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【フレデリック マル】リップスティック ローズ(ラルフ・シュワイガー)

フレデリック・マル
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リップスティック ローズ

【特別監修】Le Chercheur de Parfum様

原名:Lipstick Rose
種類:オード・パルファム
ブランド:フレデリック・マル
調香師:ラルフ・シュワイガー
発表年:2000年
対象性別:女性
価格:10ml/6,820円、30ml/18,150円、50ml/23,650円、100ml/34,100円

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女性に生気を蘇らせるリップスティックの魔力

まず最初に、フレデリック・マルはこの香りについて、リタ・ヘイワース(1918-1987)が映画『ギルダ』(1946)で演じたギルダと、イタリアの名女優シルヴァーナ・マンガーノ(1930-1989)といった、現代の女性が見ても、憧れの対象となりうる二人の女性を足して二で割ったような香りだと評しています。

それは、ギルダのように官能的な笑顔を生み出すリップスティックと、シルヴァーナのような無表情のルックスに、妖艶さを潜ませるリップスティックが生み出す魔物をボトルの中に封印した香りとも言えます。

それにしても、最後の二つの動画のシルヴァーナ・マンガーノが素敵です。ルキノ・ヴィスコンティ達が監督した『華やかな魔女たち』(1967)なのですが、疲れきった二日酔いの中年女性が、オーラ全開の女優に生まれ変わる瞬間などはこの香りのテーマそのものです。
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マリリン・モンローのリップスティックの香り


バウダリーでとても心地よい効果が得られますが、この香りには、遊び心もあって、若々しいのです。

フレデリック・マル

2000年に、フレデリック・マルが創業するにあたり、8人の調香師の蒼々たる顔ぶれに満足していたのですが、ひとつだけ足りないものがあることに気づきました。それは、未来を感じさせる若手調香師の存在です。

そして、自分自身が、所属していたジボダン社の調香師が、一人もいないことも気になりました。かくして、友人を通して、ジボダンの若手調香師たちが作った香りの中から9番目の香りを選ぶべくブラインドでコンペティションを開いたのでした。

最終的にマルが選んだ香りは、リップスティックの香りでした。それは調香師自身が、おめかししたお母さんのキスが大好きだった、幼き日の想い出からインスパイアされた香りでした。

それはまた50年代のハリウッド女優(特にマリリン・モンロー)からインスパイアされた香りでした。そんな微笑みかけるリップスティックの香りは、ラルフ・シュワイガーにより調香されました。

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シンプルに存在感のある美を生み出せる香り

コンスタンティン・カカーニアスがこの香りをイメージして描いた真っ赤なルージュのイラスト。

私にとって美とは、自分の肌に自信を持つこと。もしくは、最高の真っ赤なルージュよ。

グウィネス・パルトロウ

フレデリック・マルの香りは、間違いなく素晴らしい品質を誇っています。そのため絶対に避けなければならないことは、マルの香りとの僅か数時間のランデブーで、すべてを決めてはいけないということです。

香水の素晴らしさは、絵画のようにその魅力を知性と感性で受け止めるのではなく、全身で受け止められるところにあります。そして、この「リップスティック ローズ」は、品質の良いピンヒールを履いた後のように、全身に女性として生を受けたことに対する喜びを受け止めることができる香りとも言えます。ピンクと言うよりは真っ赤なルージュそのものの香りです。

まず最初に、この香りについて的確な説明は、正しい真っ赤なルージュの塗り方を知ることからはじまります。

  1. まず最初に、真っ赤なルージュ以外の他のメイクはシンプルにすること。特にアイメイクや眉毛はやりすぎない。
  2. リップクリームをつけてから、薄くファンデーションを塗る。
  3. さらに乾いたファンデーションの上に、リップスティックが持続するように、フェイスパウダーを上塗りする。
  4. ルージュの色とマッチするペンシルで、自分の唇の自然なラインの上にリップラインを引く。
  5. 薄くリップスティックを塗る。
  6. 上唇と下唇を優しく重ねて、色をなじませる。
  7. もう一度、リップスティックを塗る。

この香りは、そういった正しい真っ赤なルージュの塗り方を知り尽くした女性から解き放たれる呪はしい香りなのです。

あくびしながらでも世界中の男性を魅了するその唇に塗られた真っ赤なルージュを連想させるローズとヴァイオレットに、フレッシュなグレープフルーツが振りかけられるようにしてこの香りははじまります。

