ココ・シャネル様との友情がヴィスコンティ様のファッション感度を高めました
コスチューム・デザインを担当したピエロ・トージ(1927-)は、2013年にアカデミー名誉賞を受賞しています。ヴィスコンティ監督の『ベリッシマ』(1951年)から『夏の嵐』(1954年)『白夜』(1957年)『若者のすべて』(1960年)『山猫』(1963年)『華やかな魔女たち』(1966年)『異邦人』(1967年)『地獄に堕ちた勇者ども』 (1969年)『ルートヴィヒ』(1972年)『家族の肖像』(1974年)『イノセント』(1976年)とほぼ全作の衣装を担当しています。他にも『昨日、今日、明日』(1963年)『紳士泥棒 大ゴールデン作戦』(1966年)『王女メディア』(1969年)『愛の嵐』(1974年)『ルー・サロメ/善悪の彼岸』 (1977年)といった他監督の作品の衣装を担当し、クラウディア・カルディナーレ様や、シルヴァーナ様といったイタリア人女優の信頼を集めていた方です。
シルヴァーナ様のドレスは、全てヴィスコンティ様の母親が来ていたドレスを参考に作られました。ヴィスコンティという人は、ココ・シャネル様に見初められ、映画監督になった人だけあり、ファッション感度が驚異的に高く、彼の感性を忠実に再現出来る人が、ピエロ・トージだったと言われています。
役者が自分の潜在能力を引き出せる環境
フェリーニは全てセットでやってしまう。なぜならセットのローマの方が、実在のローマよりも、よりリアルなローマの幻想を作り出すことが出来るからだ。・・・フェリーニの意図するものをすべて表現しつくすためで、逆に言えば、フェリーニの意図しないものはいらないのだ。・・・対してヴィスコンティができるだけ本物を使うのは、過去の時代に役者を連れて行って、そこで生きさせるためだ。・・・ヴィスコンティの空間では、私たちに見えている一枚の扉を開けるともう一つの部屋があるように感じられる。彼はしばしば、三台目のカメラを置き、偶然性を拾いあげようとする。 『ヴィスコンティ集成』
ヴィスコンティ様は、黒澤明監督と同じように、撮影にあたり、全て本物を使わないと納得しなかった人です。この映画においても、登場する貴族のエキストラは、全員ヴィスコンティ様の友人の貴族です。更に調度品は、全て、自分の物かそういった友人から借りたものであり、レプリカは一品たりとも存在しません。
ポーランド貴婦人ルック2
- エクルベージュのロングコート。2つボタン。ウエストラインのくびれ
- 白のレースで作られたハイカラー付きのブルーブラウス
- エクルベージュのロングスカート
- ダークブルーのフェザー付きハット
- エクルベージュのレザー手袋
貴族のみが貴族の習性を知る
ヴィスコンティ様の、狂気に近い、映像にかける情熱を感じさせるエピソードを挙げるとするならば、ルイ・ヴィトン社に1910年代のスーツケースのレプリカを特注し、その中に、アッシェンバッハが着るであろう衣装一式(映画の中で映す予定のないもの)や櫛、ブラシ、マニキュアセット、それに当時の日付の消印が押された切手を貼った手紙までもが入れられていたことです。「映画の中の人生を生きることは、自分自身が演じるものに精神的に同化することが一番である」というのが、ヴィスコンティ様の持論であり、ダーク・ボガードさんはその考えにいたく感銘を受けたと言います。
どの映画を見ても、どうしてヴィスコンティ様は貴族を描くのが巧みなのでしょうか?他の作品では取るに足らない俳優でも彼の映画に出演すれば、輝き出す秘密は何かと考えたときに、その答えが、先ほどの一言にあるのではないでしょうか。ファッションは、その人の生き方をも左右するという、ココ・シャネル様の影響を強く受けている人、それがヴィスコンティ様なのです。
ポーランド貴婦人ルック3
- ロングジャケットとスカートのベージュスーツ。ディテールにブラックが使用されている
- ベージュのグローブ
- レースのヴェール付きの麦藁帽子
- 黒のレザーショートブーツ