究極のフレグランスガイド!各ブランドの聖典ページ一覧にすすむ
クリスチャン・ディオール

【ディオール】ヒプノティック プワゾン(アニック・メナード)

クリスチャン・ディオール
©DIORBEAUTY
この記事は約8分で読めます。

ヒプノティック プワゾン

原名:Hypnotic Poison
種類:オード・トワレ
ブランド:クリスチャン・ディオール
調香師:アニック・メナード
発表年:1998年
対象性別:女性
価格:不明

スポンサーリンク

世界中の白雪姫たちのための毒リンゴ

モニカ・ベルッチ ©DIORBEAUTY

モニカ・ベルッチ ©DIORBEAUTY

©DIORBEAUTY

1985年に世界中にセンセーションを与え、ディオール帝国の復活の狼煙となった「プワゾン」から9年後の1994年に第二弾となる〝やさしい悪魔〟「タンドゥル プワゾン」が発売されました。そしてその4年後の1998年に発売された〝第三の毒〟それが「ヒプノティック プワゾン」です。

「眠りを誘う毒」という意味を持つこの香りは、1999年7月に〝恐怖の大王〟が地球に降りて来ると人々が信じていた世紀末に誕生した、〝毒の中の毒〟です。

それは1996年にディオールのクリエイティブ・ディレクターに就任したジョン・ガリアーノ(1960-)が、はじめてフレグランスのクリエイションに関わった作品として、プワゾン・シリーズの中でも最高傑作といわれています。この〝毒の中の毒〟は、21世紀の魔女、アニック・メナードにより調香されました。

男性に、キャラウェイという媚薬草を内包したその香りを嗅がせて、二度と私を忘れなくさせる吸血鬼のような香り。それは〝あなたが身に付けるのではなく、香水に選ばれ、取り憑かれるように身に纏う〟妖艶な霊薬のようにミステリアスで抗いがたい〝あなたの悪魔的属性を究極に引き出してくれる香り〟なのです。

そういう意味においては、アニック・メナードは白雪姫の継母である王妃のように、世界中の白雪姫たちのための毒リンゴを調香したのではないでしょうか。この香りに問いかけよ「世界で一番美しいのはだあれ?」と。されば香りは答えるであろう「それはあなたです」と。

いつかディオールは、真っ赤に焼けた鉄の靴のボトルのプワゾンを発売するのだろう。

スポンサーリンク

ジョン・ガリアーノとアニック・メナードの初ディオールの香り

ミラ・ジョヴォヴィッチ ©DIORBEAUTY

メラニー・ロラン ©DIORBEAUTY

メラニー・ロラン ©DIORBEAUT

英国人ではあるが、6歳までジブラルタルで過ごし、母はスペイン人のラテン気質を持つジョン・ガリアーノのファースト・フレグランスは、彼のセント・マーティン時代のコムデギャルソンへの憧れと、ディオールで研ぎ澄ます精神(ディオールのエレガンスにロックとパンクとハードコアなグラマラス・シックを融合させた)を凝縮させたものでした。

学生時代のガリアーノは、全身コムデギャルソンでした。ある日、キングスクロス駅から川久保玲と同じ列車に乗り合わせ、憧れが強すぎて挨拶も出来なかったというこの青年が、ディオールのデザイナーとなり〝コレクションのために徹夜で作業していると、ふとムッシュ・ディオールが見守ってくれているような彼の霊気を感じるときがあるんだ!〟と言い放つほど、ディオールに溺れるようになりました。

そんなガリアーノの〝ディオールに思う存分溺れて欲しい〟という思いが込められています。

そして、アニック・メナードはやって来たのでした。ちょうど同じ時期にブルガリの「ブラック」を作っていた彼女は、いみじくも〝黒の中の黒〟と〝赤の中の赤〟の香りを同時に作っていたことになります。

スポンサーリンク

情熱的なキスを交わさずに、同じ効果を生み出す薫り

©Nima Benati

©Nima Benati

©Nima Benati

そんな〝赤の中の赤=もっとも美味しい毒リンゴ=ヒプノティック プワゾン〟は、生き血をすすった後のような真っ赤な女性の唇から吐き出されたかのようなプラム・リキュールとアプリコット・リキュールが混じり合った〝とんでもなく色香漂う甘い吐息〟からはじまります。

その吐息に、芳醇にビターアーモンドが薫るアマレットとミルキーでアイシーなココナッツ、そしてマシュマロが遭遇するのです。どこか杏仁豆腐を思わせる情熱的な抱擁を感じさせるこの瞬間、〝眠りを誘う毒〟が解き放たれるのです。この毒が危険なのは、身に纏うあなた自身も理性が奪われるところにあるのです。