すぐに、グレープフルーツは、スパークリングするアルデハイドと結びつき、ミステリアスに艶やかさを放ちます。そして、アイリスとバニラ(バニリン)とラズベリーが真っ赤なルージュに魔性の魅力を生み出すための生贄の香りとも言えるリップクリーム、ファンデーション、フェイスパウダー、ペンシルもろもろの香りで奥行きを与えていきます。

無邪気に翻弄するようなラズベリーの甘い囁きは、ローズとヴァイオレットのクラシカルな優雅さとのコントラストを鮮明なものにし、もはやこの唇の艶やかさから逃れられないという諦めを与えるほどに、パウダリーさの渦の中で、喉も涙も心もカラカラになるような絶望感を与えてくれるのです。

ドライダウンの中、ベチバーとホワイトムスクが生み出す柔らかくもクリーンな空気がこの香りを、鼻腔に吸い込まされたパートナーの心に、ひとつの決意を促せるのです。願う心はただひとつ。早く彼女の唇から解き放たれる唾液で、すべての渇きを癒してほしいと願う心だけです。

ちなみに、ラルフの母親が愛用していた香りがランバンの「アルページュ」だった記憶が、トップのアルデハイドへとつながっているのです。そして、彼自身が最初に購入した香りはグレープフルーツの香りでもあるグタールの「オーダドリアン」でした。
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そしてピンナップガールの香りでもある


「リップスティック ローズ」それはマリリン・モンローの香りであるだけでなく、同時代(40~50年代)に描かれたピンナップガールの女性たちのリップスティックのようでもあります。どこまでも女性の魅力を、軽薄なまでに誇張したスタイル。それはSNSで若い女性が、スマホの前で必死に女子力を演出しているあのあざとさの原型なのです。

そういうあざとさが好きな世代にこそぴったりの香りともいえます。

女性にとって、リップスティックの色と質感は、その時の精神状態、そして、その日に獲得したい獲物が何かを示すサインなのです。成熟した女性がこの香りを身に纏うと、それはもう、大変なことになるはずです。

あなたが歩いていて、向こうから仲睦まじいカップルが歩いてきました。そんな時にこの香りの効力はマックスに発揮されます。ただそれだけのための香りなのですが、そもそも香りにそれ以上の何を求めるべきなのでしょうか?

キリアンの「ル ルージュ パルファム」を使いながら、この香りを身に纏えば一体どういうことが起こるのでしょうか?想像もしたくありません。

タニア・サンチェスは『世界香水ガイド』で、「パウダリーなローズとバイオレットはフランス製安物の口紅のよう。」「カルティエがドラッグストアのブローチをコピーしているかのようだ。ユーモアのセンスがある香水を見つけるのはむずかしい。この大げさな感じに思わず笑みがこぼれる。」と3つ星(5段階評価)の評価をつけています。

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さらに『パリ、テキサス』の香りでもある

人がセクシーになる方法がたくさんあるように、香水がセクシーになる方法もたくさんあります。「ムスク ラバジュール」がセクシーなのは、温かみがあり、そこにはアンバーがあり、生々しいセックスのようなアニマリックが存在するからです。

一方、「ポートレイト オブ ア レディ」は、より繊細に、ローズの香りがロマンティックにあなたを抱き寄せるのです。「リップスティック ローズ」はギュッと抱きしめ合うようです。マシュマロの中身のように、官能的でソフトな感じがします。

フレデリック・マル

さらには、真っ赤なルージュだけでなく、ヴィム・ヴェンダース監督の1984年の映画『パリ、テキサス』のジェーンを演じたナスターシャ・キンスキー(1961-)を象徴するショッキング・ピンクを連想させる香りだとフレデリック・マルは言っています。

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香水データ

香水名:リップスティック ローズ
原名:Lipstick Rose
種類:オード・パルファム
ブランド:フレデリック・マル
調香師:ラルフ・シュワイガー
発表年:2000年
対象性別:女性
価格:10ml/6,820円、30ml/18,150円、50ml/23,650円、100ml/34,100円


シングルノート:ローズ、ヴァイオレット、バニラ、アンバー、グレープフルーツ、アイリス、ラズベリー、ホワイトムスク