、ヤヌスの首領へと案内させるのでした。そして、実は死んだはずのアレックが生きており、ボンドの常に一歩先を行くその行動力によりヤヌスを作り上げたことを知るのでした。
アレックに捕まえられたボンドは、タイガーヘリに(別の場所で捕獲されていた)ナターリアと共に閉じ込められ、ミサイルで殺害されるすんでの所で脱出します。ナターリアこそが、センターの生き残りであることを知ったのも束の間、二人はロシア軍に拘束されてしまいます。
ヤヌスと結託していたウルムフ将軍によって、ロシア防衛大臣の尋問中に殺害されかけたボンドは、人質として奪われたナターリア救出のためT54戦車でサンクトペテルブルクの街中を暴走し、遂に、アレックとウルムフが合流した装甲列車基地へと乗り込みます。無事、ナターリアを救出し、ウルムフを射殺するも、アレックには逃げられてしまいます。
ボンドとナターリアは、ヤヌスの秘密基地に乗り込むべくキューバへと潜入しました。センターの生き残りであるボリスを部下にし、オナトップという殺し屋を配下に置き、磐石の態勢でゴールデンアイを使いロンドンの銀行から大金を強奪しようとしているアレックの計画を、果たして二人は阻止することができるのでしょうか?
ファッション・シーンに与えた影響
五代目ジェームズ・ボンド=ピアース・ブロスナンが誕生した作品であり、真剣な表情が生み出す男のダンディズムと、美女を見ると鼻の下を伸ばすギャップが、これ以上ないほどに理想的とも言えるボンド像を生み出しています。
この作品がファッション・シーンに与えた影響は二つあります。
- ボンドムービー史上はじめてラグジュアリー・ブランドがボンドスーツを仕立てた記念碑的作品。
- ボンドウォッチとして定着していくオメガが登場した作品。
この作品以降、ブロスナン=ボンドは、最もスーツを愛するボンドとして、ジェームズ・ボンド=ボンドスーツというイメージを決定付ける役割を果たすことになりました。
作品データ
作品名:007 ゴールデンアイ GoldenEye(1995)
監督:マーティン・キャンベル
衣装:リンディ・ヘミングス
出演者:ピアース・ブロスナン/イザベラ・スコルプコ/ファムケ・ヤンセン/ショーン・ビーン/アラン・カミング
- 【007 ゴールデンアイ】五代目ニュー・ボンド=ピアース・ブロスナン登場。
- 『007 ゴールデンアイ』Vol.1|五代目ボンド=ピアース・ブロスナン登場
- 『007 ゴールデンアイ』Vol.2|ブリオーニを着るピアース・ブロスナン
- 『007 ゴールデンアイ』Vol.3|イタリアンスーツがニューボンドの戦闘服
- 『007 ゴールデンアイ』Vol.4|ピアース・ブロスナンとオメガとBMW
- 『007 ゴールデンアイ』Vol.5|サンローランの赤リップの殺し屋=ファムケ・ヤンセン
- 『007 ゴールデンアイ』Vol.6|ニューM=ジュディ・デンチとファムケ・ヤンセン
- 『007 ゴールデンアイ』Vol.7|KENZOを着るイザベラ・スコルプコ