情熱的なキスを交わさずに、同じ効果を生み出す薫り〟なのです。ここからが本番です。スターアニスとキャラウェイ=媚薬草(スパイシーなパンのような香り)が、強烈な痛みを肉体に与えるメタリックな調教棒のように、最初は嫌悪感を感じさせながらも、甘苦いアマレットと甘辛いプラム×アプリコットリキュールで、理性をよろめきによろめかせ奪い去っていくのです。

そして、サンダルウッドと混ざり合い、淫靡さを増したクリーミーなチューベローズが押し寄せ、煌めくスズラン、インドールを全開に発散するジャスミン、地獄の業火のように華やぐローズといった花々が、競い合うように咲き誇るのです。それはまるで、ゾンビから必死に逃げたあなたがエレベーターの開放ボタンを押した瞬間、エレベーターの中にぎっしり控えていたゾンビの群れに襲われていく瞬間のようです。

どんどんと増してゆく甘美なるビターアーモンドとバニラのグルマンの調べを感じながら、最も下品な性愛行為に夢中になる、貴婦人と紳士の〝背徳の時間〟を身に纏うのです。まさに、もっとも清楚で清らかな佇まいにこそ相応しい香りと言えます。一方で、ボディコンシャスなブラックミニワンピースでこの香りを使用したなら、あなたは吸血鬼になれます。

スポンサーリンク

1999年7月、恐怖の大王降臨。その1年前にやって来た、悪魔の赤林檎。

©DIORBEAUTY

©DIORBEAUTY

©DIORBEAUTY

胸の谷間を誇示するプレイメイトと、マレーネ・ディートリッヒのような隙のないクール・ビューティと、マリリン・モンローのようなハリウッド・グラマラスが、向かいの席で脚を組みながら、あなたをちらちら見ながら、思わせぶりに談笑している夢のようなひとときの香りとも言えます。

日本で現在発売されていない理由がよく分かります。もし「ヒプノティック プワゾン」が日本で発売されたなら、この〝赤い毒リンゴ〟のビジュアル・イメージのエモさもZ世代にアピールし、韓国アイドルがこのボトルを片手に〝さあ、ボクをつかまえてごらん〟というPRを撃ったなら、日本列島に〝ヒプノ旋風〟が巻き起こることでしょう。

ちなみに現在海外で発売されているものは2017年に再調香されたバージョンです。

最後にトム・フォードの「ジャスミン ルージュ」が脛に二つくらい傷のある女のための香りだとしたら、この香りは、〝傷だらけの脛を持つ天使の香り〟とも言えます。

黒いマッシュルームのようなキャップに、ゴールドリングと毒林檎のような真っ赤なボトルが組み合わされたそのデザインは、『悪の果実』のような危険な輝きに満ちています。

フレグランスを、キャンペーン・フィルム、イメージ、ボトルデザイン、ブランド力、そして、香りと総動員して、あなた自身に対する無意識だった未知なる香りの領域に踏み込ませていく危険な香りです。

ルカ・トゥリンは『世界香水ガイド』で、「ヒプノティック プワゾン」を「アーモンドオリエンタル」と呼び、「この香水は敗北の窮地から勝利をつかもうとしている。全身茶色づくめで現われた人がうまくゴージャスに着飾っているのを見たときのように、その美しさにはっとした。」

「プラムで始まり、トップまでのココナッツ、それからバニラ、残香のクマリン、それぞれの間にはヘリオトロピンがいくらか入っている。このひとつひとつのノートがダークでなめらかで柔らかく、秋のように静まり返っている。」

「さらに全体から放たれるのは、名調香師のみが編曲できる、スイングスタイルのコントラバスの六重奏だ。やっぱりだ!アニック・メナードが手がけている。これですべて納得がいく。」と5つ星(5段階評価)の評価をつけています。

スポンサーリンク

香水データ

香水名:ヒプノティック プワゾン
原名:Hypnotic Poison
種類:オード・トワレ
ブランド:クリスチャン・ディオール
調香師:アニック・メナード
発表年:1998年
対象性別:女性
価格:不明


トップノート:アプリコット、プラム、ココナッツ
ミドルノート:チューベローズ、ジャスミン、スズラン、ローズ、ブラジリアン・ローズウッド、キャラウェイ
ラストノート:サンダルウッド、アーモンド、バニラ、ムスク