ステラ
原名:Stella
種類:オード・パルファム
ブランド:ステラ・マッカートニー
調香師:ジャック・キャヴァリエ
発表年:2003年/2014年)
対象性別:女性
価格:50ml /11,770円、100ml/15,620円
ステラ・マッカートニーの初フレグランス
私が最初に記憶に留めたフレグランスは、母がつけていたものでした。母はさまざまな香りを身にまとっていたのですが、とても自然体だったので、私の記憶にはエッセンシャルオイルの香りの方が残っています。
例えば、我が家にはマッカートニー・ローズがあります。母はマッカートニー・ローズをオイルにしてもらい、それをフレグランスとして身につけていました。それがこの香りの大きなインスピレーションの源になっているのです。
私は、人を圧倒するような、複雑で重厚なフレグランスにあまり魅力を感じません。それよりも、あなたが香りを身にまとっているようなフレグランスに惹かれるんです。その香りが、あなたという人間や、あなた自身の匂いを引き立てるのです。
ステラ・マッカートニー
2001年に、クロエのクリエイティブ・ディレクターを退任したステラ・マッカートニーがスタートした自身のブランド『ステラ・マッカートニー』の最初のフレグランスとして、彼女は、亡き母リンダ・マッカートニーに捧げる香りを求めました。
そのきっかけは〝安っぽいパッケージのセレブリティ・フレグランスが氾濫するのを見て、その甘さにぞっとしたからなの〟とのこと。〝私はそれらを嗅ぐと、頭痛に悩まされます。そして、それらの香りがとても安っぽいと感じ、美容業界に、時代を超越した品質を持つフレグランスを提供したいと強く思いました。〟
そのためにイヴ・サンローラン・ボーテの最高責任者であるシャンタル・ルースは、「ロードゥ イッセイ」を共に生み出し、色々なブランドのファースト・フレウグランスを生み出してきたジャック・キャヴァリエを召喚したのでした。
かくして2003年にYSLボーテから誕生したのが「ステラ」でした。ボトルデザインは、アメジスト色のクリスタルボトルがステラ自身によりデザインされました。
ステラは、女性らしく飾らずに生きる自分へのセレブレーションなのです。親しみと官能性を同時に持つことが出来る女性こそ、現代の憧れの女性像なのです。
ステラ・マッカートニー
2003年、ローズ革命前夜の香りが解き放たれた!
私とアマンディーヌは、当時、全く人気がない香りだったローズを再び女王の座へと戻そうと考えたのでした。この香りは当時のトレンドに逆らった香りでした。
ミシェル・アルメラック(「クロエEDP」について)
21世紀の『ローズ革命』は、二段階に分けられます。この香りからはじまる〝革命前夜〟とクロエの「クロエ オードパルファム」によって火蓋が切られる〝革命始動〟にです。
21世紀に入り、すっかり古臭いイメージになっていたローズ・フレグランスに光を当てたのが、この「ステラ」でした。それはシンプルなのですが、ローズの明るさと暗さの二面性を、アンバーによって、女性の二面性を映し出す鏡へと昇華させ〝新しいローズの夜明け〟を感じさせた香りでした。
エルメスの「ローズ イケバナ」(2004)やブルガリの「ローズエッセンシャル」(2006)もその系譜として連なるのですが、これらの香りによって、『モダンローズ』がはじまるのです。それはどこか凛とした佇まいを見せておられ、その横顔に気品が伺える〝薔薇の厳粛さと美しさ〟を表現した香りです。
それが、2008年に誕生した「クロエ オードパルファム」によって、そのベースにずっと漂っている石鹸のようなムスクの香りが、清潔感を感じさせ、〝石鹸ぽい〟とか〝お風呂上がりのよう〟、ひいては〝女の子の家の匂い〟を思わせ、どこか線の細い日本人男性が〝近付きたくなる女の子〟のような香り。つまりは、先の三つのローズ・フレグランスが漂わせる、〝日本人男性が近寄り難い女性像〟のイメージを覆したのでした。
だからこそ、男の子がドキドキする香りであり、そのドキドキは、まさに〝女の子〟のお家にあがった錯覚に陥るような感覚を生み出すところにあるのです。かくして『ローズ革命』の扉は開かれたのでした。
ステラがこの香りを生み出す時に、参考にした写真とは?
香りはとても大事。メモリーと結びつくものでしょ。私の母や祖母の記憶のように、エレガントな香りを作りたかったの。クラシックなローズをベースに、セクシーでマスキュランなアンバーをミックスして。
エドワード・スタイケンの、朽ちていく薔薇を撮った写真にすごくインスパイアされたわ。花は頭をたれて、今にも落ちそうで、生と死の間にある。強さともろさ、美と壊れやすさがバランスを保っている……そんな ニュアンスを表現したかった。
そしてボトルもパッケージも、置いた時にオブジェとして素敵じゃないとダメ。使い終わっても大事に取っておきたいと思うようなクオリティを実現したつもりよ。
ステラ・マッカートニー(ヴォーグニッポン2006年4月号より)
バラの花びらが落ちていく瞬間の香り
私のすべての作品には、男性的なものと女性的なものの関係がとても深く刻まれています。だから、この香りにおいても夫がつけているグレイアンバーのセクシーな香りを盛り込むようにお願いしたの。
ステラ・マッカートニー
『モダンローズ』のはじまり。〝薔薇の厳粛さと美しさ=時代を超える美〟が躍動するその喜びの瞬間を、素肌に投影させる香りは、朝露が輝くピュアローズに、可憐なピオニーとフレッシュなマンダリン・オレンジが遭遇する情景からはじまります。
すぐに、ピュアローズは、自らの美しさを確信し、華やかに咲き誇るのです。それはまるで普段は着物を着て、凛とした佇まいがとても素敵な女性が、不安げにローズピンクのタイトなミニドレスに身を包み込む瞬間のようです。
すぐに、彼女は、周りの羨望の眼差しを感じ、和装から洋装により解き放たれた〝軽やかな女性らしさ〟を惜しみなく弾け出してゆくのです。
親しみやすさよりも、高嶺の花の気高さ。しかし、古めかしいのではなく、きわめて軽やかでモダンなのです。つまりドライに乾くのではなく、ずっとウェットなピュアローズが最初から最後まで静かに咲き、やがて美しく散るのです。
着こなしひとつで下品にもなるミニドレスを、上品に着こなすように、清潔感と気品を与えてくれるピュアローズは、軽やかでアクアティックスパイシーなティーローズとなり、すぐにアンバーが注ぎ込まれ、ワインのように円やかにダークローズが優しく広がってゆきます。
それはどこかこの香りが生み出された当時のステラ・マッカートニーのコレクションでイメージされていた(そして、現在の彼女のクリエイションにおいても継続されている)飾らない女性の魅力をエレガンスへと昇華させていくようでもあります。
やがて、ステラが、キャヴァリエに直接要求したという〝バラの花びらが落ちていく瞬間〟の感情を呼び覚ます、息をのむほど美しくも哀しい、壮麗さと温かみの共存に身を委ね、素肌に溶け込みひとつになるのです。
一度見たら忘れられないララ・ストーンの広告イメージ
私は、カントリーサイドのオーガニック・ファームで育てられたので、ローズはとても身近な存在でした。なのでちょっとこだわりがあります。私にとってローズは見た目ではなく、香りが重要です。私にとってはバラは香りが命なのです。
ステラ・マッカートニー
2009年には、キャンペーン・モデルとして、ポーランド出身のスーパーモデル、アナ・ヤゴジンスカ(1987-)が起用されました。
そして、2014年のリローンチ・キャンペーンには、ステラの友人であり、出産したばかりのオランダのスーパーモデル、ララ・ストーン(1983-)が起用され、マート・アラス&マーカス・ピゴットにより撮影されました。ムービーでは、女性ロックバンド・ウォーペイントの『Disco/Very』をバックミュージックに、トレードマークの前歯を強調したナチュラルな女性像を提示しています。
タニア・サンチェスは『世界香水ガイド』で、「ステラ」を「老練なムスク」と呼び、「「ナルシソ ロドリゲス フォー ハー」やサラ・ジェシカ・パーカーの「ラブリー」の路線のフローラルムスク。でも誘惑するようなホワイトフラワーではなく、いかめしいローズだ。ステラは、やたらと「NO」を連発してしまう女性のためのフレグランスである。」
「公開されている情報と出来上がった香りから判断するに、ステラ・マッカートニーは、ローズが好きだということを伝え、それから長い、NOリストをはっきりと提示したのではないかと思う。派手なのはNO。甘いのもNO。重たいのもNO。なぜなら、かすかにざらつくピオニーがはじめに香った後は、遠慮がちになってしまうからだ。おとなしくソルティなパチュリムスクが不満をかわすために配されていて、明らかに香水ではない。ただこの香り、男性にはOKなこと請け合い。」と3つ星(5段階評価)の評価をつけています。
香水データ
香水名:ステラ
原名:Stella
種類:オード・パルファム
ブランド:ステラ・マッカートニー
調香師:ジャック・キャヴァリエ
発表年:2003年/2014年
対象性別:女性
価格:50ml /11,770円、100ml/15,620円
トップノート:ローズ、ピオニー、マンダリン・オレンジ
ミドルノート:ローズアブソリュート
ラストノート:アンバー、ウッディノート